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18〜19世紀、女性画家の闘い【ヒロインたちの展覧会】

  • 2021.6.15
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フランスで1780年から、7月革命が起きて立件君主政が始まる1830年までの50年間。こんな男性優位としか思えぬ時代に女性画家が活躍していたことは想像しにくいけれど、リュクサンブール美術館で開催中の『女性画家たち1780-1830 闘争の始まり』展では芸術教育を受け、キャリアを築き、依頼客を開拓し、公的に受け入れられて……と、この時代に奮闘した女性画家たち40名の作品を紹介している。

展覧会の導入部を飾るのはJenny Berger(1780〜1835年)が1806年のサロンに出品した作品の版画のリプロだ。宝石を差し出す男と金貨を差し出す男に囲まれて耳をふさぐ女性を描いた『二人のどちらでもない』。

展覧会の最後の部屋は「私、画家」というテーマで5名の女性画家たちの自画像を展示。左から、エリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブラン(1755〜1842年)、マリー・アデライド・デュリユゥ(〜1818年)、オルタンス・オードゥブール=レスコー(1784〜1845年)。

40名の中で最も知られた名前はマリー・アントワネットの肖像画で知られるエリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブランだろう。彼女とアデライド・ラビーユ=ギアールのふたりの女性が1783年に王立絵画彫刻アカデミーの会員に受け入れられたことは、おおいに話題を呼んだ。展覧会は最初の部屋で、女性だって描く権利があるのだ!とスタートする。

左:エリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブランによるマリー・アントワネットは『Portrait de Marie Antoinette en robe de mousseline dite 'à la créole', 'en chemise' ou 'en gaulle'』(1783年)。右:アデライド・ラビーユ=ギアール(1749〜1803年)による『Elisabeth Philippine Marie Helène de France』(ルイ16世の姉)。

1780年以降、ブルジョワ階級が台頭し、画家の家庭に生まれた娘たち、そして画家を父に持たない若い娘たちも絵画、デッサン、さらに人体解剖学のクラスに通うようになる。ダヴィッドやグルーズといった著名画家たちも自分が主宰するアトリエに女性たちを迎えた。1800年には、女性だけを対象にした絵画のプライベートレッスンも行われるように、と時代は変化してゆく。展示の第2室「学ぶ」では、そうした教室の光景を描いたいくつかの作品でそれを確認することができる。また女性画家も男性同様に、イタリアに絵画の旅に出ていたことも展示作品で示している。

マリー=ガブリエル・カペー(1761〜1818年)の『L'atelier de madame Vincent』(1800年)。ここでは教師も女性である。

左は『アベル・ドゥ・ピュジョルのアトリエ』(1822年)、右上は『レオン・コニエのアトリエ内部』(1831年)、右下は『若い女性のための絵画学院』(1836年)。

ルイーズ・ジョゼフィーヌ・サラザン・ドゥ・ベルモン(1790〜1870年)は1824〜26年にイタリアに滞在。彼女は風景画家として名声を築き、亡くなる2年前まで活動を続けた。

認められ、名を広め、作品の依頼を受けるためサロン(官展)への出品は欠かせない時代である。それは女性画家にもいえることだ。19世紀の初め、サロンへの出品はアカデミー会員のみに限られていたのが一般人にも開かれたこともあり、1804年のサロンの来場者は22,000人を超えるなど、官展はフランスにおける文化のメインイベントだったといえる。参加画家数も増え、若い女性画家たちも大勢が参加。入選者数は少ないにしても、彼女たちの肖像画、小さいサイズの絵画、日常光景のテーマなどは自宅に絵を飾りたいというブルジョワの客たちに好まれたそうだ。力をつけた女性画家たちはサロンに出品し、職業画家として依頼主を増やしていったのである。ローズ=アデライド・デュクルーのように、画家の父とともにサロンに出品した画家もいる。

第3室「サロン」。

左:ローズ=アデライド・デュクルー(1761〜1802年)が1793年にサロン出品した『膝に子供を抱いた女性の肖像画』。右:第3展示室で一番人気の作品は、マリー=ドゥニーズ・ヴィリエによる靴紐を結ぶ女性のポートレートだ。

頑張った女性たちの作品。彼女たちの闘いとは別に、この展覧会では絵画の中に描かれている女性たちの服装、ジュエリーも見どころである。ナポレオン皇帝妃ジョゼフィーヌやマダム・レカミエの装いでおなじみのエンパイアスタイル、刺繍をほどこしたカシミアのショール……素材も見事に描かれている。ジュエリーについては、その装い方も興味深い。リュクサンブール美術館の来場者は比較的年配女性が多いのだが、この展覧会では熱心にメモをとる彼女たちの姿がいつも以上に見られた。

画家の自画像にしても、肖像画にしても見ごたえのあるジュエリーが多い。

カシミアやシルクの素材感、施された刺繍の繊細さが見事に画布に描かれている。美術館のブティックでは、右のルイーズ・エルソンが1834年に描いた若い女性が身につけているブルーのショールにインスパイアされたショールを販売。photo:Mariko Omura

『Peintres femmes, 1780-1830 Naissance d’un combat』展会期〜7月4日Le Musée du Luxembourg19, rue de Vaugirard 75006 Paris営)10時30分〜19時(月〜22時)料)13ユーロwww.museeduLuxembourg.fr

リュクサンブール美術館はエントランスの手前左手にアンジェリーナのサロン・ド・テがあることでも女性たちに愛されている。最近、新しいコンセプトが導入され、マドモワゼル・アンジェリーナに改名された。ここがほかのアンジェリーナとちょっと違うのは、美術館の展覧会のテーマに合わせて毎回パティスリーがクリエイトされ、開催期間中味わえることだ。『女性画家たち』展に際して生まれたのは、19世紀の女性の帽子クーヴル・シェフにインスパイアされたフォルムのパティスリー「Panache (パナッシュ)」。展覧会終了とともに姿を消す泡沫のスイーツ、展覧会とともに味わわなければ!

マドレーヌ・アンジェリーナ。これからの季節は断然テラスで。

パナッシュ。ライムミントのふわんふわんのムースにハイビスカスとミュールのフルーツがアクセントを添える。9.20ユーロ(テイクアウトは7.40ユーロ)

Mademoiselle Angelina19, rue de Vaugirard75006 Paris営)10時30分〜19時無休www.angelina-paris.fr/en/mademoiselle-angelina

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