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サレ妻と、夫の不倫相手が出会い...!? 度肝抜かれるジェットコースター・サスペンス

  • 2021.7.12
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夫に不倫された妻と、夫の不倫相手。もしこの2人が出会ったら、いったいどんな事態が巻き起こるのか。想像しただけで冷や汗ものだが......。

夕鷺(ゆうさぎ)かのうさんの著書『愛するあなたの子を授かって、十月十日後に死ぬつもり。』(朝日文庫)はタイトルからして、すでに不穏な雰囲気が漂っている。

「ジェットコースター・サスペンス」の帯コピーどおり、スリリングな展開に度肝を抜かれた。

「(そうだ......十月十日経ったら)どうして今まで思いつかなかったんだろうか。ほんの、簡単なことなのに。この子が生まれてくるんじゃない。私がこの子のところに行けばいいんだ」

母親が産んだばかりの赤ちゃんと心中を図るつもりかと思ったら、そうではなかった。母親は流産し、その後も架空の成長記録を書き続け、赤ちゃんが生まれてくるはずだった頃に死ぬつもりなのである。

子供ができれば、きっと

不妊治療の果てに流産し、それを周囲に明かせず精神的に追い詰められ、死を考える千夏子(ちかこ)。千夏子の夫の子を不倫で妊娠した茗(めい)。親の愛情を知らずに育った莉音(りおん)。

奇遇にも、この「孤独」な3人の女性は出会うことになる。それぞれが交互に語り手となり、物語は進んでいく。

千夏子は33歳。シナリオライター。艱難辛苦はそれなりにあったが、「頑張れば、がんばった分だけの努力が認められる」人生を歩んできた。ところが、夫・仁との間に子供ができない。これは青天の霹靂だった。

不妊治療の相談をしても、夫は自分の問題として見ようとしない。これまでも夫に対する違和感は蓄積していたが、「子供ができれば、きっと些細な違和感などどうでも良くなる」と思っていた。

「心にふり積もっていく小さな『あれ?』の瞬間瞬間を、千夏子はそうして見ないフリをした。(中略)まさか、『子供ができない』という可能性について、その時の千夏子は一切考えてはいなかった、けれど」

これで、やっと「普通」のはずだった

夫の協力を得られないまま2年が経過した頃、千夏子は妊娠した。「これで、やっと『普通』だ。目指す未来に近づける」「子供ができたのだから。もう『大丈夫』だ」と思っていた。ところが、妊娠8週、3日目。千夏子は流産したのである。

「空っぽの子宮に隙間風が吹き込んでくる。それは肋骨を抜け、臓腑を軋ませ、心臓に絡みつき、報せた。そこはもう、なんの命も育んでいないことを」

流産を告げた千夏子に対する夫のリアクションが、これまたひどい。親にも会社にも妻の妊娠を話してあるのに「どう説明するんだよ!!」と叫ぶ。「流産したなんて......恥ずかしいだろ」と口止めを要求する。

夫婦関係は冷え込み、そのうち夫の急な外泊が増えていった。そんなある日、千夏子は夫のスマホを見てしまう。そこには「茗」という女の裸の写真の群れがあった。

身の回りに必要なものを一通りバッグに詰め込み、千夏子は逃げるように家を出た。「おしまいだ、もう。全部おしまいだ」――。

「最後の時」をどうやって過ごしたものか

茗は23歳。ゴミ溜めのような家で育った。茗は、母が不倫相手との間にもうけた子。母に殺されかけて部屋を飛び出して以来、住所不定のまま、今ではネットカフェが「我が家」になっていた。

千夏子の夫・仁とは、派遣先の商社で知り合った。「母のようにだけはなりたくない」と思っていたが、茗は仁との一線を越えてしまう。しばらくして、茗は気づいた。生理がきていない。「何かの、間違いだったら」と思っても、お腹の膨らみは見間違いようがなかった。

莉音は19歳。派手な金髪にピアス。茗が寝泊まりするネットカフェで受付をしていた。茗の異変に気づいた唯一の人物である。

千夏子と茗は「夫・仁」。茗と莉音は「ネットカフェ」。ここでは、彼女たちの接点を明かすにとどめておこう。

「そんなことある?」と内心ツッコミを入れつつ、あれよあれよという間に読み終えた。まさに「ジェットコースター」。読みながら何度も眉間にしわが寄るほど、なかなか壮絶である。

「あの子を授かって十月十日が経った時、この命を絶つ。それだけ決めて出てきたはいいが、(中略)それまでの『最後の時』をどうやって過ごしたものか」

そう、「最後の時」のはずだったのである。ところが、思わぬところで運命が交差して......。「孤独」な3人の女性は、思いのほか快活でたくましかった。物語をスカッとする方向に動かしていく。

■夕鷺かのうさんプロフィール

鳥取県生まれ。作家。2009年第11回エンターブレインえんため大賞ガールズノベルズ部門奨励賞を受賞。『ヤンキー巫女逢桜伝』でデビュー。著書に「(仮)花嫁のやんごとなき事情」シリーズ、「後宮天后物語」シリーズ、『今日は天気がいいので上司を撲殺しようと思います』など。

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