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エリート人材が揃っているのに、なぜか「愚かな意思決定」をしてしまうチームの特徴8つ

  • 2021.7.13
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優秀な人が集っても、非合理な決定を下してしまうことはあります。脳科学が専門の細田千尋さんは「人の意思決定は、非常にシンプルな問題を解くような状況でも、簡単に揺らいでしまう非常に不確かなものです」と指摘。正しい意思決定ができなくなる状況について解説してくれました――。

オフィスでのミーティング
※写真はイメージです
正解がわからない中での決断

未知の出来事に対して、どの時点でどのような判断を下すことが正しいのか? これに対する正解を導くことは難しく、おそらく、歴史として振り返った時に、さまざまなことがやっと見えてくるようになるのでしょう。それでも、私たちは、「決定」をすることで前に進んでいくしかありません。

コロナ禍では、人種差別、イデオロギーの対立が顕在化し、ロックダウンや緊急事態宣言による経済的打撃も起こりました。そして今、私たちは、個人レベルではワクチン摂取の有無を決め、社会としては、いよいよオリンピックが東京で開催されることを決定しています。

何が正解かわからない中で、自分が信じていることを裏付けてくれる情報が提示されると、脳の中では、ドーパミンの分泌量が急激に増えることが示されている一方、自分の意見を無視して、集団の雰囲気や秩序に合わせる時(同調圧力)には、脳は社会的な痛みを感じていることが報告されています。今回は、集団における決定が非合理になる理由やその特徴と、同調圧力によって感じる脳の痛みについてご紹介します。

集団でこそおこる非合理な意思決定

極めて優秀な人たちからなる集団であっても、集団で意思決定を行うと、個人ごとに決定したものより、明らかに非合理的で劣った決定がなされる場合があることがわかっています。戦争の開始など含め、歴史的にも多くその例が見られるのですが、有名な例の一つに、1986年にアメリカで打ち上げられたスペースシャトル、チャレンジャー号の打ち上げがあります。打ち上げから73秒後に空中分解し、7名の飛行士が犠牲となりました(しかもそれが世界的に生中継された)。

当日の悪天候や冬という季節ならではの低気温、部品の欠陥があったことから、安全な発射が難しいと考え、チャレンジャー号の打ち上げを目前に、現場の技術者たちはチャレンジャー号の打ち上げを延期するように求めていました。NASAの上層部は、技術者たちの訴えを聞いたにもかかわらず、「絶対に計画は失敗しない」という信念をもち、信念に反する事実(計画決行に危険性があるという指摘)を無視したと言われています。「自分達は失敗しないだろう」という過信が存在し、外部からの忠告や都合の悪い情報を軽視しがちになる、あるいは、忠告をする雰囲気を作らせず少数意見を持つ者に対して、暗黙のうちに多数意見に合わせるように誘導し(同調圧力)、愚かな自信の下に愚かな判断を集団で下すことを、「集団浅慮」と言います。

「集団浅慮」を起こしやすい組織の8つの特徴

「集団浅慮」を提唱したJanis(1982)の研究によると、「集団浅慮」は、全員の一致を求める傾向が強い集団に現れやすいとされています。そのため、①集団の凝集性の高さ(集団への帰属意識が高い)、②不公正なリーダーシップや多様性の欠如など組織の機能構造的欠陥、③外的な強いストレスや自尊心の低下など状況的要因、これらがある場合に、全員一致の判断、を求める傾向が高まり集団浅慮に陥りやすくなるとされています。この集団浅慮に陥っている集団が示す特徴には、[過大評価][狭い了見][一致への圧力]に分類される以下の8つがあります。

1.失敗をしないという幻想を抱いている[過大評価]
2.道徳的、心理的に正しいと無批判的に信じている[過大評価]
3.自分たちに不都合な情報に価値を持たず、集団の行動を合理化するための努力が行われる[狭い了見]
4.敵対者へのステレオタイプな判断[狭い了見]
5.個人の中でも、集団からの逸脱を自発的に避けようとする自己検閲が働く[一致への圧力]
6.全員が一致しているとの幻想を抱く[一致への圧力]
7.同調圧力を働きかける[一致への圧力]
8.自分たちに不都合な情報や批判から自分の集団を守る監視人を自認する人材が現れる[一致への圧力]

「ストレス」という言葉のパズルピース
※写真はイメージです
集団浅慮を防ぐ9つの防止策

Janisは、この状態を防ぐための9つの防止策も提案しています。

1.批判的評価者の設定:リーダーは、それぞれのメンバーに批判的評価者の役割を与え、メンバーが反対意見や疑問を発言するプライオリティを高めるべき
2.公正なリーダーシップ:リーダーは最初から意見せず、公正なリーダーシップに努めるべき

3.計画策定グループと計画評価グループの独立:計画策定とその評価を、異なるリーダの下にある完全な別グループが行うべき

4.複数のサブグループの設置:検討グループは、2つ以上のサブグループに分かれ、異なる議長の下で別々に検討を進めるべき

5.所属組織からのフィードバック:状況を自分の所属組織の信頼できる仲間に定期的に相談し、フィードバックを得るべき

6.外部意見の取り込み:外部専門家を会議に1人以上参加させ、コアメンバーの考えに対して異論を言うよう促すべき

7.悪魔の代弁者(devilʼs advocate):すべての会議において、少なくとも1人は、批判的立場をとる悪魔の代弁者の役割を与えるべき

8.敵対者の分析:敵対組織に関わる意思決定の場合、客観的にその組織を分析するべき

9.再考:いったん最善と思われる選択で合意したら、最終的な意思決定を下す前に結論に至ったプロセスを全員で再考するべき

人は同調圧力に簡単に屈する

上記の9つを強く意識していないと、いかに人が、周囲の環境によって、簡単に(自分の意思や判断を抑えて)間違った回答を選ぶのか(同調圧力)を示す、古典的実験があります。

【図表1】上段の線と同じ長さのものを下段から選んでください
【図表1】上段の線と同じ長さのものを下段から選んでください

図表1を見てください。上段の線と同じ長さのものを下段から選んでください、という問題です。この実験の時に、いわゆる、サクラの実験参加者数人が、aと答えると、その中にいる一人の本物の実験参加者は、bと思っていてもaと答えてしまうということがわかっています。面白いことに、サクラの中に、一人だけ正解のbと答える人がいると、本物の参加者の中でも多数派のaと答える割合が一気に5%以下までさがることも示されています。

同調圧力という言葉を聞くと、何かしらのプレッシャーがかかるように思ってしまいますが、実際そのような圧が直接的にはなくても、「合わせないと孤立する(排除される)かもしれない」という思いを自ら作り出すことでも、簡単に集団の間違った判断に合わせてしまう傾向があることがこの実験から示されています。

同調圧力は脳に“痛み”を感じさせる

同調圧力がかかっている条件下では、脳の前頭前野や、前部帯状回という脳の場所が活発に活動していることが示されています。前頭前野は、道徳判断や他者理解など、自分の価値に基づいて社会的判断を行う時に使う脳の場所でもあり、同調圧力のかかっている時には、自分と周りの判断に食い違いが生じている中での判断を強いられることで活動が活発になっていると考えられます。面白いことに、前部帯状回は、社会的な痛みを感じる脳の場所であると言われており、同調圧力下では、集団からの排斥によって生じる社会的な“痛み”を脳が感じていると考えられています。

コロナ禍での自粛のあり方、ワクチン接種、さらには、オリンピック開催。今、社会も私たち個人も、多くの判断を求められています。自粛警察などは、Janisが指摘した集団浅慮の特徴の一つである、集団を守る監視人を自認する人材の現れ、そのものでしょう。

人の意思決定は、棒の長さを答えるという最も簡単な問題を解くだけの状況の時でも、簡単に揺らいでしまう、非常に不確かなものです。より、正しい判断をするためには、そのことを自覚し多様な情報を基に、一人できちんと考える時間が必要と言えます。

<参考文献>
・Janis,I.L.(1982)Groupthink(2nd edition),Boston,MA:HoughtonMifflin.
・Asch, S.E.(1951). Effects of group pressure on the modification and distortion of judgments. In H.Guetzkow(Ed.), Groups, leadership and men(pp. 177–190).
・Adolphs, R. (1999). Social cognition and the human brain. Trends in Cognitive Science, 3, 469-479.
・Moll, J., Eslinger, P. J., & de Oliveira-Souza, R. (2001). Frontopolar and anterior temporal cortex activation in a moral judgment task: preliminary functional MRI results in normal subjects. Arq Neuropsiquiatr, 59, 657-664.
・Eisenberger, N. I., Lieberman, M. D., & Williams, K. D.(2003). Does rejection hurt? An fMRI study of social exclusion. Science, 302, 290-292.

細田 千尋(ほそだ・ちひろ)
博士(医学)
帝京大学先端総合研究機構内にて細田研究室を主催。東京大学大学院総合文化研究科研究員兼任。細田研究室では、素質個人差や、やり抜く力などの個人特性を脳特徴量から定量化し、BRAIN x IOT インタラクションによる、新しいオーダーメイド生涯目標達成支援法の開発とその元となる基礎研究を実施。企業等との産学連携研究も多数実施。内閣補正予算により決定され2021年度から開始された、日本の破壊的なイノベーションに繋がる研究成果を生み出すための「創発的研究支援事業」において全国から採択された約250名の研究者のうちの一人。

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