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批評家の間でも賛否両論 アメリカ建国の歴史描いた『アメリカ THE MOVIE』の真価を探る

  • 2021.7.21
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『アメリカ THE MOVIE』America, The Motion Picture, LLC. (c)2021

『LEGO(R)ムービー』シリーズや、『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018年)、『ミッチェル家とマシンの反乱』(2021年)など、監督やプロデューサーとして、評価の高いアニメーション映画を次々と手掛けているフィル・ロード&クリス・ミラー。Netflixで配信されている『アメリカ THE MOVIE』もまた、彼らのプロデュース作品だ。

しかし、このアメリカ建国の歴史を描いた『アメリカ THE MOVIE』を鑑賞してみて、そのメチャクチャさに混乱した人も多かったのではないか。それもそのはずで、本国アメリカの批評家たちですら、これに関してはかなり評価が割れ、やはり困惑し評価に困っている者もいるようだ。フィル・ロード&クリス・ミラーによる作品としても、この受け入れられ方は異例だといえよう。

なにせ、チャニング・テイタムが声を演じる「建国の父」ジョージ・ワシントンが、チェーンソーを振り回すマッチョな男として描かれているばかりか、アメリカの他の偉人たちとともに知性の欠如した言動を繰り返し、『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019年)さながらに、イギリスの大軍と直接格闘するのである。歴史上の人物たちの名前が次々登場するにもかかわらず、この冒涜ともとれる描写の連続に辟易する観客がいても、おかしくはない。ここでは、そんな本作が、実際には何を表現しようとしていたのを考えながら、その真意と真価を探っていきたい。

物語は、エイブラハム・リンカーンが劇場で殺害されることで動き出す。彼を暗殺したのは、史実ではジョン・ブースだが、ここではアメリカの士官からイギリス軍に寝返った、アメリカにとっての国家的な反逆者であるベネディクト・アーノルドということになっている。しかも彼の正体は、鋭い牙と爪を持つ狼男なのだ。アーノルドは映画全編を通しての悪役となり、親友リンカーンを殺されたワシントンは、両腕に仕込んだチェーンソーを振り回し、アーノルドへの復讐と、英国からの独立を誓う。ちなみに、ワシントンの武器がチェーンソーなのは、少年の頃に桜の木を切り倒したという伝説に由来しているようだ。

だが、この復讐劇は、そもそも成立し得ないものだ。なぜならリンカーンが生まれた年には、すでにワシントンは死去しているので、二人が親友であった事実がないからである。ともあれワシントンは、建国のため志をともにする仲間を集めていくことになる……。

右腕となるのは、サミュエル・アダムズ。彼はアメリカの政治的指導者だが、ビール製造が家業だったため、後に彼の名前を使ったビールが販売されるようになったことから、本作では酒とパーティーが大好きな人物として描かれている。他にも、史実では米軍の虜囚となったはずのジェロニモ、中国系アメリカ人女性という設定のトーマス・エジソンなどがワシントンとともにアーノルドを追い、英国軍と戦うことになる。

しかし、なぜ本作は史実を利用しながら、こんなめちゃくちゃな描写を繰り返すのだろうか。それは、本作を手がけたマット・トンプソン監督のかかわったアニメーション作品に触れることで理解できる。

マット・トンプソンは、アダム・リード監督とのコンビで、アメコミヒーローを題材にした過激で皮肉なコメディー『Frisky Dingo』、『The Xtacles』などのTVアニメを作ってきた人物だ。これらは、アメリカを中心に、世界で放送を行っているTVアニメ専門チャンネル「カートゥーンネットワーク」の深夜帯「アダルトスイム」の枠で放送されていた作品である。「アダルトスイム」では、『リック・アンド・モーティ』など、子どもたちが観るには相応しくない、過激な大人向けアニメーション作品がひしめいている。

そして、やはりアダム・リード監督と組んだTVアニメ『アーチャー』(当時の20thテレビジョン放送)が、国内で大きな成功を収めることになる。この作品は、アメリカの諜報員がミッションに挑戦していくという、スパイアクション・コメディーだ。これも過激かつ皮肉な内容で楽しめるのだが、私自身は『アーチャー』をこれまで他の人に薦めることはなかった。なぜなら『アーチャー』は、素晴らしく面白いコメディーであると同時に、異常なくらいに下ネタが連発する、良くも悪くも下劣極まりない内容だからだ。どれほど下品なのかというと、これを薦めることで人格に問題があると思われるおそれがあると感じるくらいである。ちなみに、Netflixでも鑑賞可能だ。

ともあれ、これらの作品の内容を踏まえることで、マット・トンプソン監督が『アメリカ THE MOVIE』で何をやりたかったのか、理解が容易になるはずだ。

カートゥーンネットワークで、大人のための「アダルトスイム」の枠が生まれることになった経緯の一つには、『レンとスティンピー』というTVアニメシリーズの存在がある。これは、子ども向けとして放送されているにもかかわらず、クリエイターの暴走によって、どんどん過激な内容になっていった作品だ。その暴走は、ついにそのエピソードの中で、アメリカ歴代大統領の中でも奴隷制廃止への貢献によって讃えられているエイブラハム・リンカーンを冒涜するまでに至った。

そのエピソードでは、主人公レンとスティンピーは、ワシントンD.Cに実在するリンカーン記念堂の守衛を任せられるが、像の頭部を破壊してしまう。それを誤魔化すためにいろいろと策を講じるものの、最終的にゴミ収集車用の大型のゴミ箱をリンカーン像の頭部に設置し、そのゴミに火がついて燃え続けるという、地獄のような光景が描かれたのだ。

ここではおそらく、リンカーンの思想に対する政治的な批判を込めたのではなく、単に不謹慎で過激な表現をしてやろうという意図に過ぎないのだろう。しかし、これはさすがにやり過ぎではないか。信じがたいことに、このエピソードは、いつものように子ども向けのアニメとして放送され、私もそれを日本のカートゥーンネットワークでリアルタイムに目撃して、あまりの内容に言葉を失ったことを覚えている。

『レンとスティンピー』は、さすがに放送局でも問題となり、人気シリーズとなりながら終了を迎えることになる。しかし、このようにタブーを破壊する願望が、アメリカの一部のクリエイターにくすぶっていたのは確かで、マット・トンプソンらは、この文化圏のなかで創作スタイルを醸成させていっただろうことは想像に難くない。「アダルトスイム」が生まれたのは、このような過激なクリエイターの表現を隔離して、子ども向け作品と明確にゾーン分けするという意味もあったはずである。

だが、本作がただ不謹慎なパロディーをやりたいというだけでないことは、劇中で「国歌」を歌うシーンによって理解できる。クライマックスのイギリス軍との戦いを控えて、ワシントンたちは心を一つにするため、心の拠り所となる国旗のデザインや国の歌を考案するという展開になる。そこでワシントンが有名な「星条旗」を歌い出すのかと思ったら、何を思ったか、2021年現在も活動している、南部のロックバンド、レーナード・スキナードの「フリー・バード」を口ずさみ始めるのだ。

レーナード・スキナードは、1960年代よりメンバーを刷新しながら継続しているが、アメリカでは人種差別の象徴ともなっている南軍旗を掲げたり、近年も政治的な態度が先鋭化していたバンドである。そして「フリー・バード」は、女性を置き去りにして一人旅に出ようとする男性の姿を、飛び立つ鳥に例えるといった内容で、無責任な男の行動を美化しているととらえることもできる歌詞となっている。映画『キングスマン』(2014年)でも、この歌がバイブルベルトの教会での差別的な人々の集会でのシーンで流れていたように、過激な政治思想の象徴として扱われている面があるのだ。

つまり、本作でのワシントンの戦いによって体現される“愛国精神”や、独立戦争をアメコミヒーローのような正義の戦いとして、実際よりも神聖視、英雄視して描かれる歴史観というのは、現在のアメリカで問題となっている、カルト的な“愛国精神”の暴走に重ねられているのである。

ジョー・バイデンが勝利した2020年の大統領選後、アメリカ国旗や南軍旗を振り回す集団が、ホワイトハウスを占拠して逮捕されるという事件が起きた。そんな彼らに影響を与えたのが「Qアノン」という陰謀論だとされている。でたらめな根拠で大統領選が大掛かりな不正選挙だと主張したり、民主党議員らが悪魔を崇拝して子どもを奴隷として取引きしているなど、その主張はあまりに荒唐無稽なものだったが、SNSや集会などで同じ意見の者たちが限定的な空間を作り、主張を正しいと言い合う環境が形成されることによって、少なくない人々がデマを信じ込み、“愛国者”を自称する人々がホワイトハウスに暴徒として乗り込むまでに至ったのだ。

本作『アメリカ THE MOVIE』は、この事件が起こる前から製作を続けていたはずだが、過激な陰謀論の信奉者や、人種や女性に対する差別を公言するような、社会に対して“無責任”な人々が増えた状況は、アメリカ社会を揺るがす問題となっていたのは確かだ。そんな空気のなかで本作のクリエイターは、皮肉で過激なコメディーという作風を、荒唐無稽な情報が乱れ飛ぶ不穏な時代を反映する手段として昇華させたのである。これはまさに、「アダルトスイム」に代表される過激で不謹慎なクリエイターにしかできない、社会に対するアプローチである。

アメリカ建国の経緯をむちゃくちゃな歴史認識で描く本作『アメリカ THE MOVIE』は、その意味で、過去の時代を扱った作品というより、むしろ歴史的な題材を利用することで、現在のアメリカの状況をそのまま見事に表現した作品だといえるのだ。本作は、このような視点で鑑賞することで、はじめて真価が分かるつくりになっているのである。(小野寺系)

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