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【老後】退職金で「投資デビュー」して大損する人がハマる落とし穴

  • 2021.6.17
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最近は「終身雇用」という言葉を、以前ほど頻繁に聞くこともなくなりました。特にコロナ禍ということもあり、今の若い世代の皆さまは、新卒入社した会社で一生働き続ける、そんなイメージを持つことすら難しくなっているのかもしれません。一方、今、退職世代の皆さまは、60歳以降も働き続けるにせよ、一旦は定年退職を迎える、そんな方が多いのではないでしょうか。

今でも5月から6月にかけて多いのが、退職金に関する運用のご相談です。公務員を中心に、年度末の3月を区切りとして定年退職を迎えた方々です。でも、まとまったお金になりますから、いろいろと考えることや迷われることもあるので、4月に退職金を受け取ったとしても、その運用のご相談は5月や6月にずれ込むのだと思います。

ご相談をうかがっていると、退職金で初投資に臨む、いわゆる「退職金デビュー」する人だけでなく、これまでに投資経験がある人でさえ、投資の基本をお忘れになっている方が多いように見受けられます。どういうことなのか、ご説明しましょう。

***

退職金は、投資に回すべきなのか?

セミナー参加者(以下、参加者)
あの~、よろしいでしょうか? ちょっとご相談したいのですが……。

講師
どうぞ、遠慮なさらずに何でも聞いてください(笑顔)。

参加者
今年、定年退職を迎えたのですが、去年退職された先輩から投資を勧められて迷っているんです。

講師
退職金での投資を考えられているんですね。
ところで、勧められて迷っているって、どういうことなんですか?

参加者
実はその先輩は「退職金は絶対、投資に回したほうがいいぞ!この1年で50%くらい儲かったからな!」なんて言ってくるんですが、これって本当ですかね?

株式投資で「1年後に半減」したのは360カ月のうち5回だけ

講師
そうですね、投資先次第ではありますが、この1年の国内外の株式相場を振り返ってみると、ウソではないと思いますよ。
例えば、先進国株式の値動きを表す指数*は、2020年の5月末からだと1年間で46%上昇しています。
つまり、株式投資で値上がり銘柄の当てっこをしなくても、先進国株式を投資対象にするインデックスファンドを選ぶだけで良かった、とも言えるからです
*MSCIコクサイ指数(配当込み、円ベース)

参加者
なるほど~、あながち、先輩の言っていたこともウソではないんですね。
でも、今からでは遅いような気がするんですが……。かなり大きい金額なので、これから下がるんじゃないかと心配で、なかなか投資に踏み切れません。

講師
そうですね、お気持ちはよく分かります。まずは「何を」ご心配されているのか、具体的に探ってみましょうか。
先ほどご紹介した先進国株式の指数(円ベース)で、以下のような試算を行ってみました。

投資対象:先進国株式
データ期間:1990年6月~2021年5月
試算方法:
・1990年6月から一括投資を開始し、1年後(1991年5月末)の運用成績を確認する
・開始時期を1カ月ずつずらして、同様の試算を繰り返す

単純な試算ですが、投資開始後1年間の運用成績が30年分で360回も確認できることになります。
試算してみると、運用成績の平均値は+11%ですが、1年間で投資した資金が半分以下になったケースも5回ありました。
その5回は全てリーマンショックの時期ですが、こうした金融ショックはいつ来るか分からないので、なかなか退職金の投資に踏み切れない、と、そういうことなのではないですか?

参加者
そうです、投資してすぐに大損してしまうのが心配で……。
でも、投資して1年で半分になってしまったのは、30年間の360回のうち、たったの5回なんですね!

講師
ええ。おっしゃるように、たった5回だと割り切って、投資を始めるって考え方もありますよ。
でも、退職金はいわば、一生に一度の「まとまったお金」ですから、投資してすぐに半分になってしまうリスクは、何としても避けたいですよね。

参加者
そりゃそうですよ、大切な退職金ですから。むしろ、半分になってしまうリスクを避けられる方法があるなら教えて下さい。

講師
ありますよ。

参加者
えっ、あるんですか!? 早く教えてくださいよ!

講師
そんなに慌てないでください(苦笑)。というか、今日のセミナーでもご説明したことなんですけど……。

参加者
そんな話、してくださりましたっけ……?
セミナーでご説明いただいたiDeCoのことは、子どもに話してやるつもりです。もう60歳になったので、私はiDeCoができませんからね。
ただ、つみたてNISAはやってみようかと思っていますよ。でも、つみたてNISAだって、金融ショックと無関係で済むはずはないし……。

講師
iDeCoでもつみたてNISAでも、大切なのは投資の3大原則、長期・積立・分散投資というご説明をしましたよね。これを少し応用すればいいのです。

参加者
う~ん、分かりません。というか、iDeCoやつみたてNISAのような今から資産を「作る」ための投資と、退職金のような、今ある資産を「守る」ための投資は、特徴やコツが違うっておっしゃっていましたよね?

講師
それはそうなんですが……。
もう一度、お聞きしますね。退職金の投資で避けたいとおっしゃっていたのは、結局、どんなリスクでしたっけ?

参加者
え~と、投資してすぐに大きく目減りしてしまうリスクですね。
でも、私の先輩は、逆に、大きく資産を増やせたわけですから、私と先輩の違いを考えると、言ってみれば、投資を開始するタイミングのリスクをなんとかしたい、ということだと思います。

受け取るのは一括でも、積立で投資に回してリスクを抑える

講師
そうですよね。
そして、投資タイミングのリスクを軽減する方法は何でしたっけ?

参加者
あっ……積立投資ですか?

講師
そうです。積立投資、つまり、時間分散を行えばいい、ということです。
退職金を一括投資するのではなく、例えば、1年間かけて十二等分した金額を毎月積立投資する、そんなふうに考えればいいのです。

参加者
なるほど~! 目の前に大きいお金があると「預金にしておくともったいないし、早く何かに投資しなきゃ」と感じていたんですが、少しずつ分けて投資してもいいってことですね。
ところで、実際に時間分散した場合、どんな結果になっているんですか?

講師
先ほどの試算と同じ条件で、1年間かけて毎月等金額の積立投資を行った場合、1年後の運用成績の平均値は+6%でした。一括投資の+11%よりは低い水準ですが、悪くないですよね。
そして、一括投資だと1年後に投資資金が半分以下になったケースが5回ありましたが、積立投資ではゼロでした。
また、半分以下も含めて、4割以上目減りしたケースを数えてみると、一括投資だと360回のうち8回に対し、積立投資だとたったの1回でした。
つまり、積立投資をすれば、投資してすぐに大きく目減りしてしまうリスクを大幅に低減できる、ということだと思います。

参加者
どんな裏ワザを教えていただけるのかと思いましたが、積立投資なら簡単にできることなので、なんだか拍子抜けですね(笑)。大切な退職金なので後悔したくないという思いが強かったんですが、大きな援軍を得たような思いがしました。
退職金で積立投資、ちょっと始めてみますね!

***

それまで投資とは無縁だった人が、“初めての大金”で投資を始めることを「退職金デビュー」と揶揄して呼ぶ向きもありますが、実際問題、退職金というまとまったお金は資産運用を始めるきっかけの多くを占めているわけです。そうした中で、いつ来るとも分からない金融ショックが心配になり、投資に回すことに皆さん躊躇されているのだと思います。特にコロナ禍でありながら、この1年は株価が大きく上昇しましたので、「もしかしたら、これからは下がるかも……」と思われるのも無理のないことかもしれません。しかも、定年退職の時期は自分ではコントロールできないことなので、退職金の運用にはどうしてもタイミングのリスクがつきまといます。

もちろん、このタイミングのリスクを軽減する方法は「積立投資(時間分散)」だけではありません。それこそ、もう1つの投資の基本である「資産分散」も有効な方法だと言えます。ただ、まとまったお金だからこそ、単純なようで案外見落とされがちなのが「積立投資(時間分散)」ではないでしょうか。退職金の運用で後悔したくない方々にとって、「積立投資(時間分散)」という投資の基本が、目から鱗の気付きになれば幸いです。

最後に、今回の記事執筆に際して、参考にした文献をご紹介します。ご参考まで。

加藤 康之[2018]、「退職後の資産運用の枠組み」、『証券アナリストジャーナル』8月号、pp.19-28.

小出 昌平/大和証券 ライフプランビジネス部 担当部長

1993年4月大和証券入社。投資信託の開発や富裕層ビジネスの企画・運営業務などを経て、2015年より確定拠出年金業務に従事。現在は、iDeCoと呼ばれる個人型確定拠出年金の周知・普及活動に携わりながら、自治体や事業会社の職場における金融・投資教育、ライフプラン教育の支援活動に取り組み中。

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