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キミがすきでも不釣り合い【彼氏の顔が覚えられません 第34話】

  • 2015.7.2
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俺の恋人、ヤマナシイズミは、人の顔が覚えられない。生まれつきそういう病気だ。だからきっと、俺のことが好きなのも顔じゃない。心で100%判断してくれてるんだと思う。

それは誇らしいことであると同時に、すごく後ろめたいことでもある。俺みたいなやつが付き合って、釣り合いが取れているのだろうか、と。

自慢じゃないが、彼女はモノスゴイ美人だ。芸能人で言えば、桐谷美玲ぐらい。いや、それをさらに100倍くらいかわいくした感じ…なんて言えば、世の桐谷美玲ファンが黙っていないだろうか。「世界で最も美しい顔100人」だからな。天文学的な数の敵に命を狙われることになる。

ともかくそれくらい美形の彼女に対し、俺の方はと言えば。

「まぁ、ブサイクとは言わない。それなりに整ってると思うよ。だけど、目も鋭くて、詐欺師みたいよね。渋谷のスクランブル交差点とかで女の子スカウトしてそうな感じがする」

今年の1月3日、そんな風に言ったのはシノザキマナミだ。俺との間柄は、スペイン語で同じクラスだという程度。前日たまたま浅草寺で居合わせて、声をかけられなければ一生話すこともなかったような関係…。

と、思っていたのに。

「でも高校のころ、タニムラくんのファンってけっこう多かったよ」

「は、マジで? って、いや、なんで高校のころの話知ってるの」

「え? 何でって…え? だって、高校いっしょじゃん、私たち…」

一瞬、意味がわからなかった。少しだけ頭を整理し、

「え、付属?」

「そう、付属高校。部活も一緒だった」

「…マジ? 吹奏楽? 楽器は」

「コンバスだよ、コントラバス。同じバスパート! いい加減思い出せコノヤロウ!」

顔面にベチョッとお手拭きを投げつけられる。うぅ…それでようやく思い出した。シノザキマナミ、たしかにそんな名前だった。

「シノザキって、そんなだったっけ…昔はメガネで、もっとこう、その、なんというか…」

「太ってた、って言いたいんでしょ? ダイエットしたの!」

えぇ…まだ少しポッチャリ感は残っているが、それでも記憶とはだいぶかけ離れていた。低い身長ながら横だけやたら広くて、ひょっとしたら100キロ超えてるんじゃないかと思うくらいだったのだ。

それに顔も、よくよく見るとイズミほどじゃないにしても整っている。ちょっと前に放送してた、マツコデラックスの痩せた姿が出てくるテレビCMみたいな感じ。肉が削げるだけでこんなになるとは。

「へぇ…人って、変われるもんだな…」

ついそんな言葉が口から漏れる。

「ふーん、タニムラくんはぜんぜん変わんないもんね。相変わらずチャラくてテキトーな感じが」

…。

はいはい、どうせ詐欺師みたいな顔だよ。新宿スワンならぬ渋谷スワンですよ。

話をもどす。

「結局シノザキが言いたいのは、そんなチャラい俺はイズミと釣り合わないって、そういうことか?」

「いや、言ってないけど。そう思ってるんでしょ? 自分自身で」

また閉口してしまう。いちいち人の心をえぐるようなことを言ってくるやつだ。確かに俺自身がそう、心のどこかでイズミにおびえていたのかもしれない。

クリスマスイブも、大晦日も、本当はイズミと一緒にすごそうと思えば可能だったのだ。それなのに、言い訳のように部活の集まりやバイトを入れてしまった。

まったくもって、ぜんぶシノザキが指摘する通りだ。

(つづく)

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(平原 学)

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