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「みんなが結婚する社会は幸せなのか」皆婚社会で起きる残酷な幸福度格差

  • 2021.7.28
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結婚と幸福度の関係は、時代の変化とともにどのように変化してきたのでしょうか。人々の幸福度について研究する拓殖大学の佐藤一磨准教授は「かつての皆婚社会では、未婚状態がよりつらくなる『未婚ペナルティ』が発生していた可能性がある」と指摘します――。

挙式したばかりの新郎新婦
※写真はイメージです
結婚している人ほど幸福度が高い

結婚と聞くと、読者の皆さんはどのようなイメージをもたれるでしょうか。多くの場合、結婚に対して肯定的なイメージを持つことが多いのではないかと思います。

結婚は愛する相手と結ばれ、新たな家族をつくっていくプロセスであり、必然的に幸せと深い関係があるためです。

この点に関して数多くの学術的な研究があり、それらの研究結果は「結婚している人の方が未婚の人よりも幸福度が高い」という結論を得ています(※1)(ただし、これは結婚の有無のみを見た場合の結果であり、夫婦関係の良しあしを考慮すると、また別の結果が出てきます。詳細は「『未婚より既婚女性のほうが幸せのウソ』既婚女性に広がる幸福度格差」をご参照ください)。

※1:筒井義郎(2018)結婚と幸福:サーベイ, Discussion Papers In Economics And Business, Discussion Paper 18-01.

日本は脱皆婚社会に

このように大枠で考えた場合、結婚と幸福度の間にはプラスの関係があるわけですが、今回は、社会環境が結婚と幸福度の関係に与える影響について紹介します。

日本ではかつて社会の大半の人々が結婚する「皆婚社会」が成立していました。

総務省統計局の「国勢調査報告」で具体的な数値で見ていくと、男女とも1920年から1990年まで50歳時点での未婚率が5%前後でした。この結果は、残りの95%近い人々が離婚や死別といった結果に終わる場合はあれど、結婚を経験したことを意味しています。

近年では未婚率が徐々に上昇しており、2015年では男性で約23%、女性で約14%が50歳時点で未婚となっています。これらの数値を見る限り、日本は既に「皆婚社会」ではないと言えるでしょう。

このように日本は「みんなが結婚する社会」から抜け出してきていますが、社会環境が「みんなが結婚する社会」から「結婚しない人も一定数いる社会」へと変わる中において、結婚が幸福度に及ぼす影響に変化はあったのでしょうか。

みんなが結婚する社会では「未婚ペナルティ」が発生

「みんなが結婚する社会」の場合、結婚は幸福度にどのような影響を及ぼすのでしょうか。

もし自分が周りと同じように結婚できた場合、おそらく「うまくいった」と安堵するでしょう。これは幸福度にもプラスに作用するはずです。

反対に、もし自分だけが周囲と違って結婚できず、相手を探す日々が続いた場合、心中穏やかではないはずです。これは幸福度にマイナスに作用するでしょう。

このように皆婚社会では、結婚が幸福度をより上昇させ、未婚が幸福度をより低下させると予想されます。

一人寂しく冬のビーチのブランコに腰掛ける女性
※写真はイメージです

ここでの重要なポイントは、皆婚社会だと未婚状態がよりつらくなる「未婚ペナルティ」が発生していた可能性がある点です。社会における「当たり前の状態からの逸脱」が、幸福度を押し下げると考えられるわけです。

このように皆婚社会とは、その構造上、「未婚者と既婚者の幸福度の差を際立たせる社会」であったと考えられます。おそらく、未婚者と既婚者の幸福度の差は、現代社会よりも大きかったのではないでしょうか。

さて、以上の内容はあくまで私の予想・仮説であり、実際のデータで実証されているわけではありません。

「なんだ、お前の当て推量かよ」と思われた方もいるかと思いますが、ちょっと待ってください。実はかなり近い内容をしっかりデータで実証した研究がアメリカにあります。

有配偶率が高い地域と、低い地域で比較

コロラド大学のティム・ワズワース准教授はアメリカにおける結婚と幸福度(実際の分析では生活満足度という幸福度に類似した指標を使っています)の関係を分析しているのですが、彼が注目しているのは、住んでいる地域ごとの有配偶率が結婚の幸福度への影響に変化をもたらすかどうかという点です(※2)。

つまり、住んでいる地域が結婚している人ばかりである場合と、結婚している人が少ない場合で、結婚による幸福度への影響が違ってくるのではないかという点を検証しています。

アメリカは日本よりも国土が広く、人種も多様であるため、結婚に対する考え方もさまざまです。これが地域ごとの有配偶率の差を生みます。その差を利用して、有配偶率が高い地域に住んでいる人ほど、結婚によってより幸せになっているかを検証しています。

さて、実際に分析を見ると、興味深い3つの結果が明らかになっています。

※2: Wadsworth, T.(2016). Marriage and Subjective Well-Being: How and Why Context Matters. Soc Indic Res 126, 1025–1048

有配偶率の高い地域では未婚者の幸福度は低くなる

1つ目は、「住んでいる地域の有配偶率が高い場合ほど、結婚の幸福度へのプラスの影響が大きくなる」というものです。

周囲に結婚している人が多いほど、自分も周りと同じように結婚できているとより幸せになるというわけです。

2つ目は、「住んでいる地域の有配偶率が高くなるほど、未婚者の幸福度が低くなる」というものです。

周囲に結婚している人が多いほど、周りと違って結婚していないことが心理的な負担となり、幸福度を下げてしまうということを意味します。

3つ目は、「有配偶率の増加による幸福度の変化を見ると、未婚者の幸福度の低下の効果が相対的に大きい」というものです。

周囲に結婚している人が多いほど、未婚者の幸福度がより低下するため、既婚者と未婚者の幸福度の差が拡大するというわけです。

日本の皆婚社会でも同じ構造が存在した可能性

以上の結果をまとめると、結婚が幸福度に及ぼす影響は、自分の住んでいる場所において、結婚している人が多いのか、それとも少ないのかという点から影響を受けると言えます。

「結婚している人が多い地域の場合、既婚者と未婚者の幸福度の差は大きくなりますが、その背景には未婚者の幸福度の低下がある」というわけです。

この構造は、日本の皆婚社会でもほぼ同じであったのではないかと予想されます。自分の周りが結婚している人で溢れかえっているのであれば、「自分も結婚しなきゃ」となり、結婚できれば安堵する。しかし、もし結婚できないと疎外感を感じるというわけです。

まわりと違うことをすることが、幸福度を下げる

さて、これまでの話から皆さんもお気づきのように、個人の幸福度は、社会の環境から影響を受けます。

「大多数の人と違うことをすること」が心理的な負担や周囲の人々との軋轢を生み、幸福度を押し下げるというメカニズムがありそうです。

例えば、みんなが結婚する社会では、未婚でい続けるのは肩身が狭く、息苦しくなるでしょう。また、女性の社会進出が進んでいない社会において女性が働き続けることは、心が折れることも多かったと予想されます。これらの例が示すように、周囲の社会環境は、各個人の幸福度に影響を及ぼすと考えられます。

これはまた、「社会環境が変化すれば、同じ行動をとっても、幸福度に及ぼす影響が違ってくる」ことも意味します。

この観点から考えると、脱皆婚社会は、未婚者にとって望ましい変化です。

これまで少数派だった未婚という状態が非少数派になるためです。結婚という選択を以前よりも周囲の環境を気にせず、自分の意志で決めることができる。このような婚姻状況の変化は、未婚者の幸福度の向上に寄与したと考えられます。

結婚と幸福度という観点から見た場合、現代の日本社会は一昔前よりは生きやすい社会だと言えるのです。

佐藤 一磨(さとう・かずま)
拓殖大学政経学部准教授
1982年生まれ。慶応義塾大学商学部、同大学院商学研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。専門は労働経済学・家族の経済学。近年の主な研究成果として、(1)Relationship between marital status and body mass index in Japan. Rev Econ Household (2020). (2)Unhappy and Happy Obesity: A Comparative Study on the United States and China. J Happiness Stud 22, 1259–1285 (2021)、(3)Does marriage improve subjective health in Japan?. JER 71, 247–286 (2020)がある。

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