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「脱炭素」正しく説明できますか? アップル、トヨタetc.最新動向もあわせて解説

  • 2021.7.1
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2021年1月にアメリカでバイデン新大統領が就任し、トランプ前政権の消極的な気候変動政策から大幅転換を行う方針を打ち出した。主軸に置くのは二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの削減、いわゆる「脱炭素」だ。2021年3月末に発表された2兆ドル強のインフラ投資計画には、電気自動車(EV)、再生可能エネルギー、最先端のクリーンエネルギー技術の振興に向けた大規模投資が盛り込まれた。EUや中国も中長期目標として二酸化炭素削減目標を掲げており、公的資金を続々と投入している。一方、民間でも金融機関や機関投資家によるESG(環境・社会・ガバナンス)投資も拡大しつつある。もはや経済を語る上で無視できない「脱炭素」というムーブメント、それがどのようなものなのか解説していこう。

大前提は温室効果ガスの削減

脱炭素とは地球温暖化の原因となる、二酸化炭素など温室効果ガスの排出量を低減し、かつ排出された二酸化炭素を回収することで、増加量を全体としてゼロとするもの。同じような意味で「カーボンニュートラル」「ネットゼロ」という言葉も聞く。これらの違いに明確な定義はなく、特に断りがない限りは同じ意味と捉えてよいだろう。

温室効果ガスは、太陽からの熱を封じ込め、地表を暖める効果をもたらす大気中のガスのこと。二酸化炭素、メタン、一酸化炭素、フロンガスといった種類があるが、中でも大きな影響を与えているものが二酸化炭素だ。そして石油や石炭といった化石燃料を燃焼してエネルギーを取り出す火力発電が、二酸化炭素排出量を増加させる主要因になっている。

地球温暖化が及ぼす影響として、様々な問題が指摘されている。主立ったものを見てみよう。

・水害、干ばつ、土砂災害の増加
・生態系の変化(農作物・家畜の成育にも影響)
・暑熱による健康被害
・感染症リスクの増加

なぜ脱炭素は話題なのか? 誰がいつまでにやるのか?

なぜ今、脱炭素が話題になっているのか。それは気候変動によって生じる自然災害などへの対策が、世界で取り組むべき課題との共通認識として、確固たるものになるつつあるからだ。

世界経済フォーラムが2021年1月に公表した「グローバルリスク報告書」では、今後10年で最も発生する可能性が高いリスクとして、第1位に気候変動、第2位にその緩和・対策への失敗が挙げられている。

世界各国はこれまで、脱炭素に向けた合意形成を図ってきた。1992年には国連で、大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させることを目標とする「気候変動に関する国際連合枠組条約」が採択。同条約に基づき、1995年から毎年、気候変動枠組条約締約国会議(COP)が開催されている。

2019年に米トランプ全大統領が離脱し、2021年にバイデン大統領のもと復帰した「パリ協定」はCOP21(第21回会議)で合意されたもの。同協定では削減目標を5年ごとに提出・更新することや、取り組みの可視化がルールとして盛り込まれている。会議に先立ち、各国は温室効果ガスの削減目標を約束草案として提出した。いくつかの国を見てみよう。

出所:全国地球温暖化防止活動推進センター「各国の温室効果ガス削減目標」

なお、IEA(国際エネルギー機関)の調査では、2018年時点における二酸化炭素の排出量第1位は中国、第2位がアメリカ。両国を合わせると世界全体の排出量の4割以上を占め、この2カ国の動きは世界の気候変動対策を左右するものと言える。

再生可能エネルギーの利用が鍵

脱炭素社会を目指すうえで欠かせないのが、太陽光や風力などを用いる再生可能エネルギー技術だ。一連の発電サイクルにおける二酸化炭素の排出量は、石炭・石油・天然ガスの火力発電にくらべはるかに少ない。これをどう置き換えていくかに、脱炭素実現の成否がかかっている。再生可能エネルギーの利用には、どのようなものがあるかを見てみよう。

1.太陽光発電
半導体に光を当てると電気が生じる「光電効果」という仕組みを使い、枯渇しない太陽光で発電する。主に利用される太陽電池(ソーラーパネルなど)は2種類のシリコン半導体を重ね合わせたもの。発電時に騒音や排気ガスを発生しないので、設置場所は選ばない利点がある。反対に運用上のデメリットとしては、天候に左右されるため発電量が安定しないほか、飛来物などの衝突で故障する危険性などが挙げられる。

2.風力発電
風力発電機として巨大な風車を風の力で回転させ、その動力で発電するもの。他の再生可能エネルギーに比べて発電コストが低く、経済性に優れている。風力が弱いと発電量が落ちるという懸念点があり、台風などで風が強すぎても運用できない。また、騒音の発生や風況を考慮する必要があるなど、設置場所は限られてくる。整備箇所で大別すると「陸上」と「洋上」がある。洋上の方がより大きな風力を安定的に得ることができ、主にヨーロッパで普及が進む。

3.水力発電
勢いのある水流でポンプ水車を高速回転させ、水車につながった発電機を動かすことで発電を行う。ダムの利用など、水の位置エネルギーを利用して運用する。落差を作る形式や水量の利用方法により、様々な形式が存在。エネルギーの変換効率は約80%と、太陽光の約20%や風力の約20〜40%などと比べて、著しく大きい。一方で降水量によって発電量が左右されるほか、大規模なダムを利用する場合は多額の初期費用がかかるなど課題もある。

4. その他
水素の利用:地球上に大量に存在し、酸素を反応させて電気エネルギーに変えられるほか、そのまま燃料として使うことも可能。燃焼時には水しか発生しない。

バイオマスの利用:化石燃料以外の動植物から生まれた有機性資源のこと。エネルギーとして利用できるものには間伐材や製紙工場廃材といった林産資源、農産物残渣などがある。二酸化炭素を吸収する直物由来のものであることから、再生可能エネルギーとして扱われる。化石燃料は数億年前の二酸化炭素を現代に発生させているという点で、バイオマスとは異なる。

地熱発電:火山付近の地下における高温の蒸気や熱水によりタービン発電機を回し発電する。太陽光や風力と比べて、設備を作れば安定的な電力供給ができる。

変わるのはエネルギー産業だけではない! 他の産業は?

エネルギー産業だけではなく、温室効果ガス削減のためには、各業界それぞれが事業活動の見直しを行わなければならない。いくつかの例を見てみよう。

自動車産業
ガソリンを燃焼するエンジンの代わりに、電動モーターを使うことで温室効果ガスを排出しない電気自動車。太陽光などの再生可能エネルギーを用いた電力を使うことで、さらに排出量を抑える効果もある。世界各国で従来のガソリン車やディーゼル車を規制する動きがあることから、今後普及していくことは確実だ。

電気自動車は従来のガゾリン車に比べて車体構造がとてもシンプルだ。多くの部品を必要とせず、生産に向けた関連企業の折衝も減少する。部品の種類も変わり、電機メーカーなど他業種からの参入も容易になるだろう。大手自動車会社を頂点とする下請け構造も大幅に変わることが予想される。

住宅産業
自動車業界など産業部門以外でも、民生部門(業務・家庭部門)のエネルギー消費削減も重要な課題だ。建築物の省エネルギー化における施策には、高断熱の壁やガラス・サッシの採用などによる建物自体の断熱性強化に加えて、太陽光発電設備やLED照明の利用などが挙げられる。国内では積水ハウスなど国内大手ハウスメーカーが省エネ住宅の普及を加速させている。

金融業
環境・社会・企業統治に配慮している企業を重視・選別して行なう投資、ESG投資に注目が集まっている。国際的な環境投資の調査機関「世界持続可能投資連合(GSIA)」の調査では、ESG投資は2018年に世界で約30.7兆ドル(約3300兆円)規模に達し、2016年から34%増加。脱炭素に関連した銘柄を組み込んだ金融商品の拡充や、ESG関連銘柄に投資するファンドが増加傾向にある。世界最大の年金基金である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)はESG投資の先駆者として知られ、約180兆円におよぶ運用資産のほとんどにESGの概念が組み込まれている。

Appleにトヨタ自動車。世界的企業も脱炭素に舵を切る

世界的な企業も脱炭素への取り組みに、続々と乗り出している。アメリカのテクノロジー企業Appleは2020年7月、事業全体や製造サプライチェーン、製品ライフサイクルのすべてにおいて2030年までに脱炭素を目指すと表明。同社が事業活動で排出する二酸化炭素の半分はスマートフォンどの製造段階にあり、関連するすべての部品メーカーに再生可能エネルギーの利用を求めることになる。

日本の自動車大手トヨタでも2021年6月、自社工場での二酸化炭素排出量を2035年までにゼロとすることを表明。加えて同社では、水素を将来の有力なクリーンエネルギーと位置付け、自動車や鉄道、船、発電設備など様々な用途での水素・燃料電池技術の開発・普及を行っている。また、トヨタが静岡県裾野市で建設を進める未来都市「Woven City」では、水素の製造・輸送・利用という一連の実証が行われる。

菅首相による宣言、経団連の決意表明…日本でも変革の動き

2020年10月、菅首相が所信表明演説でカーボンニュートラル宣言を発表。翌年4月には温室効果ガスの具体的な削減目標を発表した。日本では化石燃料への依存度が高く、国際エネルギー機関(IEA)の調査では、再生可能エネルギーの利用率が約22%。活用が進む欧州連合(EU)27カ国の38%に比べると低水準にあり、脱炭素化に向けた取り組みに出遅れていることは否めない。

政府は2020年から、2018年に策定したエネルギー基本計画の見直しを開始し、再生可能エネルギーの導入拡大を念頭に置いている。また、グリーン成長戦略として14の分野で実行計画を策定。予算・税・規制改革・標準化・国際連携における取り組みを通じて脱炭素化を推進する。菅首相の宣言・目標を受けて、2020年末には経団連も取り組みを進める決意表明が公表された。

脱炭素への移行で遅れをとると、企業の社会的信用が失われるだけでない。Appleなどの巨大企業が、脱炭素に向けて舵を切る流れはさらに加速し、そうすれば、その製品に関連する膨大な供給網にいる数多の企業もその流れに乗らざるをえない。日本企業がその波に乗り遅れれば国際競争力、ひいては国力の低下につながりかねない。

今後の焦点はやはりアメリカと中国

今後は二酸化炭素排出量が大きく、かつ影響力のあるアメリカ・中国の今後の動向が鍵を握るだろう。2021年6月に開催された7カ国首脳会議(G7サミット)では2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロとする目標を掲げるとともに、世界最大の排出国である中国に対策強化を求める方針で一致した。今後、対立する両国が脱炭素に向けていかに協調していくが焦点になるだろう。

脱炭素は特定の企業分野ではなく、国際社会全体で移行していくもの。主要国が取り組みを牽引していく役割は大きく、その動向が注目される。

田中 雅大/編集者

ペロンパワークス・プロダクション代表。編集プロダクション、出版社勤務、『MONOQLO』『日経ビジネスアソシエ』『サイゾー』等の編集記者、Webメディア運用を経て、ペロンパワークス・プロダクション設立。編集記者時代のフィールドは金融とデジタル製品。AFP/2級FP技能士。

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