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新大久保「伝説ラーメン店」に出会って人生一転 元歌舞伎町ホストが常連に叱咤激励されながら紡ぐ伝説のDNA【連載】ラーメンは読み物。(3)

  • 2021.9.10
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雨後のタケノコのごとく生まれ、そして消えてゆく都内のラーメン店。そんな激しい競争を勝ち抜いた名店を支える知られざる「エネルギー」「人間力」をフードライターの小野員裕さんが描きます。

かつて「めとき」というラーメン店があった

新大久保にかつて、永福町大勝軒(杉並区和泉)系列のラーメン店「めとき」がありました。褐色の醤油スープはほどよい煮干しの香りで、麺は少々柔らかめ、ボリュームは一般店の2倍ほどで小盛りでも十分な量。焼き豚は大ぶりで、具はひき肉とあえた細メンマ。キリっとエッジの効いた醤油スープの表面は脂で熱々でした。

めときの店主はメディアの取材を断り続けていましたが、人柄は実に穏やか。しかし約7年前に体調を崩して休みがちになり、やがて閉店。めときファンの誰もが、

「あのラーメンがもう食べられないのか」

と嘆きました。

来店客にも多い「めとき信者」

2019年のある日、めときにうりふたつのラーメン店がオープンしたといううわさを聞きました。それは「はな田」(世田谷区上北沢)。私(小野員裕、フードライター)は早々に店に行き、店主の花田拡さんと話をする機会に恵まれました。

「はな田」のラーメン(画像:小野員裕)

お店ののれんをくぐったとき、お店の女性スタッフから親しげにあいさつされて驚きました。彼女は以前、南インド料理屋「エーラージ」(豊島区南池袋)で働いており、私が取材でかつて同店に訪れたときに居合わせたとのことでした。

なんという偶然でしょう、世の中は狭いものです。この女性は花田さんの奥さまでした。エーラージの隣には「大勝軒」があり、夫の花田さんはこの大勝軒に勤めていたときに奥さまと知り合い、めでたく結婚されたそうです。

「ところで、めときに影響受けた店と聞いて来たんですよ」

と私。

「それ言われると緊張します。お客さんにめとき信者の方が多くて『これはめときじゃない』って言われますが、まったく同じものを出しても自分のラーメンではなくなるので、変えているんですよ」

確かにその通り。オリジナリティーを出さなければ自分の店を開いた意味がありません。

修行先は東池袋大勝軒

花田さんはホストとして歌舞伎町で働いているとき、たまたま入っためときの味に衝撃を受けました。そして、

「この店に弟子入りしよう」

と思い立ち、その飲食店をキッパリ辞め、退路を断った上でめときの主人に弟子入りを志願しました。しかし丁寧に断られました。

「うちと似た味だったら、永福町の『大勝軒』に頼んでみたら」

と言われたこともあり、永福町大勝軒で働こうとしましたが、残念ながら当時、バイトを募集していませんでした。

そこで同じ屋号の東池袋大勝軒へ弟子入りをすることに。しかし永福町大勝軒と東池袋大勝軒は系列店ではありません。花田さんは勘違いしていたのです。

「ラーメンの知識がなくて、同じ店名だから系列店だと思っていたら、まったく違う店だったんですよ」

でも、その勘違いで奥さまと知り合えたのだからなによりです。

店主の花田さんと奥さま(画像:小野員裕)

花田さんは東池袋大勝軒で2年ほど懸命に働き、スープと麺打ちを任せられるまでに。その後、煮干しスープの作り方を学ぶために、とある煮干しラーメンの名店でさらに修行を積みました。そして2019年4月19日、上北沢にはな田をオープンしました。

花田さん、実は修行を断られてもめときに通い続けていました。そして、その味を舌にたたき込み、プロの現場で磨きをかけ、納得できるクオリティーとして再現したのです。もちろん、はな田オリジナルの味わいも加味されています。

はな田のラーメンは、煮干しの効いたスープに300gの麺。スープの表面を覆う熱々のラードは知らないですすると、少しやけどをするほどの熱さです。具は焼き豚に、肉そぼろの絡まるメンマ。海苔、みじん切りのネギにナルト、ゆずの皮で風味付けされています。

今では「めときより好み」の声も

スープは千葉県産の煮干しを基軸に豚ガラ、ジャガイモ、玉ネギ、ニンジン、ショウガをまとめてずんどうに入れ、水から一気に1時間以上炊いて仕上げています。

「試行錯誤するなかで、このスープの炊き方が食材のうま味と香りを引き出しながら、エグミを出さない方法だとわかったんです」

と花田さん。

「はな田」の外観(画像:小野員裕)

表面を覆うカメリアラードの価格は一般的なラードの2倍以上ですが、動物臭さのない上品な香りとコクが表現されます。

煮干しの風味は、スープを覆うラードによってオブラートに包まれていますが、レンゲでスープをすすると煮干しの香りが一気に花開きます。

中細の縮れ麺は、ややパツンとした食感でツルツルとした舌触り。また人気の焼き豚は半日かけてトロトロに仕上げた自信作です。

弟子入りはできなかったものの、めときの主人から手ほどきを受けたメンマが「はな田」最大の特徴です。スープごと一緒に炊きこんだひき肉をメンマに絡めることで、煮干しの風味をまっとったメンマに仕上がりました。また三角形の海苔はめときと同様です。

さて、肝心の客の反応は

「やっぱり、めときの方がおいしい」「めときより、はな田の方が好み」

とさまざま。いずれにしてもうわさが広がり、今では行列の人気店になりました。

小野員裕(フードライター、カレー研究家)

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