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記念日なんか男は忘れる【彼氏の顔が覚えられません 第35話】

  • 2015.7.9
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女性は、なぜか記念日というものを大切にしたがる。クリスマスや正月だって、家族より恋人と一緒に過ごすのが最高だと考えているような節がある。

男は、わりとどうでもいい。そんなに特別な日を増やすことの意味がわからない。だってお前といれるだけで、常に特別だろ?

…だなんて。そう言ってキャーキャー黄色い声が上がるのはイケメンだけだよな。俺みたいなチャラい男が言ってもキモがられるだけかもしれない。

そんな、ただでさえキモいチャラ男の俺が、見た目以上にサイテーなことをやらかしたのが2月14日。バレンタインだ。愛しい恋人に、桐谷美玲を100倍可愛くしたような(※個人の感想です、念のため)カノジョに「渡したいものがあるから」と呼び出されたのに、俺はまたシノザキなんかと一緒にいる。

念のため断っておくが、浮気なんかではない。いくら高校時代に比べ、痩せて可愛くなったと言っても、イズミをしのぐほどじゃない。やつがどうしてもギターを教えてほしいと言って、渋谷のスタジオまで勝手に予約してたものだから、どうにも行かないわけにはいかなくなったのだ。

「嘘ばっかり。言い訳つくって、また逃げてるんでしょ」

と、気づいたら俺の顔の隣にシノザキの顔があって、ギョッとする。近い、近いよ! しかも、なんだよ…マスカラ、カラコン、ぷるぷるのリップ。ギター弾くからさすがにネイルまではしてないが、メイクをバッチリキメてきている。完全に「デート」の格好じゃないか。

「断ろうと思えば断れたハズなのに、なんでまた来たのよ」

「…俺もこのスタジオでわりとお世話になってるのに、ドタキャンなんかしたら心証悪くするだろ」

「ふーん。カノジョとの約束より、スタジオのスタッフの心証の方が大事、ねぇ…やっぱりその程度なんだ」

あぁ…また、この女…。

「完全にイズミのことをないがしろにしたワケじゃないぞ。代理人を行かせてある。イズミがチョコ持ってくるかもしれないから、代わりに受け取っといて、って」

「えっ、代理人!? ちょっと…それでイズミが納得すると思ってる? 役所の届け出とかじゃないんだしさぁ…」

「まぁ、大丈夫だろ、きっと」

平気で言う俺を信じていないようなシノザキは、きっとイズミの病気のことを知らないんだろう。代理人には服を貸し、俺のフリをしてもらうよう依頼していた。顔の区別がつかないイズミを騙すのは心が痛むが、きっと乗り切れるハズだと思った。

…その代理人を引き受けてくれたタナカ先輩が、裏切りさえしなければ。この時点で、その可能性はまったく考えていなかった。

「ところでさ、このスタジオ、わりと暑くない?」

ふと、シノザキが言う。「そうか?」と返しながら空調の温度を見ると、21度。冬としてはふつうだ。

「もっと下げるか?」

振り返ってシノザキに言ったところ、またギョッとした。俺が尋ねるより前に、シノザキは服を脱いでいたのだ。パーカーを脱ぎ、セーターを脱ぎ、あっと言う間にTシャツ1枚に。

「…うん? なに?」

あっけらかんとした表情で俺を見つめるシノザキ。その一方、体にピタッと密着したシャツで強調されたやつの胸に、釘付けになってしまう俺。悲しい男の性ってやつだが…。

冷静に考えたら、せまいスタジオで、俺らいま二人っきりなんだな。

いくらテキトー人間とは言え、ことの重大さに気づくのが遅い男である。あまりにも遅すぎて、泣きそうだ。俺の中で、ムクムクと変な欲望がいまにも立ち上がろうとしていた――。

(つづく)

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(平原 学)