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英語民間活用と記述式 大学入試改革の目玉、不実施を通知 政治責任は問われるか

  • 2021.8.22
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初めて行われた大学入学共通テスト(2021年1月、時事)
初めて行われた大学入学共通テスト(2021年1月、時事)

文部科学省は7月30日、大学入試改革の目玉とされた大学入学共通テストの英語民間試験活用と記述式問題出題を、新課程(2022年度から高校で始まる新学習指導要領)に移行する2025年度以降も実施しない方針を決め、全国の大学などに通知しました。これが東京五輪(7月23日~8月8日)のさなかに行われたことは偶然の皮肉と言わざるを得ません。今般の大学入試改革の立ち上がりと挫折が東京五輪・パラリンピック(オリパラ)招致と無関係ではなかったからです。

開催「年度」に合わせて導入急ぐ

大学入試改革の審議自体は民主党政権時の2012年8月から、中央教育審議会(中教審、文部科学相の諮問機関)で始まっていました。それから間もない同年12月に政権交代があり、2013年9月に東京オリパラ招致が決定すると、当時の下村博文文部科学相(現自民党政調会長)がスポーツに限らず、教育、文化のあらゆる面で、開催の2020年を改革の「ターゲットイヤー」に据えます。

大学入試改革もそうでした。2014年11月に学習指導要領の改定(小学校は2020年度から全面実施)を中教審に諮問することで、これらを両輪とした「明治以来の大改革」になると胸を張りました。もっとも、大学入試は大学の入学年度で起算しますから、本来は「2021年度入試」のはずです。しかし、2020年というターゲットイヤーに合わせるため、「2020年度中に実施する2021年度入試」という奇妙な表現が各大学にまで横行しました。

そうして改革を急いだ結果、拙速な議論を招き、ターゲットイヤーに入る直前の2019年末になって、2つの目玉を相次いで断念せざるを得なくなったとみることもできます。

直前の見送り、「政治決断」の是非は?

2つの目玉を2025年度以降も断念することは、有識者や大学・高校関係者による「大学入試のあり方に関する検討会議」(座長:三島良直東京工業大学前学長)の提言(7月8日)を受けて判断した格好になっています。この会議では、2つの目玉の経緯の検証も検討課題となっていました。提言では、文科省の意思決定に問題があったことを指摘。「今後、広く他の施策においても生かされることを強く求める」と、省の体質にまで言及しています。

検討会議では、12人もの外部弁護士が協力した計243ページもの検証報告書を基に議論しました。しかし、あくまで、中教審など各種会議体での議論を整理しただけで、大臣はじめ政務三役からどのような指示があったのかは調査対象外でした。

2つの目玉の見送りにしても、萩生田光一文部科学相の「失言」がきっかけだったことは無視できません。2019年10月24日に放送されたBS番組で英語民間試験の受検回数について、「自分の身の丈に合わせて頑張ってもらえば」と発言。その後の会見や国会答弁で繰り返し謝罪し、発言を撤回したものの、なお、「ぜひ予定通り実施させていただきたい」(同29日の閣議後会見)と方針を変えない姿勢を見せていました。

しかし、批判の高まりに抗し切れず、英語民間試験を受検するための共通ID申し込みが始まる11月1日になって、朝の閣議後会見で「延期」に追い込まれた格好でした。それでも批判は収まらず、矛先が記述式に移るに及んで、ノーベル賞授賞式の出張から帰国後の12月17日、これも閣議後会見で「見送り」表明に至りました。

大臣決定により検討会議が設置されたのは、それから10日後の12月27日(初会合は翌年1月)。2つの目玉の断念を当然視する委員が多かったこともあり、萩生田文科相自身の「政治決断」の是非が問われることはありませんでした。ただ、共通テストで「話す」「書く」を含めた英語4技能や記述式を出題しないことに対しては、一部委員は終盤まで不満を表明していました。

導入から断念まで、政治主導に振り回された感のある今般の大学入試改革論議。政治責任が問われることは今後あるのでしょうか。

教育ジャーナリスト 渡辺敦司

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