1. トップ
  2. 家入レオ「言葉は目に見えないファッション」vol.31 人付き合いの心得

家入レオ「言葉は目に見えないファッション」vol.31 人付き合いの心得

  • 2021.6.25
  • 920 views

クォーター・ライフ・クライシス。それは、人生の4分の1を過ぎた20代後半〜30代前半のころに訪れがちな、幸福の低迷期を表す言葉だ。26歳の家入レオさんもそれを実感し、揺らいでいる。「自分をごまかさないで、正直に生きたい」家入さん自身が今感じる心の内面を丁寧にすくった連載エッセイ。前回は vol.30 普通って悪くない

vol.31 人付き合いの心得

参列する人の安心を考えて二度延期された友人の結婚式は、三度目の正直で招待客を大幅に減らし、感染予防を徹底した上で挙げられた。アクリルパーテーションで仕切られた丸テーブルに自分の名前を見つけ席に座ると、花嫁からの手紙が置いてあるサプライズ。
招待状を受け取った時から感じていたぬくもりのある彼女らしい式に、泣かない、と言っていた私たち友人一同はしっかり目を赤くしてウエディングドレス姿の花嫁におめでとうの拍手を送った。

その結婚式で久しぶりに顔を合わせた中学校からの友人の1人が相も変わらずな出で立ちでとても愉快だった。花柄の膝上ワンピースに7cmのピンヒール(仕事の日は9cmを履いているから今日は足が楽だと言って私を驚嘆させた)。ふんわりカールした毛先。真っ白な肌とは対照的な黒い長い睫毛が目元をくっきりと浮かび上がらせ、彼女の意志の強さをより一層際立たせているようだった。

時が経つのは早いね、とお互いしみじみ感じ入りながら、懐かしいクラスメイトたちの近況を小耳に挟んだりして。私の記憶の中ではいつまでもセーラー服姿のままでいるその子たちが、結婚したり、子供を授かってお母さんになっているだなんて何だか本当のことみたいに思えなかった。当時はそれなりに悩んだりしたこともあったけど過ぎてしまえば全てが良い思い出になるのが可笑しくて。ふと、彼女と同じ部活に所属しいつも隣にいた子の顔が浮かんで「今でも会ったりしてるの?」と尋ねると、彼女は少し迷って笑いながら首を横に振ってみせた。なんでも、最近胸に引っかかっていたことを伝えたところ、ちょっとした言い合いになり連絡が途絶えてしまったらしい。「もう大人なのにねー」とおどける彼女はあの頃と変わらずとても真っ直ぐな人だと思った。

言いたいことを無理して飲み込んだり、お互い傷つかないようにそれらしい理由をつけて距離を取ったり。もちろんそれも大事な処世術のひとつだけど彼女はそれも理解した上で仲が良い友人だから気持ちを伝えたのだ。信頼しているからこそのコミュニケーション。そのエピソードを聞きながら、私は少し前に知り合ったカメラマンの方とアシスタントの女性、3人でした会話を思い出していた。

尊敬している大切な存在で、家族や友人たちより一緒にいる時間が実は長かったり。時に衝突したり、嫌になったりすることもあるけど、やっぱりこの人しかいないって思わせてくれる。師弟関係とか、演者と裏方とか。不思議な関係ですよね、なんて話をしていたら「でも私、この人(カメラマン)を知るって決めてるんで」と私と同世代の女性アシスタントがすっと言い切って。私はそのワンシーンがここ数ヶ月ずっと忘れられずにいたのだけど、点と点が線になった気がした。

相手のどんな一面を見ても、最後まで付き合うぞ、という覚悟。私は中学からの友人と、アシスタントの女性のその気迫に静かに感動していたのだ。

だって私は、連絡を断ってしまった友人の気持ちも分かる。外の世界にいる時気を張っているから、大切な人といるときくらい甘えたい。でも相手が自分を想って伝えてくれている愛も分かる。分かっているけど、言われたことがショックで。本当の私を分かってくれる人なんていないんだ、と思考が飛躍する。そんな自分にも状況にも疲れてしまって姿を消してしまう。連絡を断ったことはないけれど、自分の気持ちを立て直すまでに距離を取りすぎてしまうところがある自分を省みた。でも、私はまたひとつ気づきを手に入れたのだ。くっついたり、離れたり。たとえ空白の時間があったとしても、一度心を決めた人たちの手を自分から離すことだけは絶対にしないと。

元記事で読む
の記事をもっとみる