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【連載・暮らしと、旅と…】奄美大島・豊かな自然を感じるエコツアー

  • 2015.7.3
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トラベルライター朝比奈千鶴による、暮らしの目線で旅をする本連載。奄美群島をめぐる旅は3つ目の島、奄美大島へ。沖縄、佐渡島に次いで、国内で3番目に大きい島・奄美大島は、世界自然遺産への登録を目指している奄美群島のなかで最もエコツアーが盛んな地域です。今回は、亜熱帯の豊かな生態系を体感できると評判の金作原(きんさくばる)を歩く原生林探検ツアーに参加してみました。

金作原は、奄美大島のほぼ中央に位置する原生林です。このツアーに参加したのは、島の豊かな自然の仕組みを知りたかったから。林道をガイドなしで歩いてみるだけでも気持ちがいいのですが、地元ガイドが一緒ならば地域の森や地形を理解できるのでもっと旅を楽しめます。何よりも、島にはハブも棲んでいるから、山に慣れたガイドとともに行動したほうが安心です。

標高300mあたりの場所を歩く約2.5㎞の探検コースでは、あちこちから鳥の鳴き声が聞こえてきます。突然、ギャーギャーとひどく鳴く鳥がいたので見てみると、瑠璃色と紅色の混ざった美しい色の鳥がいました。「みなさん、ルリカケスですよ、見てください」とガイドの西條和久さんが急いでみんなに声をかけます。ツアー参加者がカメラを出そうとあたふたしている姿を横目に、ルリカケスは向こうのほうへ飛んでいってしまいました。あーあ。それにしても、その声と姿といったら、たいへんなギャップです。 奄美では、日本で生息するとされている野鳥種650種のうち、350〜360種類ほどの鳥が確認できます。そのなかでも天然記念物、ルリカケスに出会えた私たちはとてもラッキーだった模様。ここでは、リュウキュウアカショウビンやアカヒゲなどの珍しい鳥たちもよく見られるようですが、その姿は茂った葉かげに隠れ、いろんな種類の鳴き声だけがずっと聞こえてきます。

原生林の環境は、めまぐるしいスピードで変化しています。今日、あるところで花が咲いたかと思えば、別の場所でまた違う花が咲き、それにあわせて集まる昆虫や鳥類などが変わっていくというサイクルがあります。今日咲いた花がきれいだから翌日に、と思ってお客さんを連れていくともうしぼんでおり、その花が咲くのを見るには1年待たねばならないなどというのはよくある話なのだとか。だから、西條さんたちは毎日原生林に入り、観察記録をしっかりと残しているのだそう。その蓄積は、手元のタブレットに事典のように収められています。 原生林のなかは、自分の身長よりも大きな巨大なクワズイモに遭遇したり、オオタニワタリがまるで生き物を食べるように葉を広げていたりと、まるでジブリアニメの世界のようです。シダのなかでは最大級のヒカゲヘゴのつくる影の下を歩いていくと、高さ22mにもなるオキナワウラジロガシが現れました。地をはうように立派な板根(ばんこん)を広げ、お化けのよう。この樹齢150年の大木は琉球列島の固有種で、奄美大島が北限の生息域です。

このような力強い木があちこちに存在するこの原生林には、何か精霊がすんでいそうな気がしました。ここには「ケンムン」という妖怪もいるよ、と西條さんがみんなを脅かすので思わず振り返ってしまいましたが、もちろん背後は緑の森。ケンムンは、純粋な心を持つ子どもや心やさしい人、神がかった能力のある人にしか見えないのだとか。それを聞いてほっと安心しました。 「奄美大島の森は、通称ブロッコリーの森というんですよ」と、西條さんがいうので遠くの山を見渡してみると、モコモコとしたいくつもの緑の塊が海風に揺れて見えます。確かに、その姿は「ブロッコリー」そのもの。これは照葉樹の木々が光合成のために、太陽に向かって葉をつけることからでき上がった景観です。木の下には、国の特別天然記念物である可愛らしいアマミノクロウサギや毒を持つ恐ろしいハブなどさまざまな生き物が生息しています。

イタジイ、イジュなどの樹齢100年以上の木々が残っている金作原は、昭和30〜40年代に盛んだったパルプ材生産のための伐採が及んでいない数少ない地域のひとつ。この原生林が奄美大島の自然の営みに大きく貢献していると西條さんはいいます。そのキーワードは、水です。 「奄美群島にやってくる台風の規模の大きさをご存知ですか? 家の屋根が吹き飛ぶなど被害の部分ばかり大きく取り上げられますが、実は島にとって大事な役割を果たしているんですよ」と、西條さんは視点をずらして自然を眺めてみるよう、参加者をうながします。

「激しい雨風は木を倒し、土地を荒らすので島民は台風のシーズンになると戦々恐々としています。でも、原生林では倒木によって太陽光が地面に届くようになり、地面に近い植物が成長します。梅雨が終わる頃には森の栄養分がたっぷりと含まれた山の湧水が川となって海に運ばれ、その海でサンゴ、ヤドカリ、サワガニなどが産卵します。川は海へ注ぎ、海がまた雨や台風の発生場所となる。原生林を通して、水の流れで自然が循環しているのがよくわかるんです」。

台風のおさまる秋には、海は落ち着きます。透明度が増した青い海は人々の心を和ませます。山では落ち葉の養分をエサにする虫が集ります。そして彼らを狙う鳥たちがあちこちからやってきて、冬には鳥の楽園になるのだそうです。鳥は種を運び、また植物が発芽します。

大きな視点で眺めると、台風到来も奄美群島の大切な循環の一部。そんなふうに人々が台風を受け入れながら暮らしている様子を与論島や沖永良部島でも耳にしてきました。 30年以上前、西條さんは、大学の夏休み期間に島に帰省して、海水浴場の監視員のアルバイトをしていました。生まれ故郷の海の風景、ウミガメの産卵などに毎日接して、改めて島に愛おしい感情を抱いたそうです。その体験から、将来は島に帰りたいと思う気持ちが強くなり、Uターンして観光業を仕事にしました。

「観光ネットワーク奄美」としてエコツアーを始めたのは18年前。何度も金作原に通い、自然観察を行いました。島の自然を理解するには、原生林と海をセットで知るといいということがわかり、マングローブの森をカヌーで入るツアーも始めました。これまで、生まれ故郷である奄美大島の自然環境に当たり前のように接していた西條さん。最初は奄美の自然のどこがお客さんにとって面白いのか、反応をうかがいながらガイドをスタートしたといいます。 カヌーツアーにも参加すると、住用川と役勝川が合流する河口付近には豊かなマングローブの森が広がっていました。ここは、島に降った雨が谷筋を通って集まる、淡水と海水が混ざり合う場所です。

西條さんとともにカヌーで漕ぎ出てみると、マングローブの迷路のようなトンネルが待っていました。ここは、潮の満ち引きによって陸上になったり水中になったりするところ。生命のゆりかごとも呼ばれるマングローブの森には沖縄では絶滅してしまったリュウキュウアユや、たくさんの貝やカニが棲んでいます。潮の流れにあわせながらカヌーを漕いでいると、私までもそこにある自然の一部になった気分になりました。

実際に原生林やマングローブの森に入ってみることで、循環する自然のなかで人間をはじめ多様な生物が生きていることがわかり、そのひとつひとつのつながりを経験して知ることの重要さを実感するエコツアーでした。

さて、奄美群島をめぐる旅もそろそろ終盤。次回は、奄美大島北部にあるカフェ「夢紅(ゆめくれない)」に出かけます。これまでめぐった島のみなさんにおすすめされた海辺のカフェを訪れ、南の島らしいゆっくりとした時間を過ごしました。お楽しみに。

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