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『科捜研の女』でマリコを演じて22年。沢口靖子さん「女優としての壁やスランプは、もしかしたら今なのかもしれません」

  • 2021.9.3
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今、女優人生で初めて壁を感じている

――沢口さんが「科捜研の女」で主演を務めたのは34歳からでした。telling,は30歳前後の働く女性が主な読者ですが、その頃、沢口さんはどのような悩みを持っていましたか?

沢口靖子さん(以下、沢口): 20代はがむしゃらで無我夢中に仕事をしてきましたが、30代になると「自分らしさって何だろう?」と考えたり悩んだりしていました。

――その答えは見つかりましたか?

沢口: それまで他人主体で過ごしていることに気付き、自分主体で物事を考えるようになっていきました。

――沢口さんは「女優として壁らしい壁にぶつかったり、スランプを感じることはなかった」ともお話されています。本作は沢口さんの女優人生にとってひとつの節目となる作品ですが、今もご自身の女優人生に壁やスランプはなかったと思いますか?

沢口: 壁とかスランプは、もしかしたら今なのかもしれないな……と思っています。

――今ですか!?

沢口: なかなか自分の理想像に現実が追いつかないようなところがありまして……(笑)。

――どういった理想像をお持ちなのでしょうか?

沢口: カメラの前で表情豊かな人になりたいですね(笑)。

朝日新聞telling,(テリング)

――マリコと言えばリケジョで、感情の起伏があまりない女性です。そのような役作りをされているのかと思っていました。

沢口: 確かにマリコは比較的そちらのタイプですね。ただ、私という一人の俳優として考えたとき、もうひとつ先に行きたいなという思いがあります。

――ただ、本作ではマリコにとって驚くような場面がありますね。

沢口: (遮って)それは、見終わるまでは内緒ですよ(笑)?

――あのときに見せた感情の爆発はさすがだと思いました。

沢口: あの場面はクライマックスでしたし、映画におけるキーポイントだと思って演じました。今回の映画では、特に表情の変化を意識してみたんです。例えば、今までの仲間と会ったとき。その人その人に対してマリコの中で歴史があるので、そんな彼女の気持ちをそれぞれ表情で作ってみました。

(C)2021「科捜研の女 -劇場版-」製作委員会

土門とマリコの絆は深まっている

――劇場版は過去の登場人物が続々と再結集する、まさに“科捜研アベンジャーズ”と呼べるほどの展開でした。沢口さんご自身も、渡辺いっけいさんや野村宏伸さんといった過去のキャスト陣とは久しぶりの共演だったのでしょうか?

沢口: 久しぶりでした。元夫の倉橋拓也役のいっけいさんとは約20年ぶりの再会で、とてもうれしくて懐かしかったです。でも、いっけいさんは割とスッと「科捜研」の世界に入っていらして。マリコにとって倉橋は嫌いになって別れたわけではなく、今でも人間的には好意を抱いている相手です。なので、久しぶりの再会でも屈託なく接してみました。そうしたら、いっけいさんもはにかみながら応えてくださいましたね(笑)。

――嫌いになって別れたわけではない、それは恋愛感情が残っているということですか?

沢口: いえ、恋愛感情ではなくて、人として不器用な生き方であったり、そういうところが……たぶん、いい人だったと思うんですよね。「ああ、この人変わらないなあ」という思いで見つめているマリコがいました。

――一方で、ファンから「ドモマリ」と呼ばれるマリコと土門薫(内藤剛志)の関係性も注目されています。沢口さんは過去に「マリコと土門の間に恋愛感情はない」とお話しています。でも、見ている側からするととてもそうとは思えません(笑)。2人の間に恋愛感情がないという認識は今も変わらずでしょうか?

沢口: 今も変わらないです。ただ、事件が起きるたびに絆が深まっている感じはします。今回の映画では、マリコと元夫(倉橋)が再会しているところに土門さんが登場するスリーショットがあるのですが、ふっと笑えるかと思います。ウフフ

――あのシーンは……心がザワつきました!

沢口: フフフ。

――マリコの女心としては、土門とバディを組む中で再会した倉橋、倉橋と再会した中で接する土門、それぞれに対してどのような感情を抱いているのでしょうか?

沢口: 女心としては、揺れませんね。土門さんは仕事の上で絆が深いパートナーです。倉橋さんにはもう恋愛感情はなく、人間的に好意を持っているという関係性です。

――そこは揺らがないんですね、やっぱり。

沢口: はい、揺らがないです。

(C)2021「科捜研の女 -劇場版-」製作委員会

「代表作にしよう」という意気込みはなかった

――「科捜研の女」といえば同一人物による主演、同曜日、同時間帯放送として最長記録を保持する長寿ドラマです。なぜ、20年以上もの長きにわたって続く作品になったと思いますか?

沢口: まず、科学が主体に描かれている。そして、人間が丁寧に緻密に描かれているところだと思います。毎年進化をする科学で事件を解明するというおもしろさがひとつあり、同時に人間ドラマもきちっと存在している。人間の弱さや愚かさや未熟さなど、また「愛おしいな」と思える部分も丁寧に描く。そこに共感していただき、長年愛されているのではないかと思います。

――22年の間で、榊マリコという女性の内面はかなり変わった印象があります。初期は、科学を盲信する頭でっかちなところがありましたが、今では「科学を扱う人間が大事なのだ」と視点が変わってきています。沢口さんも演じ方を意識的に変えているのでしょうか?

沢口: 確かにマリコはこの20年の中でいろいろな事件と対峙し、人との出会いの中で成長してきました。そこで私の演じ方が変わったのかというと……どうなんでしょう。作品は進化していますが、同時にキャラクターも成長して描かれているんですね。私としては「与えられた役を忠実に」と心がけてきたということなのだと思います。

――マリコの成長を忠実に演じていたら、演じ方も変わってきたということですね。

沢口: そうですね。脚本としてもそのように表現されてきています。

――「科捜研の女」がスタートしたのは1999年から22年。沢口さんは、これだけ長く続く作品になると思っていましたか? また、最初から「このドラマを自分の代表作にしよう」という意気込みがあったのでしょうか?

沢口: これだけ長く続くドラマになるとは思ってもいませんでしたし、「代表作にしよう」という意気込みもまだそのときはなかったです。ただ、当時は科学捜査を主体にしたドラマがほかにありませんでした。現場に残された微細な証拠から犯人にたどり着くという展開は非常に新鮮でおもしろくて、「希少なミステリードラマになるな」という気持ちはありました。

――当時は新しいドラマでしたよね。アメリカの「CSI:科学捜査班」シリーズよりも早いです。

沢口: はい、1年早かったですね。そのようなドラマに出会えたことが幸せだと思っています。

――沢口さんは透明感や可憐さが年々増している印象です。その秘訣はなんだと思いますか?

沢口: ありがとうございます。遅ればせながら女優としての意識が変わってきたことがあるかもしれません。脚本に書かれた精神を深く読み込むようになりまして、そういった内面の気持ちが前に出てきたのではないか……と、自分では思っています。こういう意識は最初からないといけないところですが(笑)。

(C)2021「科捜研の女 -劇場版-」製作委員会

マリコと同一視されるのは幸せなこと

――「科捜研の女」は初回から恋愛より仕事を生きがいとする女性を描き、現代にもマッチしています。沢口さんは「科捜研の女」は女性たちを応援するメッセージを含んでいると思いますか?

沢口: そういう意識を持ったことはないのですが、「ドラマを見て科捜研に入りました」という方もいれば、「理系を目指しています」「科捜研を目指しています」と中高生の方からお手紙をいただいたりもします。うれしい驚きとともに頑張ってほしいと思っています。

――ところで、沢口さんがご自身で「私ってマリコっぽいな」と思う瞬間はありますか?

沢口: 実は、そう言われたことがあります。友人の家に行き、会ったこともない人を分析してしまったことがあって……。その友人宅に飾られたすてきな家具はインテリアコーディネーターが勧めてくれたものだと聞いて、「きっとその方はこういう考えでこうだから、この家具を勧めてくださったんじゃない?」と話したら「マリコさんみたい!」と言われてしまいました(笑)。

――沢口さんにとってマリコは分身のような存在ですが、沢口靖子=榊マリコのように見られたとしたら、それは女優として幸せなことなのか葛藤してしまうことなのか、どちらでしょうか?

沢口: それは幸せなことですね。それだけ作品を認知していただいているということですから。街で「マリコさん!」と声をかけられるのも、ドラマを見てくださっているからこそだなと思います。

――実際、そういうこともありますか?

沢口: ありますね。京都でロケをしているときに、学生の方が「あ、科捜研の女だ!」って(笑)。

朝日新聞telling,(テリング)

この先何十年も「科捜研の女」とともに歩んでいきたい

――「科捜研の女」を何十年も続く作品にしたいという思いはお持ちですか?

沢口: これまでもこの作品は進歩してきまして、これからも科学の進歩とともに「科捜研の女」も進化していけるんじゃないかと思います。一緒に歩んでいきたいと思います(笑)。

――ドラマシリーズとは異なり、劇場版は予算も尺もキャストの人数もスケールが変わってくると思います。劇場版になったことで、「科捜研の女」にどんな化学反応が起きたと思いますか?

沢口: マリコの登場シーンはビルの屋上で、そのときにカメラが夕日を狙うシーンがあります。ワンカット長回し、ぶっつけ本番の場面です。リハーサルを繰り返して、日が暮れるのを待ち、いざ本番を迎えました。私にとっては初日だったのですが、兼﨑涼介監督やスタッフのスクリーンにかける意気込みをすごく感じました。

ほかにも、クレーン車を使う大掛かりな撮影もたくさんありました。そういったものが劇場版には表れています。また、3ページほどの長回しでは、カメラマンと役者さんのお芝居を何回も合わせ、テストをしてからの本番でした。この現場の緊張感は、見ている方に伝わるのではないでしょうか。時間もテレビ以上にかけていますし、ワンカットにスタッフやキャストの情熱がこもっている感じがしました。

――「相棒」は劇場版を4度公開しています。一方、「科捜研の女」は今回が初の映画化です。気が早いのですが、第2弾の可能性はありそうですか?

沢口: それはもう、そう願いたいところですね。でも、その前にまずこの第1弾を一人でも多くのファンの方に。まだ一度もご覧になっていない方も劇場版から見ていただきたいです(笑)。

(C)2021「科捜研の女 -劇場版-」製作委員会

――では、最後にtelling,読者に向けてメッセージをお願いいたします。

沢口: 30代というと、まだまだこれからだと思うんです。いろいろなことにチャレンジして、自分らしさを模索していってください。30代は自分らしさを見つける年代だと思います。

■寺西ジャジューカのプロフィール
ライター。「エキレビ!」「Real Sound」などでドラマ評を執筆。得意分野は、芸能、音楽、(昔の)プロレスと格闘技、ドラマ、イベント取材。

■齋藤大輔のプロフィール
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。

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