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【VOCE特別インタビュー】“普通って、何?”【井手上漠】。18歳が語った、孤独やコンプレックスとの向き合い方

  • 2021.6.5
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「18歳の今だからこそ、出す意味があると思ったんです」

井手上漠

―発売以来話題となっている井手上漠さん初のフォトエッセイですが、今回出版に至るまでの想いを教えてください。

「本当はずっとエッセイを出したかったんです。ただ、正直こんなに早く出せるとは思っていなくて。もうちょっと色々な経験を積んだり、刺激を受けてから書いてみるっていうことを私の中では想像していたんですよね。でも、私が今までしてきた経験は誰か他の人ができるようなものではないし、18歳だからこその感情や今の私にしか残せない言葉やモノがあるのではないかと考えたときに、今出すことに意味があるのかなと思えました。私のようにジェンダーの部分で悩みがある方にはもちろん、当事者でない方の心にも何か残せるようにこだわった作品になっているので、ぜひ読んでいただけたら嬉しいです」

井手上漠

―18年間の人生を振り返って、一番感情が揺さぶられた出来事やターニングポイントはいつですか?

「それはもう、中学2年生の頃ジェンダーのことを母に打ち明けたとき。エッセイの中で詳しくお話ししているのですが、母が『漠は漠のままでいい』って言ってくれたときに、すごく不思議な感情で涙が出て。このときの感情は言葉で表すのがすごく難しいんですけど、不安や恐怖がある一方でどこか嬉しさや安心感があったんです。今までの母の教えや育て方にもつながるところもあり、やっぱりこの出来事が私の人生の中で一番大きなターニングポイントですね」

―お母様から教えてもらったことで、生きる上での軸としているものを教えてください。

「たくさんあるんですけど、今は“謙虚でいなさい”ですね。私が島を出て上京することが決まったときに『謙虚でいることだけは忘れないで』と言ってくれたんです。その理由は言わないんですよ。でも、昔から母が言ってくれたことには意味があったんだなと気づく事が山々あるんです。この言葉の意味も私がいつか気づく事ができるんだろうなと思っているので、私の中で大事に守っています」

「ネガティブに捉えていたコンプレックスが、今では自分の個性になりました」

井手上漠

―色々な困難を乗り越えてご活躍されている井手上さんですが、今でも何かに迷ったり、自信を無くしたりすることはありますか?

「もちろんあります。やっぱり自分の弱点は自分が一番知っているので、周りと並んだときにそこが見えてしまうと気持ち的に弱くなったりもしちゃうんですけど、そういうときはいつも“自分しか持っていないものってなんだろう”と考えるようにしています。あの人には出せない私にしかないもの、それを自分の中から湧き出して、自信につなげているところがありますね」

―もし今目の前に頼れる人がいない、本音を打ち明けられないと悩んでいる人がいたら、どんなふうに声をかけてあげたい?

「打ち明けられると思う人ができたときに、打ち明ければいいんじゃないかな。頼れる人が欲しいという気持ちや孤独感があるというのはすごくわかるんですけど、本当のことを誰かに打ち明けることだけが正解ではないと思うんです。私は恵まれていて母に打ち明けられたという経験がありますが、なかなかそうできない方もいるのが現状ですし。孤独な自分から逃げたいという気持ちは本当にわかるんですよ。でも、“打ち明ける”が先じゃなくて、“この人なら”が先。今は一人だと感じていても絶対に味方はどこかにいるので、色々な人と関わって、話を聞いて、刺激を受けていくことで、“この人なら”っていう人と出会えるはずだから」

井手上漠

―ジェンダーの目線で、今後世の中がこういうふうに変わっていって欲しいなと思うことはありますか?

「一言で言えば、選択肢のある世界になって欲しくて。私の経験から言いますと、性別の壁に直面したときに、男性女性の2つから選択しなければいけないことが多いんです。トイレに行くときや更衣室に入るときも、まるで無言でどちらかを選べと言われているような感じで小さなストレスを抱えてしまう事があったので。男女の2つだけにとらわれずに違う選択肢があれば、私のようにマイノリティの人たちが救われるんじゃないかなと思っています」

井手上漠

―自分らしく輝いて生きている井手上さんに、憧れている読者も多いと思います。自分らしさや個性、強みを見つけるためのアドバイスをお願いします!

「これは他の人の言葉をお借りするんですけれど、“コンプレックスの裏側に才能がある”というスピーチを拝見したときに、本当にそうなのかもしれないって思って。自分がコンプレックスだと思っている部分が、その人にしかない輝きだったり、その人にしか出せない個性だったりする。だからこそ、人の話を聞いたりして、自分を知るということがすごく大事だと思います。私も昔は性別に違和感を抱いていることがすごくコンプレックスだったしネガティブに捉えがちだったけど、今思えば“普通”なんてないわけで、これは自分にしかないもの。今こうして活動しているのも、自分だけの個性があってこそ。だから、自分のコンプレックスを見つめ直してみるのも良いかもしれないです」

「メイクはジェンダーレスであるべきだと、発信していきたい」

井手上漠

―フォトエッセイでは井手上さん提案の男性らしい/女性らしい眉メイクページもありますが、普段のメイクで何かこだわっていることを教えてください。

「私、こういうメイクが好き!というものがあんまりないんです。色々やってみたい人なので、男性っぽいメイクも女性っぽいメイクも好き。女性が男性風のメイクをするのもおかしくないし、戸籍上男性の方が、アイラインを太く描いてチャイボーグメイクとかしていても美しく感じたりするじゃないですか。メイクって魔法だと思うんです。誰がどんなメイクをしてもその人の魅力を引き出せるから素晴らしいですよね。メイクは誰がしてもいい、ジェンダーレスであるべきだ、ということをこれから発信できたらいいなと思っています」

―初めてメイクに挑戦しようとしたときに、失敗したパーツや苦戦したことって覚えていますか?

「眉毛……? 初めてのときは下手すぎて母に指摘されました(笑)。顔の印象って8割が眉毛だと言われているけれど、眉ってアイラインを引くよりも難しくないですか? 元々の形もあるし、どう整えるかだったり、流行りや色、太さに、長さ、こんなに難しいものなんだって今でも思っているくらいです」

―おうちでのナイトルーティーンを教えてください。

「最近は、おうちに帰ったらソファーにバタンキュー。お風呂を溜めている間にちょっと寝て、お風呂に入ってから寝ます。いつも岩塩を入れて汗をかきながら、2〜4時間くらい浸かりますね。ちょっと長すぎますが、水を持ち込んで水分補給はちゃんとしています! 映画を観ながら入ることが多いので、あっという間に時間経つんです。ストレス発散にもなりますね。お風呂から上がってからは、癒しの綿棒で耳かき(笑)、幸せを感じてベッドで寝るのがルーティーン! でも、実は一昨日ぐらいにソファーでそのまま寝てしまって……。メイクも落としていなかったので、すっごい後悔しています。今肌に出ていなくても、3日後、数年後とかに出たら嫌だなって」

―最近、新しく取り入れた美容グッズはありますか?

「マッサージ機! 東京で買い物をしていると、たくさん歩くから足が疲れるじゃないですか。そのときにたまたま見つけた店頭のお試しのマッサージ機を使ってみたら、一気に足が軽くなって、むくみが改善したんです。その日は母が一緒にいて、ちょっと高価な物だったので『絶対にいらない!』と言われて渋々帰ったんですけど、母が地元に帰った後にこっそり買いました(笑)。気持ち良すぎて、最近ずっと使っています」

―井手上さんにとって、美しさの定義とはなんだと思いますか?

「中身と外見の美しさは、繋がっているということ。私はメイクや美容が好きで自分磨きが趣味だったんですけど、それを好きなこととしてやっているうちに、どんどん自分がキレイになったり可愛くなれて、自信を持つことができたんです。そうすることで、前向きな気持ちになれた。その逆で、内面を整えたり美しくすることで、外側の美しさが生まれるということもあると思っています」

井手上漠

井手上漠(いでがみ・ばく)

PROFILE:2003年1月20日、島根県隠岐郡海士町で男性として生まれる。2018年、高校1年生で第31回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストにてDDセルフプロデュース賞を受賞。その後、バラエティ番組『行列のできる法律相談所』やサカナクションのミュージックビデオ『モス』等、数多くのメディアに出演する一方で、モデルとして多数のファッション誌・美容誌で活躍する。

『井手上漠フォトエッセイ normal?』

”可愛すぎるジュノンボーイ”として注目を浴びる話題のモデル・井手上漠が、初めてのフォトエッセイを刊行。井手上漠のルーツ・島根県隠岐諸島にある海士町(あまちょう)での撮り下ろしを掲載しており、生まれ育った土地ならではの自然な表情や美しいショットが堪能できる。エッセイパートでは、生い立ちや家族、SNSや性についてなど、多彩なテーマを収録。井手上漠の”美と言葉”がたくさん詰まった、内容盛りだくさんの一冊となっている。

撮影/水野昭子 取材・文/高橋夏実

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