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銀座の新しい“水の風景”「ルイ・ヴィトン 銀座並木通り店」:東京ケンチク物語 vol.25

  • 2021.7.11
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2021年3月に生まれ変わったトップメゾンの最新店。水面がそのまま立ち上がったような現代的佇まいは、 銀座の町の歴史を思い出す拠り所でもあるのです。

ルイ・ヴィトン
銀座並木通り店
LOUIS VUITTON GINZA NAMIKI

海とか池とかプールとか、自分の好きな水面を思い出してみてほしい。晴れた日の光の下でキラキラと輝き、夕日の頃には紅く染まる。曇天には柔らかに揺れて、雨に打たれるさますら美しい……。建築がそんな水の衣をまとったら、まさにこんな感じになるはず。それが、元からの場所に新たに生まれ変わった「ルイ・ヴィトン 銀座並木通り店」だ。

角地に立つ8階からなる建造物は、有機的にカーブするガラスを組み合わせた、波打つ曲面で通り側が覆われている。直線で構成される周囲の街並みの中で、ここだけがゆらゆらと風に揺れているようでハッと足が止まる。さらに天気や時間帯、角度によっても表情がどんどん変わっていくから、つい見つめ続けてしまうはずだ。

〝水の柱〟と呼ぶのがふさわしいこちらの建物、ファサード(外装)のデザインは青木淳。数多くのルイ・ヴィトンの店舗ファサードを手がけてきたほか、「青森県立美術館」などの設計でも知られる建築家だ。青木がこの「ルイ・ヴィトン 銀座並木通り店」で〝水〟をインスピレーションにしたひとつの大きな理由は、銀座の土地がかつて海に突き出た砂洲だったこと。海とつながる水辺の町であったことを思い出させる外観でもあるのだ。

周囲の景色や光を映して変化する外形は、曲面ガラスに〝ダイクロイックコーティング〟という特殊な加工を施したもの。最先端の技術で伝統的・歴史的な要素を表現する、それも声高にやるのではなくその意図を静かにひそませているのは、さすがトップメゾンといったところ。伝統と技術とを自由に組み合わせて新しいものを生み出す姿勢に、ブランドのありようそのものが表れたファサードでもある。

さらに、〝水〟のコンセプトは、アメリカ人建築家ピーター・マリノによる、4フロアのショップスペースのインテリアにも通じていて、優雅な流線や水辺を想起させるキーカラーが随所に使われる。白眉は、ショップ奥の2階から4階を貫く階段室。漆喰で仕上げた壁に囲まれ、水の中に揺れる海藻のように螺旋階段がゆったりと上がっていく。2人の名建築家が出現させた、銀座の新しい「水の風景」だ。

GINZA2021年6月号掲載

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