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公開から間もない作品が続々登場! 海外の事例とともに邦画スピード配信の傾向を探る

  • 2021.6.21
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『ヤクザと家族 The Family』(c)2021『ヤクザと家族 The Family』製作委員会

ストリーミングサービスの普及が進むにつれ、近年、映画の劇場公開から配信までの期間が短くなっている。なかでも特に注目したいのは、邦画でも劇場公開後3カ月から6カ月ほどでNetflixで配信開始となる作品が増えていることだ。これまではU-NEXTが最新作の配信が最も早いストリーミングサービスとして知られていたが、その多くはポイント利用(有料)での配信がメインだった。しかしNetflixは毎月の定額利用料さえ払えば、追加料金なしで最新作を観ることができる。これは観客側にとっては画期的なことだし、うれしいことでもある。海外ではコロナ禍をきっかけに、劇場公開と同時にネット配信が開始になる作品が非常に増えてきている。はたして邦画も、今後そういったかたちが主流になっていくのだろうか。これまでに劇場公開からそれほど間を置かず、Netflixで配信開始となった邦画作品を振り返りながら、考えていこう。

海外ではNetflixオリジナル作品が先陣を切る
まずは劇場公開とストリーミング配信の差がほぼなくなってきているアメリカの状況から見てみよう。コロナ禍の影響で、ワーナー・ブラザースの『ワンダーウーマン 1984』(2020年)が劇場公開と同時に追加料金なしでストリーミング開始となったが、これはワーナーの子会社HBOのストリーミングサービスHBO Maxで1カ月限定でのことだった。しかし、このような超大作が短期間とはいえ公開と同時にストリーミング配信されたことは大きな話題となり、今後の映画鑑賞のかたちに影響を与えるだろうと言われている。またワーナーだけでなくディズニー・スタジオも、公開と同時にストリーミング配信を開始するというスタイルに移行しつつある。同スタジオはやはりコロナ禍の影響で劇場公開がたびたび延期になっていた実写版『ムーラン』を、2020年9月に自社のストリーミングサービスDisney+(ディズニープラス)でプレミアアクセスとして配信することを決定した。これは、月額利用料に加えて29.99ドル(日本では税抜2,980円)で作品を視聴することができるというものだ。その後もアニメーション映画『ラーヤと龍の王国』(2021年)や人気ヴィランのオリジンを描く『クルエラ』(2021年)など、ディズニーは最新作を劇場公開と同時にプレミアアクセスで配信するようになった。

この公開形式は今後もつづき、マーベル・スタジオの『ブラック・ウィドウ』やドウェイン・ジョンソンが主演を務める『ジャングル・クルーズ』も、7月からやはり劇場公開と同時にプレミアアクセスで配信予定だ。日本以上に多くのストリーミングサービスが浸透しているアメリカでも、劇場公開と同時にストリーミングが開始される作品は、その多くが追加料金を払う必要がある。

一方、米Netflixは、コロナ禍以前からオリジナル作品を劇場公開の約2週間後に配信するというかたちをとってきた。2018年のアルフォンソ・キュアロン監督作『ROMA/ローマ』は、11月21日に劇場公開された後、12月14日から配信開始となった。その後もマーティン・スコセッシ監督の『アイリッシュマン』(2019年)や、デヴィッド・フィンチャー監督の『Mank/マンク』(2020年)など、名だたる監督たちの最新作が劇場公開から間を置かず配信されてきたわけだが、これはオスカー対策のためだ。オスカーのノミネート条件には、“特定の地域で一定期間以上、劇場公開された作品でなければならない”というものがあり、それをクリアするための劇場公開とも言える。コロナ禍の影響でこの条件は見直されたが、本来劇場で公開される予定だった作品、あるいは現在劇場で公開中の作品がストリーミング配信されることが多くなった今、追加料金なしで自宅で観られるとなれば、なおさら視聴者はNetflixを選ぶのではないだろうか。

邦画は小・中規模作品を中心に配信までのスピードが加速
では邦画の配信状況はどうなっているのだろう。日本のNetflixオリジナル作品は、基本的に配信のみで劇場公開はされない。そこで注目したいのは、一般の作品がNetflixで配信されるまでのスピードである。2019年9月に公開された『宮本から君へ』は、1年足らずの2020年5月からNetflixで配信が開始された。公開から約6カ月での配信だ。『37セカンズ』は2020年2月に劇場公開され、たった2カ月後の4月に配信開始となった。その他にも、2020年7月に公開された長澤まさみ主演の『MOTHER マザー』が同年11月に、2020年11月に公開された『タイトル、拒絶』が翌年2021年5月に、そして2021年1月に公開された『ヤクザと家族 The Family』が同年5月に、と約半年ほどでNetflixで配信される作品が急速に増えている。そして2021年4月2日に公開された綾野剛主演の『ホムンクルス』は、20日後の4月22日から配信開始と、米Netflixのオリジナル作品とほぼ同じスピード感で配信された。

ここに挙げたとおり、劇場公開から配信までの期間が短いのは小・中規模の作品がメインになっている。面白いのは、この5つのうちの3つ『宮本から君へ』、『MOTHER マザー』、『ヤクザと家族 The Family』がスターサンズによる配給であるということだ。同社の代表取締役を務める河村光庸はNetflixについて、第33回東京国際映画祭が主催したトークイベント「アジア交流ラウンジ」第4回にて「私どもも『MOTHER マザー』を配信してもらうということで一緒に仕事をしてわかったのが、Netflixさんは製作者に寄り添っている。いろいろな配信会社がありますが、これだけ巨大な企業になりながらもものづくりに対するきちっとした姿勢を崩さない」と述べており、大きな信頼を寄せているようだ。Netflix側にとっても、配信作品を充実させること、コンテンツの多様性を担保することは重要な戦略の1つだ。レコメンド機能を強みとしているNetflixは、小・中規模作品でもそれを好みそうなユーザーに提供することができる。ここにスターサンズが配給した作品とNetflix配信の相性の良さがあると言っていいだろう。

観客にとってのNetflixでのスピード配信の利点
公開から間もない映画がストリーミング配信されることは、観客にとってどんな利点があるのだろうか。その1つは間違いなく地方のラグ解消だ。大都市圏を除く地方では、大作映画でなければ公開が遅れる場合が多い。さらに小・中規模作品は、公開自体がされないこともある。そうなるとDVDなどのリリースを待つしかなく、リリース自体が見送りになれば結局作品を鑑賞することができない。地方に住む映画ファンにとって、小・中規模の映画を観ることができるかどうかは大きな問題なのだ。それが配信で鑑賞できるとなれば、利用しない手はない。

またライトな観客層にとっても、Netflixで追加料金なしで最新作が観られるのであれば観てみようと、多くの作品に触れる機会が増えるだろう。先ほど触れた対談で、映画『劇場』(2020年)をAmazonプライム・ビデオで劇場公開と同時に見放題配信に踏み切った行定勲監督は、次のように語っている。「SNSでの感想やレビューの数も、いままでの僕の映画とは比にならないくらいあって、その感想が辛辣なものも多くて、自分のお客さんに向けて届けばいいというものではないなにかが、配信では得られると知りました」。行定監督ほどになれば固定ファンが相当数いると思われるが、『劇場』はそれ以外の客層にも届いたということだろう。観客にとって、映画館に足を運ぶほどではないが少し興味がある、という作品を鑑賞するには、ストリーミング配信は魅力的だ。先述したとおり配信スピードがあがっている小・中規模の作品は、特にそういった潜在的な観客層も多いだろう。さらに追加料金なしで鑑賞できるとなれば、気軽に観ることができる。またその作品を知らなかったとしても、Netflixのようにパーソナライズされたレコメンド機能で作品を知り、鑑賞することもあるだろう。ストリーミングで最新作が配信されることは、観客にとっては利点しかない。

劇場派・クリエイター側の思い
ではクリエイターにとって作品をストリーミング配信するということには、どんな意味があるのだろう。今のところ多くの映画監督は、作品を映画館で上映することを念頭に制作しており、公開と同時配信には懐疑的なようだ。それはそのとおりだと思う。作った側としては、その魅力が一番引き立つ環境・状態で観てほしいと思うのは当然だ。海外では『インセプション』(2010年)や『ダンケルク』(2017年)、そしてコロナ禍の2020年9月に公開された『TENET テネット』のように、大迫力の映像を作品の醍醐味としているクリストファー・ノーランが、配信反対派の1人として知られている。彼は、劇場での“映画体験”を重視しており、配信を前提とした作品づくりはしないと宣言しているのだ。映画館での非日常の体験は、彼の作品の重要な一部となっている。

一方で配信によって多くの人が作品を目にすることは、製作側にも良いことがあるはずだ。すでに紹介した通り、米Netflixでは錚々たる名監督たちの作品を製作・配信している。Netflixは潤沢な製作費や内容の自由度、クリエイターに多くの権利が残るなど、メリットが多いのだという。もちろん配信を前提に製作していれば、それに適した作品になる。先に触れた『アイリッシュマン』は3時間超えの作品で、上映回数を増やして、より多くの観客を入れたい映画館にはあまり適していないと言えるだろう。しかし配信であれば、その点はあまり気にする必要がない。

またNetflixは全世界で約2億世帯が加入しており、世界各国でほとんど同じ作品を視聴することができる。邦画の魅力を届けるためには、最新作の配信は重要になってくるだろう。世界の観客の目に触れ、その評価を受けることで、邦画の在り方も変わっていくかもしれない。現状、国内の観客をメインターゲットにしている日本の映画は、欧米などを中心とした世界の価値基準とは大きく違うところがある。欧米的な価値観がすべて正しいとは言わないが、日本の映画文化を守り、同時に世界での評価を求めるなら、どんどん外に発信していくべきだ。

コロナ禍で必要に迫られて最新映画のストリーミング配信が広がったとはいえ、今後以前のように完全に映画館での上映が主流に戻ることはないだろう。しかし映画館がなくなるということも考えにくい。気軽に映画を楽しむことができるストリーミングと、非日常に没頭できる映画館とは、それぞれに違った魅力がある。海外ではすでに劇場公開から間を置かず配信される作品が増えているが、邦画でも大作が劇場公開後間もなく配信される日が来るかもしれない。映画を楽しむ方法が増えれば、映画を愛する人も増えるだろう。今後、映画館と配信とがどのように共存していくのか、楽しみに見守っていきたい。 (文=瀧川かおり)

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