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尾野真千子が語る監督・石井裕也の存在 『茜色に焼かれる』は「今しか撮れない」作品に

  • 2021.6.22
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尾野真千子(撮影=池村隆司)

『舟を編む』『町田くんの世界』『生きちゃった』の石井裕也監督の新作映画『茜色に焼かれる』が公開中だ。現在のコロナ禍の日本を舞台に傷つきながらも自身の信念の中でたくましく生きる親子の姿を描く人間ドラマだ。

今回、リアルサウンド映画部では、多難の時代に逆風を受けながらも前向きに歩もうとする母親・良子を演じる尾野真千子にインタビューを行った。石井組への信頼や、コロナ禍を経て感じていることを明かしてくれた。

■石井裕也監督による気迫の台本

――台本を読まれてどんな感想をお持ちになりましたか?

尾野真千子(以下、尾野):石井さん……。石井裕也ってすごい人なんです(笑)。たぶん、きっと誰でも、この台本を読んだら、すぐにやりたいって思うだろうなと。私としては、その監督の作品を取られたくないなと思って。

――今回は、石井監督からオファーを受けたと。

尾野:まず始めに、台本を「今撮りたいんです」と持ってこられて。「だろうな」と思いました。この作品は今しか撮れないし、このリアルな気持ちのまま撮れるし、自分にとってすごい映画になるかもしれないと思って、この人について行こうと思いました。

――おっしゃる通り、コロナ禍の今を赤裸々に描いていて、観終わるとどっと疲れが押し寄せてくるような感覚すらありました。

尾野:すいません(笑)。本当に気持ちが熱い台本でした。本当に石井さんにしか書けない台本だなと感じたし、よくこの母親像を、男性の石井さんが書けたなとすごく感動したんです。確かに、ちょっと特殊な母親のように描かれているかもしれないけど、意外とやってみたら、そこまで特殊じゃない。意外と理解ができる母親で。熱がすごく伝わった台本でした。

――刺さるようなセリフのオンパレードでした。

尾野:どれも刺さるでしょ。石井さんのすごいところで、どのセリフを撮っても、どこも省けないセリフなんです。自分にも刺さるし、相手にも刺さる言葉をどんどん生み出してくる。それが、石井さんがすごいところだと思ったんです。どの作品もそうなんですけど、「見どころどこですか?」とか、「選びなさい」って言われるのが苦手で。作品に対して、全てのシーン、全てのことが、自分が全力で演じたからどこって言えない。やっぱり、自分たちがやっている身だから選べないですよね。

――実際に、和田庵さん演じる息子・純平との親子関係も本作の重要なポイントかと思いますが、和田さんの子供としての存在感はいかがでした?

尾野:和田くんはすごく面白かったです。繊細で、表現も豊かだったし、自分の子どもとして、ちゃんと愛せた気がします。

■「すごい愛情の中で芝居をやっている」

――尾野さんご自身もコロナ禍を経験されている中で、この作品を演じてみて感じたことはありますか?

尾野:憎い敵ですよね。コロナにいいイメージなんて1つもないけど、もしかしたら、コロナのおかげで、この作品は作れたのかもしれない。コロナがなかったらこの作品はなかったのかもしれないと思うと、99%嫌いなコロナだけど、コロナのおかげで、この作品が出来たし。人数を減らして、ソーシャルディスタンスで撮影する必要もありましたが、でもそのおかげで、スタッフとすごく絆が深まり、団結力が生まれ、現場では嫌なことが全くなかった。だから、そういう面では、この時期に撮れてよかったなと感じています。

――実際、撮影に関しては、2019年以前とは全く別の労力がかかってきているんですよね。

尾野:そうですね。買わなくていいものを買わなきゃいけないこともあるし。芝居もマスクつけたままテストして、本番だけ取って撮影してと。もどかしい気持ちでいっぱいです。

――そういった感情すらもスクリーンに映し出されているようです。

尾野:でも、監督が石井さんだから、いい効果を出しているような気もします。だから、石井さんの作品に対しての思いがとても熱く、いい意味で重いものになっているから、みんなやっぱりそれに引っ張られてついてくるんですよ。その姿とかを見ていると、やっぱり映画っていいなって思うし、出会いたかった人だなと。石井さんは、モニターを見てチェックをしているわけじゃないんですよね。一切モニターを見ずに、私たちの芝居を自分の目で見ている。きちんと自分で画角もわかった上で、私たちの芝居を真剣に見てくれていて、だから役者陣も不安がない。すごい愛情の中で芝居をやっているので、すごくぜいたくな現場だったと思います。

――役者さんとしては、全幅の信頼を置いて、自分が持っているものが出せる環境なんですね。

尾野:心強かったですよ。たぶん、どの部署のスタッフも心強かったんじゃないかな。それぞれの部署みんなが安心してできるというか、ちゃんと軸として監督がいてくれるから。

――この映画に救われる人はたくさんいるんじゃないかと思います。

尾野:救われるかどうかはわからないけど、今回の映画をやって、救われなくてもいいというか、この想いが届いたら何か変わるのかなと思ったりします。この思いが伝われば、その人たちの思いも何か変わってくれるのかな。見方はいろいろだろうなと思います。この作品を観てさらに怒る人もいるかもしれない。でも、同じ境遇の人とかが観たときに、「自分と同じ気持ちだ」とすっきりする人もいるかもしれない。いろんな思いがあっていい。映画はきっとそういうものだから。共感してほしくて作ってるわけでもないから、「思いよ届け!」と思ってやっている。いろんな気持ちになってくれたら、私たちは嬉しいなと思います。

(取材・文=安田周平)

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