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「貸す金は1円もない」廃業に追い込まれても年3億の現金収入をつくった"おばちゃん社長"のすごい方法

  • 2021.8.9
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石川県羽咋市の中小企業、平鍛造を経営していた“おばちゃん社長”平美都江さん。腕は確かだが数字には無頓着な鍛造職人だった父が創業した会社を引き継いだのは、廃業した後だったといいます。金融機関から「貸す金は1円もない」「価値ゼロ」と突き放されてから無借金経営に至るまでの道のりとは――。

※本稿は、平美都江『なぜ、おばちゃん社長は価値ゼロの会社を100億円で売却できたのか 父が廃業した会社を引き継ぎ、受注ゼロからの奇跡の大逆転』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。

財務の大原則「会社は、利益を出すためにある」

財務を考えるに当たって、根本的な原則は、会社は、利益を出すためにある! と考えて、今まで私は経営してきました。

平鍛造の平美都江社長
平鍛造の平美都江前社長

もしも今赤字ならば、とにかくそこから脱却することが優先順位一位の課題になるわけです。

うちの会社も、私が裁判の末に父から会社を引き継いだ当時は、そのままなら閉鎖しても仕方ない状況でしたから、身にしみてわかります。

父の経営は一時期うまくいって無借金経営まで達成したのに、裁判の結果父と私が和解し、父の持分株式の買取金および退職金60億円を支払わなければならなくなる。父の強気な商売のせいですっかりお客さまには嫌われて、注文ゼロ状態が続いてしまうわで、大ピンチでした。

赤字から抜け出す原因を発見する

どうにかして赤字体質から脱出しなければ会社はつぶれてしまう。では、利益を出すためには何をすればいいのか? 客観的に考えればわかる。でも、

「売り上げ(収入)≳コスト(支出)」

という、このすごく簡単なセオリーは、主観的になればわからないものです。

さすがにそのくらいわざわざ言われなくてもわかるわ! と怒られそうです。

この式を成り立たせ、売り上げをコストよりも大きくするには、次の二つの方法があります。これもまた、非常にシンプル。

①売り上げを増やす
②コストを減らす

可能であれば、その両方。でも、昨今の状況から考えても、どちらか先に手がけるなら、まずは自分たちの努力だけでできる②のコスト削減でしょう。

私は、万年②のコスト削減を不断なくやっています。

コストは大きく分けて三つ

私たちのような製造業の場合を例にすると、コストは大きく次の三つです。

コスト=原材料費+製造費+人件費

原材料費とは、文字通り材料の仕入れコスト。製造費とは、製造のために使うコスト。そして人件費(労務費)の合計と考えてください。

それぞれのコストがどのくらいかかっているか、まずはその把握から始めましょう。

原材料費なら「もっと安く仕入れる方法はないか」。製造費なら「もっと燃料費や電気料金、そのほかのランニングコストを下げる方法はないか」。そして人件費であれば「もっと合理化する方法はないか」。そう考えながら、社業を見直すのです。

ビジネスコンセプト
※写真はイメージです

世の中にはさまざまな業種や業態、企業が存在します。それぞれ特徴があったり、特殊な事情があったりする。うちの会社もすごく特殊な面があって、じつは原材料費がほぼ存在しません。なぜかというと、お客さまの要望にカスタマイズした形状の製品を作るので、材料はお客さまが自ら仕入れ、うちの会社に預けていただいている形になっているからです。

同業他社のデータを基にメスを入れる

では、どのくらいまでコストを抑えるべきなのか。とにかく下げればいいのかというと当然そうではなく、品質の悪化、安全性の低下などの問題を起こしかねないので、三種類のコストのバランスも、業種によって大きく違ってくる。

適切なコストは何を参考に決めればいいのか? それはズバリ、同業他社のデータです。中でも、同業種の平均データ・うまくいっている競合他社のデータがわかれば非常に参考になる。

同業種の平均データは統計的に知ることもできる。

よりいいのは、自社よりも業績のよい競合他社のデータです。

もっとも、細かな、具体的な数字が必要なわけではない。信用保証会社を駆使して、どうにかして情報を収集してみること。上場企業であれば公開されているデータも参考になります。

もしも今、人件費の比率が同業他社の水準よりも高い状況ならば、どうやって合理化するかを考える必要があります。単純にいえば、いかに設備投資を行って人手を省く(省人化する)か、ということ。

そして、どうやって省人化を図るかを決められるのは経営者しかいない。赤字を脱するために経営者に課せられた責任ともいえます。そのためには、現場に経営者が自らメスを入れ、改善をしていく必要があるわけです。

自社の中にある情報を見つけ出せるか

自社の最も大切な情報は、灯台下暗し、なんといっても自社自身に存在します。

平美都江『なぜ、おばちゃん社長は価値ゼロの会社を100億円で売却できたのか 父が廃業した会社を引き継ぎ、受注ゼロからの奇跡の大逆転』(ダイヤモンド社)
平美都江『なぜ、おばちゃん社長は価値ゼロの会社を100億円で売却できたのか 父が廃業した会社を引き継ぎ、受注ゼロからの奇跡の大逆転』(ダイヤモンド社)

つまり、自分の会社の帳簿を眺めていれば、どこを改善すべきなのか、必ず情報が見えてくる。見えてこない人は、単に関心を持って見ていないか、知識や経験が不足していて、ただの数字の羅列にしか見えないかでしょう。

私は、経営者ならばいつも帳簿を穴が空くほど眺めているものだと思っていましたが、どうやら世間にはそうではない人も少なくないそうです。

帳簿は、最終的な利益がいくらなのかを示す「経営者の成績表」であるだけでなく、なぜその成績がついたのか、どうすればもっと成績を上げることができるのかのヒントもたくさん隠されています。学生の通信簿みたいなもの。

ただ、私たちはもはや学生ではない。世話を焼いてくれたり、怒ってくれたり、優しく教えてくれたりする先生はどこにもいません。自分で帳簿を見て、何を改善すべきかをつかみ取らなければならないわけです。

では、どこに着目すればいいのか?

流動資産がなければ即倒産

私たち中小企業の場合、いざというときに現金(+すぐに現金化できる資産=流動資産)がなければ即倒産です。

売上規模が大きくても、帳簿の上では利益が出ていても、支払わなければならないときに現金がなければ、手形が落ちなければジ・エンド。そんな、追い込まれた中小企業に資金を融通してくれる金融機関はおそらくない。

私も父からバトンタッチしたとき、メインバンク3行から「あなたに貸すお金は、1円もない」と、突き放された、苦い経験があるからこそ断言できるんです。だから、大原則はこれです。

現金を貯めておくことが最優先

もちろん、最終的には実質的な利益を出していくことが目標。しかし、ひとまず現実を考えれば、実際の手持ち現金を増やすためなら、たとえ表面上は当期純利益が赤字でもかまいません。

私がすごく不思議に感じるのは、経営者の中には現金を貯めようという意志がなく、目標額も意識していない人があまりにも多いこと。

昭和の昔はそれでもよかったんです。金利以上にインフレしていたから、とにかく会社を回して、右肩上がりの経済成長に乗ってさえいれば、手元現金は金融機関から借りられたから。うちの会社なんて、父があまりにも先進的だったせいで大規模な設備投資にこだわり、80年代は100億円(!)ほど借り入れがあったのに、売り上げの管理もコスト感覚もずさんで、税金も払えない時期があった。それでも倒産しなかった(倒産の危機の綱渡りでしたが)。ただ、これはあくまで昔の話です。

何もせずに年3億円の現金収入が入る仕組み

これはちょっと自慢話。私が父から会社を引き継いだとき、まずしたことは固定資産(土地・建物)の売却だった。なぜなら、売り上げがまったくなく、回転資金がないんですから、そうするよりほかに現金を手に入れる方法がなかったから。もっとも、売れるものがあっただけ幸運でした。

売って確保した現金が8億円。そこに襲ってきたのが、東日本大震災と急激な円高だった。目も当てられないピンチ。ところがここで、私は会社の遊休地に太陽光パネルを設置したのです。

投資額、9億円……全額どころか、1億不足している!

どうすれば現金を確保できるか、どうすれば現金を回せるか毎日悩んでいたところに、太陽光発電の固定買い取り制度のニュースを見ました。遊休土地も売れなかったので、これだ! とピンときた。手元の現金を発電量×買い取り価格×期間で考えれば、絶対に今ここで太陽光発電に投資するしかないと確信できた。そこで、1億円をさらにひねり出しました。

結果はどうなったか? このコロナ禍の今も、何もせずに、月平均2500万円、毎年3億円の現金収入になっている。電力会社ってすごいんです。請求書もなしに、発電した分の電気代を振り込んでくる。

今では無借金経営に

すぐ決断できたのは、現金の収入をどうすれば増やせるかを毎日考えていたから。

各種の補助金、給付金、融資なども、現金の大切さを知っていてこそ、常にアンテナを張って、その価値が判断できるというものです。そして、ピンチをチャンスに変えるとしても、まずは軍資金がなければ何も始めることができません。

現在うちの会社は無借金で、かつ売り上げゼロでも3年以上固定費を支払える現金を確保している。やはり社長の腕ですか?(不遜ですみません)。

今(2021年度)なら、中小企業向けに最高額1億円が給付される「事業再構築補助金」という支援策が出ています。ぜひ、検討すべきです。

平 美都江(たいら・みとえ)
平鍛造 前社長
1956年東京生まれ。小学校高学年で父の会社が乗っ取られて、両親の故郷・石川県羽咋市に引っ越す。日本女子大に入学するも、後継者を婿養子にしようとした父に呼び戻されて1年で中退。結婚し1児をも設けるも、後継者候補の婿養子が出奔し、離婚に。父の会社・平鍛造に入社して営業職に。廃業を主張する父との訴訟を経て、社長に就任。取引先がゼロから再スタートして2018年、取引先の大手企業に100億円で売却。2021年6月、社長を退任。

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