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フランスのグレタ、カミーユの地球温暖化との闘い方。

  • 2021.6.13
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身の回りの小さな出来事をきっかけに社会に疑問を持ち、新しい提案を掲げて、軽やかに行動に起こす。世界にイノベーションを起こす、若者たちの声にいま耳を傾けて。

Camille Etienne

Paris

カミーユ・エティエンヌ。1998年、フランス生まれ。気候変動問題に取り組む。エコロジー団体 On est prêt 所属。@graine_de_possible

環境への最初の一歩は小さくても、幸せを生み出すから前進できる。

昨年5月、YOUTUBEに投稿された動画「RÉVEILLONS-NOUS(目覚めよう)」が大きな話題を呼んだ。「I’m Sorry」の言葉で始まる10分余りの動画は、投稿10日で400万ビューを突破。1年後のいま、世界で1500万人以上が閲覧しているという。「もう信じないなんて言っている時間はない。目を覚まそう」――雪の溶けかけた山の風景の中で、地球温暖化の危機を訴えるカミーユ・エティエンヌは22歳。フランスのグレタの異名をとり、この1年で新世代の環境問題の活動家として押しも押されぬ存在になった。 

サヴォワ地方の大自然に囲まれて育ち、パリ政治学院に通うために18歳で上京したカミーユは、「自然のリズムとかけ離れた都会の暮らしに衝撃を受けた」という。3年生の時、エラスムス計画(EU加盟国間の学生流動を促進する目的の交流計画)に参加してフィンランドに留学。森とともに生きる暮らしや農業のあり方に触発されて、フランスに戻るとすぐに、環境問題に取り組む活動を開始した。彼女が始めたのは、スピーチをさせてくれる場を求めて、たったひとりで、政治組織やビジネスリーダーの扉を叩くこと。TEDxで講演し、フランス企業の最高経営者の組合MEDEF(フランス企業運動)、JP モーガン、ル・リッツなどで環境問題について話す。働きかける相手は「権力を持つエリート」。「トロイの木馬」よろしく、敵陣にのりこんで直接意見をぶつける。「決定権を持つリーダーに圧力をかけ、メディアを動員し、世間に“大事な決定が行われている”と伝えるのが大事」と彼女は言う。

2019年末に欧州グリーンディールが審議された時は、グレタ・トゥーンベリら、各国から集まった若き活動家仲間とともに開場前にテントを張り、各国の議員や政治家と語り合った。「私の役目は人々を動かし、具体的な行動に足を踏み出してもらうこと」。YOUTUBEの動画でエコロジーを訴える「On est prêt」グループのスポークスマンとしても活動するカミーユ。友人とふたりで立ち上げた「Pensée Sauvage(野生の思考、3色スミレとの掛け言葉)」の活動では、前述の動画「目を覚まそう」を筆頭に、今後も自主制作による啓発動画を発表していく予定。クラウドファウンディングを募った次回作のためには、目標額の3倍近い資金が集まった。SNSで繰り広げられる彼女の活動は、若い世代を中心にたくさんの人に訴えかけ、運動を一般に広げていく力を持つ。

だが、目に見えやすいSNSでの活動以上に彼女が力を注ぐのは、必ずしも同意見でない指導者やビジネス界に語りかけ、新しい視点をもたらすことだ。2020年夏に、MEDEF(フランス企業運動)の会合に招かれて討論したのが話題になって以来、彼女の話を聞くためにコンタクトしてくる企業のリーダーが増えている。既存の経営者団体であるMEDEFから、エコロジー、社会面などで新しい経済の形を探す経営者が集まるMOVES(フランスインパクト運動)に加わるように働きかけることも多い。「最近うれしかったのは、私の話を聞いたエーグルの経営者がMOVESに加わり、エコなコレクション作りからさらに進んで、サーキュラーエコノミーに向かったこと」

アースデイにはテレビに出演して意見を語り、デモがあれば出かけて行き、動画を製作し、政治やビジネスのエリートに働きかける。2年前にたったひとりで、自分のやり方で始めた地球温暖化との闘いは、いま、ミレニアルズだけでなく、ビジネスエリートも巻き込んだ運動へと、膨らみ始めている。

*「フィガロジャポン」2021年7月号に一部掲載。

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