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メキシコの絶品バーガー「アンブルゲサ」|世界のハンバーガーとホットドッグとクラフトビール③

  • 2021.6.22
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2021年7月号の特集テーマは「ハンバーガーとホットドッグとクラフトビール」です。本誌の「下町ハンバーガーツアー」という企画でも、ハンバーガー巡りをした旅行作家の石田ゆうすけさんですが、メキシコでもとびきりのハンバーガーに出会ったと言います。――。

メキシコの絶品バーガー「アンブルゲサ」|世界のハンバーガーとホットドッグとクラフトビール③

■大衆バーガーの最高峰(?)

"東京下町のグルメバーガー食べ歩き"という記事をdancyu本誌に書いたのだが、その取材の中で、海外経験も豊富なふたりの店主がどちらもこう話していたのが印象的だった。
「ハンバーガーは日本が一番旨いですよ」

アメリカで生まれたとされるハンバーガーは世界じゅうに広まっている。ファストフードチェーンによる展開だけでなく、ローカル食として根付いている地域も少なくない。
たいてい求めやすい値段なので、あちこちで食べてきた。
しかし、それらと今回東京で食べたグルメバーガーはさすがに比較できない。かたやだいたい50円から、かたや1000円から、ともはや別の食べ物だ。

海外にも厳選食材を使った高級バーガーを出す店はあり、フォアグラやトリュフなどが入って数万円するようなものもあるようだが、つましい長期旅行をしていた僕はそういったグルメ系バーガーは一切食べていない。だから比較して論じることはできないが、「日本のハンバーガーが一番」という店主ふたりの言葉には自然と「そうだろうな」と思えた。それくらい彼らのつくるハンバーガーは、単に高級食材を使っているから旨いというだけではなく、肉の旨味の引き出し方や、各食材が混じり合ってひとつになる、そのバランスの取り方に、高度で繊細な技術や研鑽が感じられたのだ。

一方、"大衆バーガー"でとりわけ旨かったのはメキシコのハンバーガーだった。
メキシコのスナックといえばタコスのイメージが強いが、アメリカと長い国境を接し、文化を影響し合っているだけあって、アメリカでタコスやブリトーがポピュラーなように、メキシコでもハンバーガーが庶民の生活に入り込んでいる。
町や村には中央公園があり、毎晩屋台が出てお祭りのように賑わうのだが、そこには必ずといっていいほどハンバーガーを出す店があった。

メキシコではハンバーガーのことを「hamburgesa」と書く。読みはアンブルゲサ。スペイン語だ。
アメリカでさんざん食べていたチェーン店のものとはまったく別物で、まずなんといってもバンズがいい。
メキシコ料理は全般的に優れているのだが、パンのコスパは並外れてよかった。日本のベーカリーそっくりのパン屋が各町にあって、メロンパンやコロネやデニッシュ系のいわゆる菓子パンが当時は10円くらいで売っていたので、町に着くたびに買って食べていたものだ。主食用のパンも、おかずなしでそのまま食べて旨かったから、小麦がいいのかもしれない。アメリカのあとだったから余計に感動したのかな、とも思ったが、それから数年後、取材で日本から直接メキシコに飛んで食べても明らかに旨かったし、土産に買って帰ったら妻も絶賛していた。

閑話休題。アンブルゲサだ。
僕はいつも村の屋台で食べていた。「トルタ」という"メキシカンサンドイッチ"の屋台がハンバーガーも出していたのだ。1個50円ぐらいだったと思う。
ハンバーガー専門店じゃないので、バリエーションはせいぜいハンバーガーとチーズバーガーぐらいだったが、どちらにもメキシコらしい食材が使われていた。アボカドだ。注文すると、屋台のオヤジは黒い果皮にナイフを入れてくるりと回転させて半分に割り、半個のアボカドをへらですくってバンズに押しつけてつぶし、バンズの切り口全面に塗る。そこにパティやトマトをのせ、バンズでふたをする。
かぶりつくと、アボカドがペースト状に塗られたバンズは、バターを塗ったパンのように味とコクが増していた。パティが「スライスハムかよ!」とツッコみたくなるほど薄いのだが、逆に分厚くて肉感たっぷりなパティだと、せっかく塗ったアボカドとバンズの旨さが消えていたかもしれない。肉が薄い分、それぞれの旨味が共存し、調和していたのだ。

東京下町グルメバーガーの店主のひとりが「ハンバーガーは口に入ったときの一体感がすべてで、そこをとことん追求しています」と言ったとき、このメキシコのアンブルゲサを思い出した。たしかに計算され尽くした絶妙なバランスだったのだ。

もっとも、メキシコの屋台のオヤジにこの話をしたら、「はぁ?バランス?パティが薄いのは1個50円だからに決まってんだろ!」とツッコまれそうだけど......。

文:石田ゆうすけ 写真:出堀良一

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