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動物なのに“人間らしさ”を感じる? 『オッドタクシー』が視聴者にもたらす親近感

  • 2021.6.9
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『オッドタクシー』(c)P.I.C.S. / 小戸川交通パートナーズ

一昔前に流行した動物占いを覚えている人も多いのではないだろうか。自分は猿だ、ライオンだ、オオカミだと語り合い、占いを楽しむ。生年月日から割り出されるオーソドックスな占いにもかかわらず、なぜか当たっているような気もしてくるから不思議だ。これらも動物がモチーフだからこそ、より身近に感じるのかもしれない。今回は動物たちを擬人化したテレビアニメ『オッドタクシー』と、動物キャラクターが視聴者にもたらす親近感について考えていきたい。

『オッドタクシー』は、4月より放送されているオリジナルテレビアニメだ。主人公の小戸川をはじめとした多数の登場人物たちが、それぞれの思惑を抱えながら行動し、女子高生失踪事件や銃乱射事件などの大きな事件に巻き込まれながらも、複雑に関わり合っていくさまを描く群像劇となっている。

今作でまず気がつくのは、動物を活用したキャラクターデザインだろう。小戸川はその名の通り、オットセイをモチーフとしたキャラクターのタクシー運転手だ。その仕事柄多くの人物をお客さんとして乗せることで交流が生まれ、中には人生が変わったと尊敬するキャラクターもいる。だが、小戸川自身は毒舌家であり、いつも憮然とした態度をとる。

近年、動物のキャラクターデザインを取り入れた作品というと『ズートピア』や『BEASTARS ビースターズ』を連想するだろう。これらの作品の特徴として、草食動物や肉食動物などの生態の違いに着目し、生まれながらに持ってしまった変えられないものが原因となり、差別や種族ごとの諍いが起こる姿を描いている。捕食関係や共生関係など複雑な生態系を持つ動物たちを擬人化することによって、娯楽性を交えながら誰にでもわかりやすく社会を描き出すという試みは批評的にも成功している。

またユニークなところでは『異世界レビュアーズ』を挙げたい。エルフや妖精などのファンタジーなキャラクターたちが暮らす世界の、性風俗について探求した作品であり、種族が変われば好みのタイプも変わることを描いていた。こちらは下ネタ満載ながらも生まれ持った性質の違いによる多様性を描いており、上記の作品たちとつながる。

では『オッドタクシー』の場合はどうだろうか。 本作はキャラクターデザインが動物だからこその強みも多く感じ取れる。

近年はアニメ作品も多様化されており、10代の少年少女のみが主人公を務めるという作品ばかりではなくなってきた。とはいうものの、41歳のタクシー運転手のおじさんである小戸川のようなキャラクターが、転生もせずに現代で主人公を務めるアニメ作品というのも異例だろう。どうしてもアニメ作品の主人公は美男美女が多くなるが、小戸川はそういったタイプではなく、愛想もない。それでは視聴者に愛されるキャラクターにはなりづらい。

しかしオットセイのキャラクターを与えられることで、その憮然とした様子もどこか愛らしさを感じさせ、丸みをおびたおじさんの体型でも独特の可愛らしさが生まれており、視聴者に受け入れられやすい主人公像となっている。

もう1つの利点は数多くのキャラクターたちが、視聴者に覚えられやすいことだ。今作は群像劇ということもあり、何十人ものキャラクターたちが登場する。そして出番の多寡はあるものの、その誰もが複雑に絡み合い、他のキャラクターの行動や思惑に影響していく。これが全員人間型のキャラクターであった場合、誰がどのような事情を抱えているかわかりづらくなってしまうのではないだろうか。

そこで動物のモチーフを活用することにより、各キャラクターの個性を強調するとともに、直感的に視聴者に覚えてもらえる。例えばアルパカの白川は清楚な雰囲気もある可愛らしい看護婦、テナガザルの柿花は冴えない部分もあるお調子者、といった具合だ。これだけ複雑な物語を違和感なく受け入れられるのは、動物キャラクターの利点でもある。

『オッドタクシー』はキャラクターデザインを動物とすることで、各キャラクターの個性を描くことに成功している。それによって41歳の無愛想なおじさんが主人公になったり、あるいは多数なキャラクターを視聴者に説明している。これは群像劇をより魅力的に魅せるための大きな工夫と言えるのではないだろうか。

今作は先に挙げた『ズートピア』などに比べると、生態に動物らしさは感じられない。小戸川からは見た目以外からオットセイらしさを感じないし、ゴリラで医者の剛力は、知的なゴリラらしさを感じなくもないが、あくまでも人間の延長線であり、絶対にゴリラでないと物語が破綻するようなキャラクターではない。この2人と柿花が通う小料理屋で食べるものも、人間が食べるものと同様だ。

あえてそのような人間臭い描写を重ねることで見えてくるものが、通俗的で普遍的な人間の奥深さだろう。SNSでバズって有名になりたい、かわいい女の子にモテたい、芸人やアイドルとして売れたい、楽してお金が欲しい……そういった人間の持つ欲や弱さ、業といったものが感じ取れる。あえて動物キャラクターとすることで個性を増し、そして人間らしさをより強固に感じる作品に仕上がっている。

動物をメインキャラクターのビジュアルとすることで、社会や差別などの問題を描く作品もあれば、あえて人間に寄せることで人間の持つ欲や業を描き出す。同じ手法であっても描くテーマは異なり、どちらも奥深いものになる。『オッドタクシー』を観ていくうちに、自分の身の回りにも、小戸川や剛力や柿花のような人間が身近にいるような気すらしてくるのではないだろうか。筆者はSNSで安易に人気者になったりお金を得たい樺沢太一に、自分は似ていると感じて、背筋を伸ばす。

(井中カエル)

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