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タピオカの二の舞? マリトッツォのブームが年内にも終了しそうなワケ【連載】これからの「思考力」の話をしよう(6)

  • 2021.8.7
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歴史の風雪に耐えた基礎的な理論・フレームワーク(思考の枠組み)を紹介し、現在でも色あせないその魅力について学んでいく連載シリーズの第6回。今回紹介する理論・フレームワークは、「製品ライフサイクルとイノベーター理論」です。

オジさんがマリトッツォを食す

先日、東京都内でカフェに入り、初めてマリトッツォを食べました。

マリトッツォ(画像:写真AC)

56歳男性の私(日沖健、日沖コンサルティング事務所代表)は、普段おしゃれなカフェに入ることはほとんどなく、まして女性客のなかでスイーツを食べることはありません。しかし、ケースに並んだマリトッツォの鮮やかなビジュアルを見て興味が湧き、思わず注文しました。

生クリームがさっぱりした甘さで、トッピングのレモンも良いアクセント。「これ食べたら夕飯を食べられなくなるかなぁ」と少し心配でしたが、生地のパンも軽い食感で、問題なくおいしく食べることができました。なかなかよくできたスイーツです。

帰宅して早速、マリトッツォを食べたことを少し自慢げに家族に報告しました。すると、20歳前後の娘ふたりは「えっ、今ごろ?」、50代の家内は「何なのよ、それ?」という反応でした。

マリトッツォはイタリア・ローマ地方の伝統的なスイーツ・パンで、カプチーノとともに朝食で食べることもあるそうです。日本では2014年頃に上陸し、2020年暮れからブームに火がつき、今ではコンビニエンスストアでも売られるようになっています。

ここで経営コンサルタントの私は職業病で、

「マリトッツォのブームは登山で言うと何合目だろうか?」「タピオカミルクティーを上回る大ブームになるのだろうか?」

と考えました。

「製品ライフサイクル」でブームを分析

世は空前のスイーツ・ブーム。さまざまなスイーツがひしめくなか、マリトッツォがどこまで浸透するのかは、専門家でもよくわかりません。

ただ、製品ライフサイクルとイノベーター理論を参考にすると、かなり合理的に予測をすることができます(私はスイーツの専門家ではなく、合理的だからと言って当たるとは限りませんが……)。

製品ライフサイクル(Product Life Cycle、PLC)は1950年にジョエル・ディーンが提唱したマーケティング理論で、ある商品は人間の一生と同じように

1.導入期2.成長期3.成熟期4.衰退期

という4段階を経るという経験則です。

製品ライフサイクル(画像:野村総合研究所)

縦軸にある商品の売り上げ規模、横軸に時間を取ると、成熟期(3)を頂点とする放物線を描きます。

では、マリトッツォは、今どの段階にあるでしょうか。

ここで成長期(2)の特徴として、その商品の売り上げが急増して市場での認知度が高まること、競争者が多数参入してくること、などが挙げられます。マリトッツォも、2021年に入ってからこうした特徴が表れており、成長期にあると考えられます。

ということは、成熟期(3)になるまで、今よりもっと人気が高まりそうです。

「イノベーター理論」でブームを分析

一方、新商品の普及を購入する側から見たのが、エベレット・ロジャースが1962年に提唱したイノベーター理論です。

イノベーター理論によると、ある商品は全体の普及率100%に対して以下の順で普及します。

1.革新者(イノベーター)2.5%2.初期採用者(アーリー・アダプター)13.5%3.前期追随者(アーリー・マジョリティー)34.0%4.後期追随者(レイト・マジョリティー)34.0%5.遅滞者(ラガード)16.0%

新商品の普及で特にカギになるのが、初期採用者(2)から前期追随者(3)にスムーズに移行できるかどうかです。

普及率が16%を超えるかどうかにキャズム(深い溝)があり、ほとんどの新商品はキャズムを乗り越えられず、市場から姿を消します。

イノベーター理論(画像:マーケティングデザイン)

では、現在のマリトッツォは、「1」から「5」のどれに当たるでしょうか。

イノベーター理論の弱点は、ある時点で「1」から「5」のどの段階にあるかは、後になって全体がわかってから確かめられることで、現在進行形では正確にはわからないという点です。

ただし、革新者(1)と初期採用者(2)が流行に敏感な層であるのに対し、前期追随者(3)は、やや慎重だが平均よりも早く新商品を購入する層で、購入前に実用性を確認してから購入します。

また、後期追随者(4)は新しい商品を使うことに抵抗感があり、周囲が使う場面を見て追随しようとする層です。

マリトッツォの場合、

・さほど流行に敏感なわけではない私の娘ふたりが知っていたこと・56歳のオジさんが食べたこと

からすると、前期追随者(3)から後期追随者(4)にそろそろ移行する時期かなと思います。

つまりマリトッツォは、もう少し広い普及するものの、今後、普及のスピードはかなり鈍化しそうです。

タピオカミルクティーブームとの違い

以上をまとめると、現時点のマリトッツォは、製品ライフサイクルで言うと成長期(2)、イノベーター理論で言うと前期追随者(3)から後期追随者(4)に移行する段階と言えそうです。

4年前に大はやりしたタピオカミルクティーは、同じ段階に爆発的に店舗が増え、各地で行列ができる社会現象になりました。それに比べると、マリトッツォはメディアの露出も少なく、「静かなるブーム」という印象です。

タピオカミルクティー(画像:写真AC)

理論通りなら、今後もさほど大きく広がることなく、小粒なブームのまま、早ければ年内にもブームは沈静化するでしょう。

と、マリトッツォに対してやや悲観的なことを書きましたが、個人的にはほかの色んなスイーツよりもマリトッツォを大いに気に入りました。味やビジュアルもそうですが、シンプルで素朴なところが素晴らしい。

経営コンサルタントの予想を裏切って、末永く日本人に愛されてほしいものです。

日沖健(日沖コンサルティング事務所代表)

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