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森見登美彦、自著『夜は短し』舞台化に「原作も工夫しとけば…」

  • 2021.6.6
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作家・森見登美彦の累計売上160万部を超えるベストセラー小説『夜は短し歩けよ乙女(以下、夜は短し)』。2017年には星野源や花澤香菜らで劇場アニメ化され、大ヒットを記録。冴えない男子大学生の「先輩」が、サークルの後輩「黒髪の乙女」に恋をし、さまざまな騒動に巻き込まれる様を描いている。

そんな『夜は短し』が舞台化。脚本・演出を手掛けるのは、同作のアニメ映画の脚本をはじめ、長年森見とタッグを組み、「フィクション永久機関」と小説家・万城目学に称されるほどの間柄、ヨーロッパ企画の上田誠だ。森見が「集大成となる」と期待する、今回の舞台について話を訊いた。

取材・文/吉永美和子

『夜は短し歩けよ乙女』原作者の森見登美彦 写真提供/KADOKAWA
「ミュージカルっぽい、今までで一番密度のある脚本」

──『夜は短し』は、天衣無縫な「黒髪の乙女」と、彼女が好きだけどなかなかアプローチできない「先輩」が、京都の街で次々と不思議な出来事に出くわす、キュートな冒険物語です。アニメはともかく、舞台化は難しい作品ではないかと思ってました。

そうかもしれないですね。僕は小説を書くとき、目で読むことを想定しています。とくに『夜は短し歩けよ乙女』はそういう方向で一番とんがっていた時期のもの。舞台は耳で聞かないといけないので、見る人は大変なんじゃないか、というのは少し心配でした。

──確かに「詭弁(きべん)踊り」とか「路傍(ろぼう)の石ころに甘んじる」とか、音で聞いただけだと、数秒ぐらい迷子になりそうな言葉が多いかもしれません。

僕は、その漢字を「見た」ときのイメージで、「ここはあえて、難しい漢字を使いたい」と思って文章を作っていくところがあるけど、それはやっぱり音読に向いてないんですよね。でもそこは (今回演出を担当する) 上田さんも、できるだけ原作の言葉を活かしつつ、耳から入ったときにわかりやすいというバランスをすごく考えてらっしゃるとは思います。

──舞台版の脚本は、すでにご覧になったそうですが。

僕がこれまで上田さんから聞いたアイデアがいろいろ詰め込まれていて、今までで一番、ボリュームも密度もある脚本でした。乙女が進んでいくに連れて、舞台全体の世界も動くという、演劇の舞台では普通避けると思うような見せ方をするともおっしゃってましたね。今回は結構、言葉を音楽に乗せて語っていくそうです。

──しかも「ラップが多用される」と、小耳にはさみました。

仮(のヴォーカル)で上田さんが歌ってる(劇中の)音楽も聞きましたよ(笑)。さっき言ったバランスのことを考えたときに、上田さんは音楽を選んだんじゃないかと思います。そういうミュージカルっぽいところは、アニメ映画の方でも湯浅(政明)監督が入れられていましたし、なにか歌を使いたくなる原作なのかな? と思います。

舞台『夜は短し歩けよ乙女』のメインビジュアル。先輩役に歌舞伎役者の中村壱太郎、乙女役に乃木坂48・久保史緒里を起用
「どこまでが上田さんの脚色なのか、どんどん曖昧に」

──それに加えて、先輩と乙女のキャラクターを魅力的に描けるかどうかも、大きな鍵になるかと推察します。先輩役の中村壱太郎さんと、乙女役の久保史緒里さん(乃木坂48)には、どういう印象を抱いてますか?

壱太郎さんは、一度対談でお話しましたが、とても上品な雰囲気の方で。実際に自分が、あの小説のような生活をしていた頃は、ボロい四畳半でウダウダしていたので(笑)、そこはちょっと気が引けましたね。久保さんは映像で拝見しただけですが、やはりこちらも僕がボンヤリ思い描いた乙女像より、ちょっとゴージャス。だからこそお2人が、どういう風に「先輩」と「乙女」になっていかはるのかな? というのが楽しみです。

──ほかに気になっている、俳優とキャラクターの組み合わせはありますか?

李白役の竹中直人さんですね。僕が想定していた李白さんとは、全然違うんですけど、上田さんの脚本では、かなり竹中さんを想定した台詞が書かれているので、一体どうなるんだろう? と。

──とはいえ、今まで上田さんが脚本化した作品を振りかえると、原作を結構イジっているにもかかわらず、最終的には「すごく森見ワールドだった」という感じに収まりますよね。

その辺の狭間が、上田さんはすごく上手なんですよ。原作の要素と、上田さんならではの要素を、すごく巧みにバランスを取ってやってはるなあと思って見ています、毎回。

──たとえばアニメ版の『夜は短し』では、パンツ総番長の想い人をほかのキャラに替えることで、意外な伏線回収につなげるという離れ業を見せてましたし。

あれはですねえ、僕が「ああいう風にしようとしたけど、できなかった」という話をして、それを活かしてくださったみたいです。今回の舞台でも、そういう部分があると思うんですけど、どこからが僕の言ったことで、どこまでが上田さんの脚色なのかが、どんどん曖昧になってきています(笑)。

「小さな風呂敷で勝負するのが好きなのは、同じなのかも」

──上田さんは、ヨーロッパ企画の舞台でも、いろんな要素から伏線になりそうなことを拾い上げて、再構成することにかなり長けてます。それが森見さんの自由でファンタジックな世界と組み合わさったときに、すごい相乗効果になるんじゃないかと。

一番大きな特徴は、そこですよね。僕はその場のノリとか勢いを、文章に活かす方が合ってるので、逆に伏線を考えたり、つじつまを合わせるのが苦手なんです。『夜は短し』も、事前にキャラ設定や流れをあまり考えず、先輩が乙女をどういう風に語り、乙女がどういう行動を取るか? というニュアンスをとにかく積み重ねていくことで、だんだんと外堀を埋めていく・・・というやり方でした。

──展開がまったく読めないのは、実は作者も先のことをまったく決めてなかったからだったんですね。

『夜は短し』は、特にそういう書き方をしていましたね。そんな行き当りばったりの乱暴な話に、上田さんは見やすいような波を作ったり、原作ではつながってなかった所をつなげたりと、毎回いろいろ工夫をされるんです。だから脚本を読むと、本当に「ああ、原作ももうちょっと工夫しときゃよかった」って思います(笑)。

──でも逆に(ヨーロッパ企画の舞台と森見自身の作品をマッシュアップした)『四畳半タイムマシンブルース』は、原作舞台では希薄だった恋愛要素に焦点を当てることで、舞台版にはなかった勢いを付けるという、森見さんの得意技が生きた作品だったと思います。

やっぱり「いつか小説の強みを生かした形で、舞台を小説化したい」とは、ずっと考えていたんです。僕の場合、主人公がどういう風に行動して、どう変わっていくか? に重点を置かないと小説にならない。となると、タイムマシンと主人公の恋の行方が密接に絡んでいく流れにしないと、小説にする面白さが半減するんです。だから舞台版より、主人公と(恋する相手の)明石さんのお話の側面が、すごく強い話になりました。

──まさに「原作の雰囲気を壊さないまま、自己流にアレンジする」作業の、見事なアンサーとなる作品でしたが、お2人のこの相性の良さは、やはり表現者としてなにか共通項があるからでしょうか?

実は全然違うタイプの作家なのに、最終的にでき上がるものの雰囲気は、なぜか似てしまいますよね。その理由については、僕もいろいろ考えたりするんですけど、なかなか難しい。

──私もお2人の具体的な共通点を、取材直前までずっと考えてましたが、やっぱり明確な答えが出なかったです。

上田さんはSF的だったり、構成の巧さの方にやりたいことが寄っている感じがするけど、僕は僕でファンタジーや文章の勢いみたいな所に寄っている。それでも最終的にでき上がった作品のカラッとした感じや、ユーモアとか温かみとかが「似てるなあ」と思うんですよね。でも、あまり大風呂敷を広げすぎないというか、小さな風呂敷で勝負するのが好きなのは、もしかしたら同じかもしれない。

「今回の舞台は、上田さんと僕のお付き合いの一区切りみたいなものになるのでは」と語った森見 写真提供/KADOKAWA

──そう言われるとお2人とも、選ぶテーマは非現実的でも、物語の世界は私たちの日常から離れすぎないという印象を受けます。

そうですね、そこはすごく感じます。僕がよく大学生のときに考えていたのは、なにか不思議な出来事や、面白いドラマがあったとしても、自分が普段歩き回ってる範囲で起こってくれないとつまんないなあ、ということ。だから小説も、そういう書き方をすることが多いです。上田さんも結構、はじまりはSF的な発想で、すごく変わったアイディアだとしても、使う素材は絶対日常から持ってくるじゃないですか?

──大学の部室とか、普通のカフェとか、全然SF臭がしない場所を舞台にするケースが、圧倒的に多いですね。

だから未来の世界を描いていても、我々の日常からすぐ歩いていけるような未来、という感じがする。それは上田さんの好みでもあるだろうけど、結構意図的に、大風呂敷を広げないようにやっているという感じが、すごくしますね。

──だとすれば、なにげない大学生活のなかで、ファンタジーがポコポコと発生する『夜は短し』は、まさにお2人の作家的な嗜好が合致した世界ではないかと。

でもこの作品に関しては、もはや上田さんの方が絶対に詳しいです。やっぱり書いた方は忘れてしまうし、自分の小説を読み返すことも、そんなにないので。だけど上田さんは何回も何回も読み返して、今に至ってますからね。そういう意味で今回の舞台は、上田さんの『夜は短し』とのお付き合いの集大成であり、それはある種、上田さんと僕のお付き合いの一区切りみたいなものになるんじゃないでしょうか。

──小説家の万城目学さんが名付けたお2人の関係、「フィクション永久機関」のターニングポイントになる、という予感が。

ずっとキャッチボールみたいに(お互いの作品を)やってましたからね(笑)。とはいえ今後も、僕の小説を別の形にしてもらったり、僕の方も上田さんの作品を小説にしてみたいと思います。『夜は短し』は無茶な原作なので、若干「大丈夫なんかな?」とハラハラしてますが・・・、特に「詭弁踊り」を、舞台でどう表現するのかと。でもきっと上田さんなら、オモチロイ舞台にしてくれると思うし、ぜひ成功してほしいです。

【舞台『夜は短し歩けよ乙女』】6月6日~ 22日は「新国立劇場 中劇場」(東京都渋谷区)、6月26日・27日は「COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール」(大阪市中央区)にて上演。チケットは一般9800円ほか、現在発売中。

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