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「夏休みの宿題はいつ終わらせた?」将来の「貯蓄力」を予測する"意外な質問"

  • 2021.8.28
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夏休みも終盤。小中高生の子を持つ親にとって夏休みの宿題は悩みの種です。拓殖大学准教授の佐藤一磨さんは「『夏休みの宿題をいつ終わらせたか』という問いに経済学者は興味津々です。なぜならこの問いへの回答は、その人の貯蓄や離婚、ダイエットといった将来の行動を予測する要因となり、最終的に幸福度にも影響を与えるからです」と指摘します――。

母の男の子と彼らの宿題を手伝って
※写真はイメージです
経済学者の着眼点

夏休みは自由な時間が多く、楽しいことが満載です。

この楽しい夏休みの最大の敵は、ズバリ「夏休みの宿題」です。

ドリル、読書感想文、自由研究と手ごわいメンツが並んでいます。これらの宿題をいつ片付けるかという点は、小中高生の大きな懸案事項だと言えるでしょう。

さて、夏休みの宿題という話題で多くの経済学者が気にするのが、夏休みの宿題を「いつ終わらせたのか」という点です。

「なんでそんなことを気にするの?」と疑問を持たれる方もいるかと思いますが、この点は我々の多くの行動に影響を及ぼす重要な要因と深い関連があります。

「将来を見越した行動」をとれるかどうか

実は「夏休みの宿題をいつ終わらせたのか」という点は、「将来を見越して今どれだけ我慢できるのか」という行動パターンと深い関連があるのです。

夏休みは約1カ月間であり、この期限内のどこかで必ず宿題を終わらせなければなりません。つまり、「やらなければならないタスクをいつ消化するのか」という問題です。

これにはいくつかのパターンが考えられます。例えば、夏休みが始まったらできる限り遊んで、面倒な宿題は後回しにするというものです。この場合、夏休みの終わりの方に必死になって宿題をやらなければならず、大変な目にあうことが予想されます。これと対照的なのは夏休みが始まったらすぐに宿題を終わらせてしまうというものです。この場合、初めの方こそ大変でしょうが、宿題が終われば夏休みを満喫できます。

このように「夏休みの宿題をいつ終わらせたか」という問いは、期限内にやらなければならない仕事を「我慢して早めに終わらせるのか」それとも「とりあえず今を楽しんで後回しにするのか」のどちらに行動パターンが近いのかを判断する材料になります。

そして、「宿題を早めに終わらせる傾向が強い人」ほど、「他の場合でもより良い結果につながる行動をしやすい」ことがわかっているのです(※1)。

※1 池田新介(2006)「経済行動を左右する『時間割引率』」週刊エコノミスト, 2006年2月21日号, pp. 48-51及び池田新介(2012)『自滅する選択-先延ばしで後悔しないための新しい経済学-』東洋経済新報社.

将来のために貯蓄ができるかどうか

この具体例としてあげられるのが消費と貯蓄の行動です。我慢強い人ほど、今物を買うのを我慢して貯金することができ、そのお金を将来使うことができます。これに対して、我慢強くない人ほど、目の前のことにお金を使ってしまい、将来のために取っておくことができません。この結果、我慢強くない人ほど、貯蓄率が低く、借金を持つ比率が高くなってしまいます。

また、喫煙行動も同じです。将来のために今我慢できる人ほど、健康を害する可能性のある喫煙率が低くなる傾向にあります。これに対して、将来よりも今の楽しみを重視する人ほど、喫煙率が高くなってしまいます(※2)。

このように、「夏休みの宿題をいつ終わらせたのか」の答えは、その人がどの程度「将来を見越して今我慢できるのか」を判断する材料となるだけでなく、その他の行動とも関連するため、非常に興味深いものとなるのです。

夏休みの作文の宿題
※写真はイメージです
肥満や離婚とも関連する

これまで見てきた「将来のために今どれだけ我慢できるのか」は、経済学の中では時間割引率という概念を用いて計測します。

通常、お金に関する仮想的な質問を用いて時間割引率を計測するのですが、「将来のために今我慢できる」傾向が強いほど、時間割引率が低いと言います。これに対して、「将来のための我慢よりも今を楽しみたい」傾向が強いほど、時間割引率が高いと言います。

近年、この時間割引率を用いた研究が徐々に蓄積されてきており、喫煙や借金以外の行動とも関連することがわかってきています。

その1つの例としてあげられるのが肥満です(※3)。

将来を見据え今我慢できる人ほど、過剰なカロリー摂取を控える傾向があります。これに対して、将来よりも今の楽しみを重視する人ほど、ついつい食べ過ぎてしまい、肥満率も高くなる傾向があるというわけです(もちろん肥満には遺伝的な要因も関連するという点に注意が必要です)。

もう1つの例としてあげられるのが離婚です(※4)。

「将来のために今どれだけ我慢できるのか」という点は2つの経路を通じて離婚に影響を及ぼすことがわかっています。

1つ目の経路は、結婚後のショックへの対処です。結婚前に想像しなかった出来事(失業や重い病気)が発生した場合、将来のために今我慢できる人ほど、離婚しづらいことがわかっています。結婚生活の状況が悪くなったとしても、衝動的に行動せず、将来状況が変わって結婚生活がうまくいくようになるまで我慢するというわけです。

2つ目の経路は、結婚相手を選ぶ際にかけた時間です。将来のために今我慢できる人ほど、結婚相手をじっくり慎重に選びます。このため、結婚相手との相性もよく、そもそも離婚しにくくなるというメカニズムがあるのです。

※2 夏休みの宿題を行うタイミングと喫煙、借金の関係については、池田新介(2006)「経済行動を左右する『時間割引率』」週刊エコノミスト, 2006年2月21日号, pp. 48-51をご参照ください。
※3 池田新介(2012)『自滅する選択-先延ばしで後悔しないための新しい経済学-』東洋経済新報社.
※4 Paola, D, M., & Giolia, F. (2017). Does patience matter in marriage stability? Some evidence from Italy. Review of Economics of the Household, 15, 549-577.

「今、我慢できるか」は幸福度にも影響する

さらに、「将来のために今どれだけ我慢できるか」という点は、各個人の幸福度とも関連することがわかっています。

西イングランド大学のジェームズ・ケネディ氏の研究によれば、将来を見据え今我慢できる人ほど、幸福度が高くなる傾向にあることがわかっているのです(※5)。京都文教大学の筒井義郎教授、大阪大学の大竹文雄教授、関西学院大学の池田新介教授の日本人を分析対象とした共同研究でも同じ結果が得られています(※6)。

今の楽しみよりも、将来を見据えて忍耐強い行動をできる人ほど幸せになれる。これは重要なポイントです。

ケネディ氏の分析では、この背景として、将来を見据え今我慢できる人ほど、状況に適応した柔軟な意思決定ができることを指摘しています。また、将来を見据え今我慢できる人ほど、幸福度に大きな影響を及ぼす健康やお金の面で良い結果を得やすいという点も理由としてあげています。

重要なのは「宿題を早めにやること」ではない

さて、本記事から得られる教訓は何でしょうか。

もちろん、「夏休みの宿題を早めに終わらせましょう」……ではありません。

宿題を早めに終わらせるのはあくまでも表面的なものであり、本当に重要なのは、「今」よりも「将来を見据えた」行動をとるように心がけ、実際に行動するという点です。

将来を見据えて今我慢できる人ほど、健康、お金だけでなく、幸せの面でもより良い結果が得られる傾向があるためです。

今よりも将来を見据えた行動の重要性は、さまざまなビジネス書や自己啓発書で何度も言及されている点であり、読者の方の中でも御存知の方も多いと思います。その点において目新しいものとは言えません。

ただ、それだけ多くの書籍で指摘されていることは、本当に重要な点であり、より良い人生を送っていくうえでの基本となるのではないでしょうか。

※5 Kennedy, J. (2020) Subjective wellbeing and the discount rate. Journal of Happiness Studies, 21, 635-658.
※6 筒井義郎・大竹文雄・池田新介(2005)「なぜあなたは不幸なのか」ISER Discussion paper No 30 Mach, The Institute of Social and Economic Research Osaka University

佐藤 一磨(さとう・かずま)
拓殖大学政経学部准教授
1982年生まれ。慶応義塾大学商学部、同大学院商学研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。専門は労働経済学・家族の経済学。近年の主な研究成果として、(1)Relationship between marital status and body mass index in Japan. Rev Econ Household (2020). (2)Unhappy and Happy Obesity: A Comparative Study on the United States and China. J Happiness Stud 22, 1259–1285 (2021)、(3)Does marriage improve subjective health in Japan?. JER 71, 247–286 (2020)がある。

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