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「戦争本」1位『太平洋戦争への道』「発売たちまち大増刷」その魅力

  • 2021.8.13
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「日本人よ、しっかり勉強しよう」

8月になると、戦争関連の書籍が目立つようになる。いま売り上げトップを走っているのは2021年7月12日に刊行された『太平洋戦争への道 1931-1941』(NHK出版新書)だ。アマゾンの「日中・太平洋戦争」部門の1位。「発売たちまち大増刷」だという。NHKラジオ番組の書籍化なので、読みやすい。

「最大の失敗」を検証

「昭和日本の『最大の失敗』を検証し、令和日本が進む道を提言する」というのが本書のコンセプト。

昭和史の研究者として著名な半藤一利、加藤陽子、保阪正康の3氏が2017年の終戦の日、NHKラジオ番組「太平洋戦争への道」で行った鼎談がもとになっている。保阪氏の解説と図版・写真を加え、「日米開戦80年企画」として出版された。

半藤氏は1930年生まれ。文藝春秋で、「週刊文春」「文藝春秋」などの編集長を歴任。在職中から戦争研究を続け、著書に『日本のいちばん長い日』『ノモンハンの夏』など。2021年1月逝去。

加藤氏は東京大学大学院人文社会系研究科教授。1960年生まれ。著書『それでも日本人は「戦争」を選んだ』はベストセラーに。このほか『昭和天皇と戦争の世紀(天皇の歴史8)』『戦争まで』『とめられなかった戦争』など。

保阪氏はノンフィクション作家。1939年生まれ。「昭和史を語り継ぐ会」主宰。著書に『昭和陸軍の研究』『昭和の怪物 七つの謎』『あの戦争は何だったのか』『陰謀の日本近現代史』など。戦争に深く関わった多数の日本軍関係者に直接インタビューを重ねてきたことで知られる。

6つの分岐点

1931年の満州事変から1941年の真珠湾攻撃へと至るその過程には、見逃せない6つの分岐点があったと3人は口をそろえる。

本書では「序章 太平洋戦争とは何か」を入り口に以下の6章にまとめている。

第一章 関東軍の暴走 1931 満州事変 - 1932 満州国建国
第二章 国際協調の放棄 1931 リットン報告書 - 1933 国際連盟脱退
第三章 言論・思想の統制 1932 五・一五事件 - 1936 二・二六事件
第四章 中国侵攻の拡大 1937 盧溝橋事件 - 1938 国家総動員法制定
第五章 三国同盟の締結 1939 第二次世界大戦勃発 - 1940 日独伊三国同盟
第六章 日米交渉の失敗 1941 野村・ハル会談 - 真珠湾攻撃

そして最後に「戦争までの歩みから、私たちが学ぶべき教訓」をまとめている。「歴史好きの方にはもちろん、一般の方にも重層的な歴史理解を促すに違いありません」と出版元。「日本人よ、しっかり勉強しよう」と半藤氏は激をとばす。

開戦2日前、東條首相は号泣

3氏にはそれぞれ、代表的な著作がある。半藤氏の『日本のいちばん長い日』は、「昭和20年8月15日」直前の、緊迫した24時間を徹底した取材で再構成する。「ポツダム宣言受諾」は粛々と行われたのではなく、「玉音放送」を阻止しようとする徹底抗戦派のクーデター未遂事件など、今日の常識では考えられないようなことが日本の中枢部で起きていたことをリアルに描いた。2度も映画化されている。

加藤氏の『それでも日本人は「戦争」を選んだ』は09年刊行。10年には小林秀雄賞を受賞。16年には新潮文庫に入り、ロングセラーとなっている。大きな特徴は、日本が対米戦争を「必然」としてかなり前から準備していたことを指摘していることだ。1923年には、陸海軍ともに米国が想定敵国の第一とし、シミュレーションを重ねていたと明かす。神奈川県の私立栄光学園の中高生に5日間の特別講義した内容をもとにしている。生徒たちとの質疑応答などもあり、わかりやすい。

多数の戦争関係者と会ってきた保阪氏の著作には、意外なエピソードが多い。『昭和の怪物 七つの謎』には、開戦2日前の1941年12月6日、東條英機首相が官邸の一室で皇居に向かって正座し、号泣していた話が出てくる。その姿を東條夫人がそっと襖を開けて目撃していたという。保阪さんの取材に夫人自身が明かした秘話だ。

御所に招かれる加藤氏を「任命拒否」

3氏は、今回の著作のもとになったNHKラジオ番組以外でも、しばしば懇談していたようだ。

日経新聞は2020年10月10日の社会面「上皇ご夫妻 長引く外出自粛」という記事の中で、「歴史談議が好きなご夫妻は、在位中は歴史家の半藤一利、保阪正康、加藤陽子の3氏を頻繁に御所に招かれていた」と書いている。

この記事の筆者、井上亮・編集委員は宮内庁担当の敏腕記者として知られる。2006年7月に元宮内庁長官・富田朝彦氏が付けていたとされるメモをスクープ、新聞協会賞を受賞している。内容には間違いがないと思われる。

ちなみに、加藤氏は20年秋、学術会議の会員に推薦されたものの、菅義偉首相によって任命を拒否された6氏の中の一人だ。

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