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5人の大統領の厨房を預かってきた、女性総料理長の素顔。

  • 2021.8.12
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クリントン家、トランプ家、バイデン家・・・。クリステータ・カマフォードは、ホワイトハウスの総料理長として16年間、歴代アメリカ大統領ファミリーに仕えてきた。

2005年よりホワイトハウス専属シェフを務めるクリステータ・カマフォード(2005年8月14日、ワシントンにて)photo : Getty Images

シェフたちのトップ会談

去る7月12日の月曜日、パリの高級ホテル・プラザアテネは密やかな高揚に包まれていた。金箔の装飾があしらわれた天井の下、堂々たる大窓のガラスにはシャンデリアの輝きが映り、交わされるささやき声だけが響いてくる。

奥の長テーブル中央の席には、ホワイトハウスの女性総料理長クリステータ・カマフォード。右隣にいるのは、あのクリスチャン・ガルシア。首脳のシェフクラブClub des Chefs des Chefsの会長で、モナコ公国の宮廷料理人だ。

シェフクラブというのは、ジル・ブラガールが設立した世界各国のトップに仕える専属シェフの集まりで、それぞれの国の伝統料理の普及を目指す団体。

テーブルにはフランス大統領官邸の旧料理長ギョーム・ゴメスも加わり、その向かい側には世界の首脳たちに仕える名だたる料理人10名ほどが座る。いよいよ「ガストロノミー界のG20」シェフクラブ会議の始まりだ。美食外交や各国の素晴らしい料理について話し合いが行われる。

高い要求と、こだわりの料理

ブランデンブルク門の前でポーズをとるクリステータ・カマフォード(2012年7月19日、ベルリンにて)photo : Abaca

有名シェフたちに囲まれているクリステータ・カマフォードは、現在ジョー・バイデン大統領とジル夫人の専属シェフ。26年もの間、ホワイトハウスの厨房で腕を振るってきた。

初めは副料理長となり、その後、総料理長のポストに就く。クリントン家から、ブッシュ家、オバマ家、トランプ家、そして現大統領バイデン家へとホワイトハウスが受け継がれていく中、クリステータはあらゆる要求に応えつつ、自分のこだわりを追求してきた。

今もクリステータと厨房スタッフ8名は常に気を配り、大統領や招待客にクオリティーの高い食事を作り続けている。

マダムフィガロ誌に対し、クリステータは「招待客一人一人のアレルギーや宗教上の制限を考慮して、安全で健康に良い食事を確実に提供するようにしています。全てにおいて、細心の注意を払う必要があるのです」と話す。

現在58歳のクリステータは、20年以上ホワイトハウスに務めてきて、2人用ランチから「200名が集まるディナー」に至るまで「あらゆる種類の食事」に対応できると自負している。何より誇りに思っているのは「お皿がきれいに空になって戻ってくること。喜んで味わってくれたということですから、それがいちばん満足です」と言う。

「最高のシェフは、母」

クリステータは決して謙虚さを失わない。謙虚であることはシェフとして欠かせない資質だと言い「自分ではなく料理を味わう側が何を望んでいるかということのほうが、この仕事で大切なことですから」と語る。

輝かしいキャリアを歩みながら、自分のルーツを忘れることもない。1962年10月27日生まれ、フィリピンのマニラ育ち。父はオネスト・パシア、母はアーリンダ・ゴメス。クリステータは、この母のおかげで料理のすばらしさに目覚めたという。

「もし優れた料理人に誰を師としているか尋ねたら、皆、自分の母親だと答えるはずです」と、クリステータは微笑む。「私の一番大切な人生初の料理体験も、母と一緒でした。母はいつも心をこめて料理を作ったものです。」

クリステータはマニラのサイエンスハイスクールを卒業後、フィリピン大学でフードテクノロジーを学ぶ。学位は取らずに、23歳で渡米を決めた。

ホワイトハウスへ

ホワイトハウスでワークショップを開くミシェル・オバマ夫人とクリステータ・カマフォード(2011年11月30日、ワシントンにて)photo : Abaca

クリステータは、まずシカゴのホテル、シェラトンとハイアットリージェンシーで働き、その後ワシントンのレストラン2軒でシェフとして活躍した。

1990年代はじめ、人生の転機が訪れる。ホワイトハウスの厨房に呼ばれたのだ。インドのマンモハン・シン首相を歓迎する晩餐会のために候補者450名の中から選ばれ、大きなチャンスを手にする。

1995年には当時総料理長だったウォルター・シャイブの声掛けで、副料理長となる。それから10年後、クリステータはウォルターの後を継いで、総料理長となった。

ノミネートされた際「クリステータが創り上げる美味しい料理は、口に運ぶたびにその情熱が伝わってくるのです」と、ローラ・ブッシュ夫人は述べている。こうしてクリステータは、ホワイトハウス初の女性総料理長というだけでなく、アジア出身初の料理長となった。

2009年、ミシェル・オバマ夫人も引き続きクリステータを料理長とすることに決めた。母親というものについて、また、健康に良い食事に関して、考え方が同じだと感じたからだ。

「お互いに磨き合うこと」

(写真下)プラザアテネのシェフクラブ会合で、再会を祝い合うクリステータ・カマフォード、前列左から3番目。(2021年7月12日、パリにて)

クリステータは、ホワイトハウスの住人たちの食の嗜好をそれ以上明かすつもりはないようだが、2018年に出版された本『The New Filipino Kitchen: Stories and Recipes from around the Globe』(Jacqueline Chio-Lauri編)にはレシピが少しだけ記載されている。

クリステータは非常に口が堅く、シェフのオリジナル特別料理についても決して語ろうとしないが、「私にとって大切なのは、アメリカを代表して旬の食材を紹介すること。使用する食材は、カリフォルニア州のチーズから、ボストンの極上のシーフード、メイン州の名産品まで様々です」と話してくれた。

シェフクラブの会議で、クリステータはこれから26名のメンバーと自分の経験について共有することになるが、ここでは必ずしも厨房ほどの厳格さは必要ない。

クリステータは「他のシェフたちとこうやって交流するのは本当に有意義なことです。お互いにかなり共通点が多く、日々同じように困難な課題と向き合っているわけですからね。シェフ同士、切磋琢磨するためにこういう機会を上手に活用したいものです。シェフの立場をゆるぎないものにし、様々な知識を得るためにも、つながりを保つことが大切です」と言う。

要求の高い首脳たちをどう満足させるか情報交換がなされていることは、想像がつくだろう。自分が料理を振舞ったお気に入りの要人について聞かれ、クリステータは「私が料理を作ってあげたいセレブといえば、夫のジョンと娘のダニエルですよ」と、冗談ではぐらかした。クリステータの料理の秘密は、もう既に娘に伝授され始めているようだ。

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