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東大を目指さない日本の秀才女子高生は中国の難関、北京大と清華大ダブル合格

  • 2021.7.18
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東京大学のシンボル「赤門」

日本の高校から、アジアのトップ大学を目指す若者が出始めている。茨城新聞は2021年6月30日、茨城高卒業の阿部愛琳さんが中国の清華大と北京大に合格したという記事を配信した。海外の大学に直接進学する高校生は増えているが、欧米の大学ではなく、アジアの名門大学を目指すケースはまだ珍しい。

「将来は中国と日本の懸け橋に」

茨城新聞によると、阿部さんは、アジアで1、2を争う難関大学、中国・北京の清華大と北京大の両方に現役合格した。

日本人の父親と中国人の母親との間に日本で生まれ、2~5歳までは清華大の教授を務めていた中国の祖父母の元で過ごした。帰国後は水戸市立千波小を経て、茨城中高に入学。中国語は話したり聞いたりすることはできたが、読み書きが全くできず、語学教室に通いつつ、母親からも学んだという。

中学時代から長期休暇を利用し、米国やカナダなどの短期留学を経験して英語も習得。中国の大学を志望したのは「中国には日本のような敬語がなく、性別や年齢にかかわらず和気あいあいとコミュニケーションが取れる環境に魅力を感じた」ことが理由だと語っている。

中国と日本の両国の文化や価値観を肌で知っているからこそ、両国間で抱える外交問題などを解決したいという思いが強まり、「将来は中国と日本の懸け橋になるような仕事に就きたい」と夢を膨らませているという。記事配信時点では、まだに入学先は検討中とのことだった。

「高校時代の思い出は勉強以外にない」

阿部さんが合格した北京大や清華大のレベルの高さや、中国の教育事情については最近、日本でも何冊かの本で紹介されている。

『「超」整理法』の大ベストセラーで知られる野口悠紀雄さんの『平成はなぜ失敗したのか』(幻冬舎)によると、全米科学財団が発表した2016年の論文数世界ランキングでは中国がトップ。世界の大学ランキングでも200位までに日本は2大学だが、中国は7大学。世界のコンピューターサイエンス大学院のランキングでは1位が清華大学で、東大は91位に過ぎない。

中国事情に詳しいジャーナリスト、中島恵さん『日本の「中国人」社会』(日経プレミアシリーズ)によると、中国の進学競争の激しさは日本の比ではないらしい。生後まもない赤ちゃんは「大学入試まであと〇日」などという言葉を添えて写真を撮るそうだ。生まれた時から、大学受験に向けたカウントダウンが始まっている。

中学のクラスは成績順の編成だという。高校では成績優秀者を出した教師に報奨金が与えられる。北京大、清華大などの難関大の合格者を出せば、高校にも報奨金が出る。合格者の一族にとっても名誉となる。「高校時代の思い出は勉強以外にない」「一日10時間勉強した」などという人は少なくないらしい。

中国の高校「恋愛禁止」

『清華大生が見た 最先端社会、中国のリアル』(クロスメディア・パブリッシング)は実際に清華大を出た日本人の体験記だ。

著者の夏目英男さんは1995年、東京生まれ。親の仕事の関係で2000年に北京に移住し、中国で育った。2017年に清華大学法学院及び経済管理学院(ダブルディグリー)、19年に同大学院公共管理学院(公共政策大学院)を卒業している。

清華大は、習近平国家主席の出身校でもある。北京大と合わせて「中国の双雄『清北』」と呼ばれているそうだ。世界大学ランキングでは、両大学がアジアのトップを競い合っている。長年トップを続けてきた東京大学はこのところベスト5に入っていないという。

近年の中国の躍進は、教育重視の結果だといわれている。その頂点に君臨し、デジタル革命をけん引してきたのが「清北」だ。入学するのは針の穴をくぐるようなもの。そのために中国では中学、高校と激烈な受験競争が続く。その内情を著者は分かりやすい形で言い切っている。

「中国の高校では基本的に恋愛は禁止です」

恋愛する時間がないほど、学業に時間を費やさざるをえないというのだ。高校によっては、生徒の恋愛関係が発覚した場合、退学処分になるほど厳しいのだという。

中国の名門高校の中には、在校生に大学レベルの授業をしているところもある。そこから欧米の名門大にも多数の成績優秀者を送り込んでいるという。中国のトップ高校では、生徒たちが中国最難関の「清北」と、西欧の名門の二手に分かれて進学していく様子がうかがえる。

日本の大学の劣化が否定できない

一方で、日本の大学が危うい状況にある、と指摘する本も目立つようになっている。『大学はもう死んでいる? トップユニバーシティーからの問題提起』(集英社新書)もその一つ。

著者の吉見俊哉さんは東京大学大学院情報学環教授。ハーバード大学で教えた経験もある。東大では副学長も務めた。吉見さんは述懐している。

「この30年間で、東京大学は中国の北京大学や清華大学、国立シンガポール大学などのアジアの大学との差を縮められ、追い抜かれていきました。つまり、世界の中での日本の大学ということで言えば、日本の大学の地位は相当沈下してしまったし、内実としても劣化ということは否定できません」

5月22日の朝日新聞は、徳島県の高校から米スタンフォード大学に現役合格した松本杏奈さんを、地方の高校から米国名門に進んだ珍しいケースとして紹介している。松本さんは高2の夏、中国で開かれたノーベル賞受賞者や研究者が集まる「アジアサイエンスキャンプ」に公募で参加。「アメリカの大学に行くよ」と当然のように話す同世代の高校生らに刺激をうけ、海外進学が現実的な目標になったという。

渋谷教育学園幕張では海外30校に合格者

この記事では最近、日本の高校から海外の大学を目指す高校生が激増していることも伝えている。

渋谷教育学園幕張高校(千葉市)では今春、マサチューセッツ工科大など海外大30校に生徒が合格した。1983年の創立後まもなく帰国生を受け入れてきたが、近年は海外で生活したことがない生徒でも海外大を受験することが身近になってきているという。

同校では毎年、中学高校の全学年を対象に海外大進学の説明会を実施。海外大に進学した卒業生らを招き、実際の学校生活などを紹介している。2019年には約250人の生徒や保護者が参加したという。

広尾学園高校(東京都港区)では、14年に生徒が合格した海外大は9校だったが、20年には219校まで増えた。07年度からインターナショナルコースを新設し、ここ数年は同コースの7~8割の生徒が海外大を受験する。記事の中で、植松久恵・コース統括長は「近年、生徒の海外志向が高まり、海外大が背伸びして受けるものではなく、現実的な志願校として目指すようになった」と話している。

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