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札幌クマ出没は人ごとではない! 東京は世界的にも珍しい「クマが生息している」首都だった

  • 2021.6.20
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北海道札幌市で起きたヒグマの出没騒動。似たような事態は東京でもかつて起きていました。フリーライターの小西マリアさんが解説します。

クマが生息する首都「東京」

6月18日(金)に北海道札幌市で起きたヒグマの出没騒動――住宅地を徘徊(はいかい)した熊は陸上自衛隊丘珠駐屯地に侵入し、駆けつけた猟友会によって駆除されました。住民や自衛隊員がけがを負いましたが、死者が出なかったのは不幸中の幸いです。

テレビ報道ではヒグマが自衛隊駐屯地の門を乗り越えて侵入する姿が報道され、視聴者に驚きを与えました。

人間が動物に襲われるこのような危険性は、東京でも無縁ではありません。東京では

・奥多摩町・檜原村・あきる野市・青梅市・八王子市・日の出町

の森林にツキノワグマが生息しています。

ツキノワグマ(画像:写真AC)

首都となっている地域にクマが生息している例は珍しく、東京都環境局のサイトにも「東京は世界的にも珍しいクマが生息している首都です」と記されているくらいです。

2016年に青梅市で被害

本州や四国などに生息するツキノワグマは、北海道に生息するヒグマに比べると小型な種類です。性格は臆病で人間の気配に気付くと逃げてしまうとされています。

しかし鋭い牙と爪を持ち、時速40kmで走る身体能力を持ったいわば猛獣です。偶然遭遇したとき、特に子グマを連れた母グマの場合は非常に危険だとされています。

実際、ツキノワグマに襲われた人間が死亡する例もありますから、ヒグマに比べると劣るとはいえ、危険な生物であることに間違いはありません。特に山にある木の実が不作だった年には、人間の生活空間まで餌を求めて出没する事例が全国的に報告されています。

東京でも2016年には青梅市で飲食店の倉庫がクマに荒らされる事件が起きています。また、行楽客の多い奥多摩周辺では行楽客の捨てた残飯などを狙ってツキノワグマが出没する例もあるとされています。

青梅市(画像:(C)Google)

2007(平成19)年は秋川渓谷周辺でツキノワグマが度々出没する騒動がありました。目撃されたツキノワグマが同一個体であったことから、行楽客の捨てた残飯の味を覚えて出没しているのでないかと警戒されました。

都心部でも出没

さて、東京で危険な生物に遭遇するのは山に近い西部の地域だけ……というわけではありません。実は都心部でもかつて猛獣が現れる大騒動が起こったことがあります。1936(昭和11)年7月に上野動物園(台東区上野公園)で起こったクロヒョウの脱走事件です。

このクロヒョウはタイで捕獲された野生の個体で、同年5月から上野動物園で捕獲されていました。脱走が発覚したのは7月25日の早朝のこと。飼育担当者が見回りをしたところ、おりの中からクロヒョウの姿がこつぜんと消えていたのです。

上野動物園(画像:写真AC)

猛獣が逃げたとなれば大騒動です。動物園では直ちに職員を動員して園内を捜索しましたが見つかりません。そこで、警察と憲兵隊、さらに猟友会や警防団など700人あまりが駆けつけての大捜索が始まります。

結果「昭和11年の三大事件」に

その騒ぎたるや「戊辰(ぼしん)戦争の彰義隊以来」ともいわれました。当時は、まだリアルに幕末の新政府軍と彰義隊とが戦った上野戦争を目撃した人もいた時代ですから、本当に同じくらいの騒動だったのでしょう。

クロヒョウ(画像:写真AC)

当時の『朝日新聞』では

「帝都の戦慄(せんりつ) 上野動物園の黒豹 けさおりを破って脱出」

と報じられています。

大人数で捜索を行ったところ、動物園と美術学校(後の東京芸術大学)の境付近の千川上水が暗渠(地下水路)になるあたりで足跡が見つかります。そこで、暗渠の上をたどってマンホールを明けていくと、ついに暗がりの中でクロヒョウの光る目が見つかりました。

『東京朝日新聞』1926年7月26日付夕刊によれば、発見したのは市公園課の人物。部下を連れてマンホールをひとつひとつ調べていたところ、13番目か14番目に金色の目を発見。記事によれば

「アッとばかり驚いた同君、腰を抜かさんばかりで全員に急報」

したとされています。

こうして、発見されたヒョウは逃げ道をふさぎ、マンホールを盾にしてマンホールの穴の部分から石油を染みこませたボロ布を巻いて火をつけたたけざおで追い立ててようやく捕獲することができました。

この「上野動物園クロヒョウ脱走事件」は「阿部定事件」「二・二六事件」と並んで「昭和11年の三大事件」として歴史に記録されています。

多摩動物公園も無縁ではなかった

しかし、動物園から飼育されている動物が脱走するという事件は、このほかにもいくつか起きています。

上野動物園では、ヒョウが捕獲された5日後にはシカが脱走しています。このときには、シカが上野公園を走り、上野広小路まで逃げたところを群衆に取り押さえられています。

戦後にも脱走事件は起きていて1967(昭和42)年と1977年の2度にわたってインドゾウがおりを抜け出し、園内に脱走する事件が起こっています。この時は飼育担当者の起点ですぐにゾウは取り押さえられたそうです。

同じく東京都を代表する動物園である多摩動物公園(日野市程久保)も脱走とは無縁ではありません。

多摩動物公園(画像:(C)Google)

多摩動物公園によると、これまで

1968年:チンパンジー1983年:シフゾウ1991年:レッサーパンダ2012年:ホオアカトキ

が脱走しています。大抵の動物はすぐに捕獲されているのですが、ホオアカトキだけは見つかっていません。

ホオアカトキはモロッコやトルコに生息する絶滅危惧種で、冬の降雪で天井部分にできた隙間から逃げ出したようです。園もすぐには気付かず、周辺住民から「変わった鳥がいる」との通報が複数寄せられたことで発覚。とはいえ、鳥ですから発見はままならず今も見つかってはいません。

こうした過去の事件を踏まえて上野動物園と多摩動物公園では1年交代で動物の脱走に備えた訓練を行っています。訓練内容は年によって異なりますが、ゴリラやシマウマなど脱走する設定の動物はさまざま、そして、動物役は園の職員が着ぐるみで扮(ふん)するのが定番となっています。

なるほど、大都会東京でも猛獣の危険とは無縁ではないようです。

小西マリア(フリーライター)

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