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トリプルファイヤー吉田靖直コラム「モテ過ぎもせずモテなさ過ぎもしない人材を求めて」vol.7

  • 2021.7.7
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仲良くなり始めた女性とサシ飲みをする予定だったはずが、直前になって「友達も呼んで大丈夫ですか?」と言い出されることがある。シレッとサシ飲みを拒否されているのは不満だが、そこは気持ちを切り替えて次の手を打つ。「じゃあ俺も友達呼ぶね!」と、こちら側の味方を増やすのである。

相手の女性とその友人の前に1人でのこのこ出向いていったら女2:男1の不平等な構図が生まれ、場の主導権を相手側に握られたまま何もできずに終わってしまう。力関係の弱い者に対しては、自然と見る目も厳しくなる。解散した後「あいつなんかキモかったね」「靴、変じゃなかった?」と悪口で盛り上がられてしまう可能性は高い。

しかし私が誰か男の友人を呼んで2:2の構図を作れば問題は解決する。それはもう即席の合コンだ。友人がいれば私は話しやすくなるし、女性陣と対等な関係性で会話をすることもできる。もし興が乗ったら途中で男女のペア2組に別れ、それぞれ好きなところに繰り出してもいいだろう。このように、男の友人を一人呼ぶことによって危機的な状況が一転、希望に溢れた飲み会に生まれ変わるのだ。

ただここで難しいのが、声を掛ける友人のチョイスである。いかにもモテそうな友人を呼べば女性陣は喜ぶだろうが、友人にばかり人気が集中してしまう。それは嫌だ。かと言ってあまりにも女性に不慣れな友人を呼べばその会合自体が盛り上がらないかもしれないし、「こいつ友達を踏み台にして相対的に自分の価値を上げようとしてる」と思われるのも癪だ。モテ過ぎもしないがモテなさ過ぎもしない、絶妙な友人のチョイスが求められる。また、相手方の性格や嗜好、年齢によっても呼ぶべき友人は変わる。いつでも決まった人を呼べばいいというわけではない。状況を読む繊細な感覚が必要なのだ。

でも大丈夫、私には、今まで女性からサシ飲みを断られるたびに多種多様な友人に声を掛け、数々のそれなりに盛り上がる飲み会を成立させてきた信頼と実績がある。

とは言えいつでもデータ通りに行くわけではないのが人間関係というものだ。時には失敗もする。あれは去年か一昨年のこと。モテ過ぎもせずモテなさ過ぎもしない、ちょうどいいラインだと判断した後輩を即席の飲み会に呼んだら、そいつが私の予想よりかなりモテてしまい困ったことになった。「どういうタイプの人が好きなんですか?」「なんで彼女作らないんですか?」そんな女性陣からの色っぽい質問は後輩にばかり向けられ、せっかく面白い答えを思いついた私には返答の機会が回って来ない。後輩が気をつかって「吉田さんはどうですか?」と聞くと、女たちは「話振ってあげて優しい〜!」とこちらの心情を一切汲まない反応を見せていた。

「彼氏と別れて辛かったかもしれないけど、辛くなれるくらい好きだったってことなんじゃないかな」。過去の恋愛話の流れの中で後輩が発した、私の価値観からすると全く平凡な一言に女性陣はハッと目を見開き、心の深い部分を突かれたような顔をしていた。私は「一生やってろよ」と心の中で悪態をつきながら、寂しそうな顔をしてしまわないよう神経を張り巡らせるだけの数時間を過ごしたのである。

私以外の3人がいつまでたっても帰らないので、彼らを置いて一人で抜けることにした。女性陣の一人が発した「終電近いんで急いだ方がいいですよ!」という一言は一見親切心から出ているようでありつつ、実際のところ、終電に間に合わなかった私が引き返して来るリスクをできるだけ下げたい気持ちの表れでしかないように感じられた。

ちょうどいい友人を呼んだはずが、なぜそんな情けない事態になってしまったのか。女性陣のセンスが偏っていたのか、私の人選センスが鈍ったのか。もしかしたら、私の思うモテる奴と実際にモテる奴との間にズレがあったのかもしれない。

しかしいつまでも失敗を悔いていても仕方がない。重要なのは失敗から学び、次につなげていくことである。申し訳ないが、その後輩には私が今後女性との即席飲みに誘う構想メンバーからは外れてもらうこととした。次は、優しくて明るいムードメーカーだがたまにどぎつい下ネタで女性を引かせてしまう友人を呼ぼう。そこを私がいい感じにフォローすればみんなが幸せになれる。これでもう死角はなくなった。

屈辱的な扱いにも私は屈しない。いくらでも知らない友達を連れてきてくれ。どれだけ私が女性陣からハブられようと、また新たな編成で繰り出すだけだ。こちらには、モテ過ぎもしなければモテなさ過ぎもしない、数多の精鋭たちが揃っている。いつでも挑戦を受けて立つ。

吉田靖直 よしだ やすなお
1987年4月9日生まれ。香川県出身。バンド「トリプルファイヤー」ボーカル。音楽活動の他、映画やドラマ、舞台、大喜利イベント等にも出演。コラム執筆も。

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