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日銀が「大株主」なのはどうして?金融経済にどんな影響があるのか

  • 2021.7.27
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日本銀行が保有しているETFの残高が、2021年3月末に時価ベースで51兆円を超えたようです。ETFを保有することによって、間接的に日銀が日本株の大株主となっていると聞けば、日本の中央銀行がそんなことをして大丈夫なのかと驚いてしまいます。

経済に詳しくないという人でも、資産を増やしたいなら金融の大きな流れを知っておくことが大事です。
今回は、これまでの10年間を振り返り、日銀がETFを買い入れてきた経緯を知り、これからの金融経済にどんな影響があるのかを考えていきましょう。

参考:日本経済新聞日銀、ETF含み益最高15兆円 財務の株価影響大きく

日銀のETF買い入れの結果、日本株最大の株主に

ETFとは、取引所に上場している投資信託のことをいいます。株式のように取引所の取引時間内に相場の動きを見ながら売り買いできる商品です。
指数連動型には、株式だけではなく、債券、REIT、商品などの指数もあります。日銀が買い入れたETFは、最初のうちは資金の規模が小さいものでしたが、2020年11月には、日本の公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)を抜き、日本株保有額で最大の株主になりました。

日銀が大株主だといっても、ETFは運用会社を通じて買われているので、株主名簿には運用会社が登録され、直接日銀が株主として名前が出ることはありません。
しかし、継続的にしかも大規模に日銀がETFを買うことで、企業の業績が悪い場合でも株価が下がることが少ないなどの弊害が見られるようになりました。
また、発行済み株式数の20%以上を日銀が持っている企業まで登場しています。中央銀行が株式市場の最大の株主をいうのは、はやり異常な状態です。

日銀がなぜETFを買っているのか?

それでは日銀はなぜETFを買うことになったのでしょうか。日銀のこの10年あまりの金融政策を振り返ってみましょう。

日銀がETFを買っているのは、買い入れを通して市場にお金を供給することで、物価の安定や金融システムの安定を図ることが目的です。

当初ETFの買い入れは、2010年10月に包括的緩和策の一環として、白川総裁の時に決定されました。
当時は「デフレからの脱却」を目標としており、従来の金融緩和では不十分という認識から、日銀がリスク資産を購入するという異例の措置として2010年12月に実施されました。
そこでは買い入れ対象資産を従来の国債ほか、ETF、REIT(不動産投資信託)を新たに加えました。最初の買い付け額は4500億円と、現在にくらべれば規模の小さいものでした。

それから黒田総裁に変わると、ETFの買い入れのペースは一気に倍増し、2013年4月には「異次元緩和策」として、年間1兆円ペースまでETFの買い入れ額が引き上げられました。
この頃には「物価目標2%達成」が掲げられ、株価を押し上げることで物価を上昇させることを目的としました。
その後2014年10月にはJPX日経400型ETFの買い入れが始まり、年間3兆円規模の買い入れとなり、2016年7月には年間6兆円規模まで膨らみました。

さらには、2020年3月のコロナショック時に世界同時株安の対応策として、買い入れ枠を12兆円まで拡大させました。同年3月17日には1216億円の購入、続いて3月19日には2016億円の購入と、この年の3月の日銀のETF買い入れ額は1兆5484億円に達しています。
このようにコロナショック時に買い入れ枠を増やしたため、経済回復の期待感から株価が上昇したことで、2021年3月末には含み益が15兆4444億円まで膨らみました。

時価ベースでのETFの総額は、50兆円を超える結果となっています。

参考:DIAMOND onlineコロナ禍で増える、日銀が「大株主」の企業ランキング

日銀が企業の「大株主」だとどうなるのか?

日銀がETFを買い入れることによって、日本の株式市場の株価が下支えされました。そのおかげで金融システムの安定につながっています。
もし当時、日銀のETFの買い入れがなければ、株価がさらに下がり、金融機関の財務体質の悪化から貸し渋りにつながる恐れがありました。

しかしその反面、株価指数に連動したETFを大規模に買い入れることで、ETFの構成銘柄であれば業績の良し悪しに関わらず関係なく買われる状況が生み出されました。個別銘柄の分析をして買う意味が薄くなり、日銀がETFを買うことによって株価全体が押し上げられた格好になっています。
たとえば、業績が悪かったり、不祥事があったりする会社でも指数に連動する構成銘柄であれば、買われることになります。

これは、企業の価値を評価して取引を行う市場の機能にゆがみをもたらしたともいえ、本来の実勢価格ではない実態を伴わない株価になってしまいます。
株価指数に着目して、株式市場で売られた分を日銀が買い戻すことが繰り返し行われることで、実体経済と金融経済の乖離が起きているのです。

このまま日銀が大株主の状態が続くとどうなるのでしょうか。

株価が順調に推移しているうちは良いのですが、何らかの要因で株価が大きく下落する場合や景気後退の局面では含み損が発生します。
ETFは投資信託なので、買い付け時の手数料だけではなく、ETFを持ち続けている間は、信託報酬という手数料がかかります。売るタイミングがなく塩漬け状態になれば、運用資金の中から手数料が差し引かれるので、最終的には国民の負担となってしまいます。
一方で、運用会社にとっては儲けられるということなので日銀の買い入れは好都合でしかありませんね。

さらに2021年3月時点で日銀が発行株式数の10%台のシェアを持つ東証1部上場の企業は71社、20%台のシェアを持つ企業にいたっては4社あります。試算によれば22年3月末までには、その数が増える予想になっています。
日銀はあくまで保有しているのはETFであり、株式は間接保有となるので、株主総会で議決権を行使するのは運用会社です。その運用会社が適切に議決権を行使しているかは疑問で、もし適切さを欠けばチェック機能が果たせなくなり、企業経営の監視が弱まることにもつながります。

参考:DIAMOND online「日銀が大株主」の企業ランキング!3位TDK、2位ユニクロ、1位は?21年3月末のETF保有大幅増

日銀のETF出口戦略とその問題点

ETFの買い入れは、政策金利がマイナスやゼロまで低下している状況では、政策の一つとして続けざるを得ない厳しさがあると考えられます。
しかしながら、株価が高くなってからも買い続けるとなると、含み損が発生する損益分岐点が上がってしまいます。そこで、株価が上昇局面になっても、ETFを買い続けていくことに意味があるのかという批判も出てきています。

買ったものは最終的には売って、利益を確定させなければなりません。出口戦略とは、ETFの売却のことを指します。
現在のところ、日銀はETFをこれからも引き続き買うという姿勢を崩していません。しかし、日銀が一転してETFの購入を減少させる政策を打ち出せば、株式市場の動揺を招き、売り圧力が大きくなると予想されます。

日銀はこれまで約5年間にわたり、前日の終値から前場(午前中の相場)終値が0.5%のTOPIX下落率を目安に、後場(午後の相場)でETFの買い入れを行ってきました。これを「0.5%ルール」と呼んでいます。こうした日銀の動きに期待して、下げたところを買う動きが見られました。
しかし、日銀が買い入れ額を減少させれば、今までのように日銀が買わないので株価を維持する機能が低下し、日本株の空売りにつながる恐れもあります。

さらに、日銀がETFを買うのを止めることになれば、株価が大きく下落する可能性もあります。しかもETFには債券のように満期がありません。
株式市場の混乱を招かないように残高を減らして売却を進めるためには、時間をかけて慎重に対応する必要があります。

参考:三井住友DSアセットマネジメント点検結果後の日銀ETF買い入れ動向を検証する

日銀ETFの買い入れ方針転換で今後はどうなる?

日銀は2021年3月に年間のETFの買い入れの見直しを行いました。
今までの方針を変更し、年間の買い入れ額の目標から「原則年間6兆円」を削除し、TOPIX連動型のETFに限定して購入することにしました。

これは日経平均型やJPX日経400型の買い入れでは、市場の一部の銘柄へ投資することになり偏りがあるとの批判を是正するものです。
TOPIX(東証株価指数)型に置き換えることで、一部の株価への影響が大きくなるのを防ぐことができるとしています。

また「年間6兆円」目標の削除は、上限の12兆円買い入れは維持しつつ、今後も柔軟な買い入れを続ける意向で、「引き締めの方向にはならない」というメッセージを伝える工夫だと受け取られています。
日銀は物価上昇の妨げとならないように、株価の乱高下による国民心理の悪化や投資行動の萎縮を防ぎたい考えです。
上限の12兆円を維持したのは、今後、市場の混乱時に積極的な買い入れを行う姿勢を明確化したものだとされています。

日銀の方向転換は、買い入れ目標額や購入対象の限定にとどまりません。2021年5月はETFの買い入れがなく、買い入れのルール変更があったとみています。

先ほど書いたように、日銀は0.5%のTOPIX下落率を目安にETFの買い入れを行ってきました。それが2月には1.0%ルールになり、4月21日には2.2%の下落率で701億円買い入れたので、2%ルールに変更されたと関係者は見ています。
その後、2021年5月にはETFの買い入れはなく、6月21日の2.55%の下落率で701億円の買い入れが行われました。このように、日銀の買い控える姿勢が強くなっています。

もし、日銀のETFの買い入れが2%の下落率で出動するとすれば、2015年から2020年の6年間の平均では、年間9回程度しかありません。
2020年度は約7兆円の買い入れを実施していたので、日銀内で下落率の見直しがされたとすれば、これからのETFの買い入れは減額になることが予想されます。

参考:三井住友DSアセットマネジメント点検結果後の日銀ETF買い入れ動向を検証する、REUTERS日銀、21日に通常のETF701億円購入 前場のTOPIXは2.55%安、FinTech Journal激減する日銀のETF購入…いずれ株式市場が痛感する「日銀ロス」とは?

まとめ

日銀のETFの買い入れが金融緩和策の一環だとしても、長期化し保有しているETFがあまりにも大きくなりすぎ、すぐには間接保有の株式を縮小できない状態です。ETF保有の積み上がりは、東証1部上場会社の大株主であるだけはなく、日銀の財務体質が株価に左右されやすい不安定な状況であることも懸念されています。
ETFの売却方法や時期については、黒田総裁は一切考えていないと発言していますが、非常にデリケートな部分であるだけに慎重に対応すべきです。

今後ETFを買い入れる場合、株価水準が高いところで買えば株価が下がったときに含み損が発生します。日銀はETFを買い入れる目的を再考する時期に来ているのではないでしょうか。

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