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【山旅実践編】秋の妙高山・火打山へエクストリームな日帰り登山

  • 2021.9.8
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以前、「風景写真を撮りたい人に!撮影トレーニングとしての「山旅」のススメ」にて登山と写真の相性を綴りました。

限られた行動時間の中で、めまぐるしく変わる被写体に合わせ、素早く画角を探し、マニュアル設定を変更しながら、自分の感性で風景を切り取る――風景写真を上達させるためには、山はこれ以上ない環境です。

そこで今回は実践編として、私がカメラを持って実際に登山をしてきた話を寄稿します。「1日の登山でこんなにさまざまな写真が撮れるんだ」と感じてもらえるはず!

またその中で大活躍する広角超望遠レンズ「TAMRON 18-400mm F3.5-6.3 Dill VC」についてもレビューを加えます。汎用性の高い機材を持参すれば、山旅で出会える世界も広がります。

頸城山塊「妙高山・火打山」へ1日の大冒険

今回足を運んだのは、新潟県南部に位置する「頸城山塊(くびきさんかい)」。一般にはあまり知られていない山域ですが、実は日本百名山のうち3座も選ばれており、登山愛好家の間では根強い人気があります。

最高峰は火打山(ひうちやま:標高2462メートル)で次峰が妙高山(みょうこうさん:標高2454メートル)。今回はその2座を1日で登り、帰って来ようという計画です。距離約25キロメートル、標高差が大きいコースのため、普通であれば1泊2日の内容。しかしながら、日帰りロングコースが大好物の私にとっては挑戦しがいのある冒険でした。

持参した機材は、CanonのAPSC一眼レフ/8000Dと、TAMRONの広角望遠レンズ/18-400mm F3.5-6.3 Dill VC。過酷な環境を進んだり、機材を傷つけたりするリスクをはらむ登山では、高価なボディを持っていくのは怖いこと。そして風景がどんどん変わる山というフィールドに対して、高い汎用性を求めた結果、この組み合わせに落ち着きました。

さぁ、それでは12時間にもわたる山旅の奇跡を綴っていきましょう!

時間帯の変化が魅せる山の世界

ロングコースの登山を行うとき大事なのは、いかに前半を稼げるか?ということ。今回のように、歩行時間が12時間を超えるような山行(さんこう)は、日の出前に出発します。日が短い秋シーズンということもあり、早朝5時にはまだ辺りは真っ暗でした。

しかしだからこそ、平日サラリーマン生活で溜め込んだストレス(=冒険心)が解放されます。何も見えない闇夜の森、しかし未知のフィールドを確実に進んでいく感覚。これこそ登り始めの醍醐味です。

そして、日の出の時間を迎えると、次第に陽光が届くようになり、周囲の世界が色づき始めます。登山道序盤のブナの森を通り過ぎ、ちょうど本格的な登りにさしかかった頃、景色の開けたジャストポイントへ到着しました。

するそこには、燃えるように照らし出される頸城山塊の山肌と、北アルプス主脈・白馬連峰がコラボレーションする絶景が!朝ならではのモルゲンロートがかった岩稜に心洗われた瞬間でした。

※モルゲンロート:夜が明けきらない早朝に、東の空より一筋の赤い光が山を照らし、山脈や雲が赤く染まる朝焼け

季節の移り変わりが魅せる絶景が待っていた!

最初に登頂を目指す「火打山」への行程は前半が山場。十三曲がりという急登のつづら折りを越えれば、なだらかなコースへ変わります。息を整えながら進み、中間地点である高谷池を目前にすると、登山道の雰囲気が変化したことに気づきました。

地面を見れば霜で覆われ、木々には冬山の代名詞である霧氷(むひょう)が育っていたのです。季節はまだ10月の半ば、実は初冠雪の翌日。思わぬ冬の芸術作品との遭遇に歓喜しました。

※霧氷:空気中の水分が過冷却で木々に付着する現象

まだ日が上がりきらない早朝だからこそ、山影により溶けないまま残されていたのです。そして、この霧氷はこれから出会う秋から冬へ移行する山の姿の伏線となっていました。

草紅葉と霜が共演する「高谷池」、日が差すと光と陰影のコントラストが幻想的に。

晩秋の燃えるような草紅葉の道を進む、火打山へのハイライト。

火打山随一の景勝地・天狗の庭からは、北アルプスの雪稜が顔を覗かせる。

なかなかタイミングが難しいものの、この刹那の風景変化こそ「山旅」の密かな魅力。標高差のついた旅だからこそ、季節の移行を体感できる。"季節を旅する"って響き、なんだか心惹かれませんか?

望遠レンズで切り取るミクロな世界に引き込まれる

一方で、こうした季節変化には、私の標準装備である「TAMRON 18-400mm F3.5-6.3 Dill VC」がとても有効でした。通常、超望遠域の400mmは手持ちするようなレンズではないのですが、コンパクトに設計されているため、登山でも携行可能です。

このレンズを導入すれば、ダイナミックな山の風景から山の小さな表情変化まで、あらゆるシーンに対応できます。VCとはブレ防止機能で、余分な失敗を防止し、サクサクと写真を撮れるのも嬉しいところ。

葉の上で宝石のようにキラキラ輝く霜柱。一つひとつの葉ごとに違う表情。

目がピントを合わせる前、一瞬の玉ボケが美しい。

いつまで見ていても飽きない天然のガラス細工。

広角で撮影することの方が多い登山ですが、常に敏感にアンテナを立て、ミクロな世界も探す。広角と望遠をスムーズに出し入れできれば、山旅の印象も、出会えるストーリーもより一層深まります。

登った人にしか見られない!山頂の絶景が醍醐味

そしてスタートから約4時間ほどで、一つ目の「火打山」山頂へ。今回の山旅、火打山までの往復の距離は17キロメートルと、総行程25キロメートルのうち約7割を占めます。しかし、長い山行だからこそ、その歩行時間と景色変化がストーリーと化し、より登山=旅としての情緒を高めてくれるのです。

さて、先ほど触れた「天狗の庭」から先は、神々しい山容が眼前にそびえ、高山ならではのダイナミックな風景を味わえるクライマックス。稜線を進むにつれ、徐々に遮るものがなくなり、360度の絶景が待っています。

北アルプス主脈・白馬連峰に日本海の大海原。対面には荒涼な活火山「新潟焼山」の山容が見事です。見下ろせば燃えるような鮮やかな紅葉も展開し、まさに山頂に相応しいパノラマでした。

"山に登った人にしか見られない景色がある"これこそ登山の原初的なモチベーションと言えます。そして、その山ならではの風景を求めて、足繁く山へ通っているうちに自然と、自分ならではの風景写真のノウハウや、画角探しのスキルが鍛えられるようになりました。

鮮やかな山岳風景から、モノトーンの世界へ

さあ火打山のあとは、次なる妙高山へ向かいます。笹ヶ峰登山口から火打山までは約8.5キロメートル。まだ下山まで15キロメートル以上も歩くなんて考えたくもない、エクストリームな内容へと移行していきます。

残りのうち、鍵になってくるのは黒沢池ヒュッテから妙高山までの区間。なかなかハードな谷地形のトラバースと、山頂までの急登が待ち受けます。日が短い晩秋、日が暮れる時間も考えて、ある程度ペース配分も考えなければなりません。

※トラバース: 登山用語で、斜面を横方向に横断すること。

写真を撮る時間も限られますが、旅の軌跡はしっかりと。これまで山旅で培ってきた適応力がここで生きてきました。

中腹の峠「大倉乗越」では、霞纏う荘厳な妙高山の山容を望む。

深い谷を経て、急激な登り。心折られるほどきつい傾斜と荒れた岩道をなんとか進めば、現れる雪。さあ世界が変わる!

奇岩連なる山頂へ到着。雲が出てきて視界は不明瞭だったものの、ただひたすら不思議な雰囲気を醸す山頂を味わいました。

天気が下り坂になり、鮮やかな風景は見られなくなった一方で、逆に山の裏の顔と言える"モノトーンの世界"を味わうことができました。山旅においては、天候変化も重要なファクターになります。

クレイジーな山旅の感動と記憶を残す写真

2座目の妙高山を無事に登頂できたものの、タイムリミットは迫っています。日没まで2時間を切っているものの、残りは約7キロメートル。普通に考えれば、下山している最中に夜を迎えます。ライトは持参しているものの、日があるうちに極力距離を稼がなければなりません。

必然的にペースが上がります。しかしながら同行していた私の友人は下山が苦手。それでも私は、ひたすら先行し、彼と差を作ることを意識しました。彼が少しでもペースを上げられるように発破をかけ、少しでも歩行スピードを上げる作戦に出たのです。

リスクを伴う登山で、このように精神的に追い込むことはあまり良いことではありません。しかし、彼は必ずついてくる。そう信じて脇目も振らずに下りました。そして、その作戦が無事に成功したのです。

登山前半のキーポイントである「十三曲がり」で、日没間際の時間を迎えました。十三曲がりは最初にも言及したように、急登区間。視界がなくなると、怪我を負うリスクが格段に上がります。

明るいうちにここを越えられることに安堵し、鮮やかな紅葉に重なる夕陽に見惚れました。

麓のブナ樹林を歩くときにはもう真っ暗。写真は撮らずに一心不乱で登山口のゲートを目指しました。そして無事にゲートに着いたときには、感無量!全体時間12時間、総距離25キロメートルの山旅を踏破できました。

下山した後、信濃町で食べた大盛り味噌ラーメンの有り難さといったら……!今でも、その時の幸福感が忘れられません!

出会える未知の世界と風景、達成感で満たされる山旅

今回は私が2020年の10月に挑戦した山旅について紹介してみました。

いささかハードルの高い登山。体力が必要なのはもちろんのこと、限られた時間の中で写真をたくさん撮りたければ、足でその時間を確保しなくてはいけないし、マニュアル設定に時間をかけない適応力も求められます。

しかしながら、ある程度その点を解消できれば、ひたすらに非日常で好奇心がかきたてられて止まない冒険が待っています。

海外旅行が難しい昨今。しかしそうでなくても、海外旅行は誰もがパッと行けるものではありません。だからこそ、私はこうしたクレイジーな山旅をおすすめします。

スキルと装備さえ揃えれば、名古屋からたった1日で、時間もお金もかけずに、今回紹介したような旅に出かけることができます。山地が国土の3分の2を占める日本では、山旅には無限の可能性があるのです。

All photos by Yuhei Tonosho

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