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「電子身分証明書」で途上国を支援する安田クリスチーナさん。自分にしかない強みで世界を変えていく【SDGs×起業家】

  • 2021.6.21
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マイクロソフトの社員と国際NGOの理事、ふたつの肩書きで途上国支援を進める狙いは?

ELLEgirl

仕事に就くとき、教育を受けるとき、お金を受け取る銀行口座を開くとき……個人を識別するID=身分証明書は、生きていくうえで必要なサービスを受けやすくする。でも、世界の一部の国や地域には、この基本的人権とも言える証明が与えられず、“存在しないもの”とされている人がいる。安田さんはマイクロソフト社で「分散型ID」の開発と普及に携わる一方で、デジタル技術で途上国支援を行う米NGO「InternetBar.org」にも所属。大企業がカバーしづらい地域のニーズを汲み、社会の不公平をなくす活動をしている。

「例えばお酒を買うときに免許証など現物のIDを提示しますが、この方法は個人情報を悪用される危険性があります。これに対して、私がマイクロソフトで企画・開発に携わっているのが、ブロックチェーンの仕組みを使った分散型IDというシステム。これを実現できれば、企業や政府に個人情報を預けず安全に身分を証明することができるようになります

ELLEgirl

安田さんはNGOでの活動を通して、バングラディシュとザンビアでデジタルIDの検証を実施。貧困や紛争が理由でIDを持てない状況だと、医療や教育をスムーズに受けることが難しいことから、国や地域が経済的に自立・発展していくにはデジタルID(電子身分証明書)が欠かせないという。

私たちがどんなに便利なID技術を開発しても、途上国にはそれを導入する準備が整っていない場合があります。それどころか、プライバシーを守る大切さやIDの有用性を理解してもらえないことも。ディレクターを務める『InternetBar.org(IBO)』では、分散型IDの実装に向けて現地の人と実際にコミュニケーションをとってニーズを汲みつつ、技術を長期的に使ってもらえる環境を整えています」

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IBO Japanでザンビアの女性・若者に対して小口融資のクラウドファンディグを実施。デジタルIDに彼女たちの信用力を記録することで、長期的な事業支援につなげた。

Spencer Platt

大学時代には青年環境NGO「Climate Youth Japan」に所属し、国連やEUといった国際機関を訪問するなど海外事業を担当していた安田さん。2016年にパリ協定が採択された場にも立ち会ったというが、このときに抱いた課題感が安田さんの進路に大きく影響したそう。

「パリ協定後も気候変動へのアクションが一気に進まなかった原因は、気候変動に金銭的・技術的にアプローチできない国が存在するなど、先進国と途上国のステータスの差だと気づきました。最近でこそESG(環境・社会・統治)投資が進むなど、気候変動をビジネスで解決しようとする傾向にありますが、主に寄付金などを収入源に運営するNGOにできることには限界があるのだ、と。なので巨額のお金を動かす企業に所属して学び、国家間の不平等を変えていくもっとも効率のよい方法を模索することから始めることにしました」

ELLEgirl

札幌の公立高校からパリの大学へ進学した安田さんは、多国籍な環境のなかで自身のアイデンティティと向き合うことに。そこへ安田さんの祖父が体験したソ連解体後の政治的混乱が重なり、デジタル化されたIDが可能にする途上国支援や難民救済について考えるようになったという。

「自分は日本人だと思って育ってきたのに、大学で『日本人なの?ロシア人なの?』と聞かれることが多く、自分でもわからなくなってしまったことも。また、国籍によってアクセスできるサービスが異なったり、ビザを取るのに苦労したりと、個人や属性を識別するドキュメントの重要性についても考えるようになりました。一方で、私の祖父がソ連崩壊直後、大混乱のクリミアに住んでいたときの体験について思いを巡らせました。混沌とした状況では本人が本人であると証明する方法がなく、医療や年金、仕事にもアクセスできなかったそうです。この課題を解決すれば、難民や途上国を効率よく支援できるのではと考えました」

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安田さんがバングラデシュで実装したデジタルID。

Elena Lukyanova

もともと理系だったという安田さんだが、課題解決において技術の導入を決定するのは政治経済の分野だと気づき、パリ政治学院政治法学部に進学。さらに在学中にアメリカの大学へ1年間留学し、そこで現在の仕事につながる働き方を模索した。

「環境科学に定評のある大学に留学しましたが、このときに自分は研究ではなくポリシー設計(※1)やロビイング(※2)活動にワクワクするんだなと気付きました。STEM(科学・技術・工学・数学)の分野に女性が少ないと言われますが、全体像をつかむのは女性の得意分野だと感じます。理系だけどエンジニアになることに気が進まないのであれば、つなげる役割に回ることもひとつの道。技術には、開発する人と資金を出す人、ポリシーを作る人がいて、初めて世の中の役に立つようになります。特にアイデンティティの分野は、技術のことをある程度理解したうえで、それを動かす人が必要とされていると思います」※1:ある技術を社会で実装するうえでの制度や法律の整備※2:政策の提言や権利の擁護

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