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「われわれは男性を救いたい」 アパレル老舗のオンワードが “渋谷系”でも“原宿系”でもない新たなファッションを手掛けるワケ

  • 2021.6.4
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昨今話題となっているジェンダー問題。そんななか、アパレル大手のオンワードが男女格差の是正に向き合う新ブランドを立ち上げました。その狙いは何でしょうか。ライターの秋山悠紀さんがインタビューを行いました。

男女の区分がないブランド「IIQUAL」

コロナ禍で在宅勤務が増えたこともあり、オフィスカジュアルやスーツなどの通勤服を着なくなった人も多いでしょう。商業施設の休業等も重なり、以前と比べて洋服の購入頻度が少なくなったのは筆者だけではないはず。こうした背景からコロナ禍におけるアパレル業界の多くは苦境に立たされています。

そんななか、アパレル大手オンワードホールディングスの子会社であるオンワードデジタルラボ(港区海岸)はジェンダーイコーリティ(男女格差の是正)に向き合う新ブランド『IIQUAL(イーコール)』を立ち上げ、2021年4月22日(木)から販売をスタートしました。

オンワードと言えば1927(昭和2)年創業の老舗企業。こうした先鋭的なトピックに取り組んでいることは少し意外です。

なぜ、今回ジェンダーイコーリティに向き合うブランドを立ち上げたのか、その狙いや背景について「IIQUAL」のブランド責任者でありオンワードデジタルラボ取締役の高橋純さんに話を聞きました。

裏テーマは「時短につながる服」

――本ブランドの立ち上げ経緯を教えてください。

オンワードはコロナ禍より前から不採算店舗を閉鎖するとともに、EC(電子商取引)を強化してきましたが、ECの新事業を進めるべく、「IIQUAL」を立ち上げました。狙いは「将来の顧客になる世代を新しいコンテンツで獲得していくこと」です。

これまで百貨店を中心に展開してきたこともあり、ターゲット層や価格帯も高め、かつスーツなどビジネス用の洋服をメインに販売してきました。顧客のマーケティング分析をすると、特に多いのが35歳以上の団塊ジュニア世代で、35歳以下の世代は多くありませんでした。「IIQUAL」については社内だけで完結しては新事業として成立しないのではないかと思い、30代以下のクリエーティブディレクターなど外部の若いメンバーと組むことにしました。

「IIQUAL」のラインアップ(画像:オンワードデジタルラボ)

――「IIQUAL」の服はどのような特徴があるのでしょうか。

メンズとウィメンズという区分を取り払い、性差による体格の考慮や心理的抵抗を少なくするデザインが特徴です。業界としてはとても珍しく、従来メンズを手掛けていたデザイナーとウィメンズを手掛けていたデザイナーが一緒に作り、すべての服が性別に関係なく誰でも着こなせるように開発しました。ちなみにスカートやワンピースはメンズデザイナーに作ってもらいました。

またブランド構想はコロナ禍以前からありましたが、コロナ禍による影響も受けています。今はプライベート用と仕事用で何着も服を買うライフスタイルではなくなりましたよね。そのためほとんどの服に防汚加工を施し、家事や育児がしやすいようにしました。家事や仕事、プライベートも一着で完結するので「時短につながる服」というのも裏テーマです。

ファッションに求められる男女の双方向性

――あくまで男性が着やすいスカートやワンピースを作っているということですね。

そうです。スタッフの20代男性の中には「自分に似合うスカートやワンピースがあれば着たい」という人が結構多かったんです。つまり、スカートやワンピースというアイテム自体に偏見はないのに、気軽に着られるサイズや日常的に着てみたいと思う好きなデザインが世の中にない。そうした意見から、普通の男性が普通に着ていても「周囲からぎょっとされない」スカートやワンピースを作ろうと決めました。「女装している」と思われないよう、デザインにはこだわっています。

オンワードデジタルラボの入る港区海岸のオンワードベイパークビルディング(画像:(C)Google)

男性が着られるように「ここの襟のデザインがなんとなく女性っぽく感じるから着づらい」「ピタっと肌にフィットしすぎると太ももが張って恥ずかしい」といったポイントをひとつひとつつぶしていきました。一方で男性が着やすいデザインに寄せすぎると、逆に女性は「別にここの服を買わなくてもいいや」となってしまう。「IIQUAL」がすべての男女をカバーしているわけではもちろんありませんが、ある程度の男女なら抵抗なく着られるように、着たときに「女性らしい」「男性らしい」といった性別が見えないように、ミリ単位で修正してせめぎ合いながらデザインをしていきました。

――たしかにジェンダーイコーリティと言っても、女性が男性の服を着ることと男性が女性の服を着ることでは意味が違ってきますよね。

こうしたブランドをやっていると、“女性応援”というメッセージや性的マイノリティーをターゲットにしていると捉えられるかもしれませんが、われわれは「男性を救いたい気持ち」が強くあります。実は、洋服の世界ではドレスコードの厳しさやアイテム数の少なさなど、男性のほうが窮屈な思いをしていることが多いんですよね。洋服がジェンダーフリーになったら多くの男性も開放的にファッションを楽しんでもらえるのではないかと思っています。

かつて業界的には、女性も着られる男性服のことをユニセックスと言っていました。でも単純にジェンダーフリーというならば男女は双方向でなければいけない。そういった思いは強く持っています。

今のジェンダーレスで多様性のある東京を映し出した

――今までのファッションと言うと街や性格、恋愛などとひもづけられ、それが個性にもなっていたと思います。一方で、「IIQUAL」の服はそうした性質や特徴をなるべく取り除いて個性や感情がフラットになっているように思いますが、そのあたりはどうお考えでしょうか。

僕自身は団塊ジュニアなので、洋服はモテや恋愛、街の文化などとかなり深いものだとして育っています。洋服で男らしさやワイルドさ、渋谷系、原宿系といった「その街にいそうなおしゃれな人」という特徴を出すことで、自身の考えや価値観を表していました。しかし、20代から30代前半のチームと「IIQUAL」を作ってわかったのが、今の若い世代と僕らはあまりにも考え方が違いすぎるということ。僕たち世代からすると、「モノトーンでみんな同じに見える」と思うかもしれませんが、彼らの中ではしっかりと違いや個性がある。そして彼らからすると、僕らのような団塊ジュニアやバブル世代のおじさんのほうが没個性的に見えるらしいんです(笑)。

オンワードデジタルラボ取締役の高橋純さん(画像:秋山悠紀)

かつては渋谷系や原宿系といったカテゴライズがありましたが、むしろ今の東京ではどの街のファッションも多様化していてジェンダーレス。IIQUALはそうした今の東京を映し出すことも意識しました。

――別に奇抜で先進的な服ということではなく、リアルな東京の若者が着やすい服ということですね。

実際に洋服の世界も「男性らしさ」や「女性らしさ」というジェンダーバイアスによって成長してきたことは事実です。実際に「IIQUAL」の30代男性メンバーには「男性が着るワンピース」というものに抵抗を持つ人はいますし、僕自身もかみ砕くのに時間がかかりました。ただ僕らはジェンダーバイアス狩りをしたいわけでも「洋服の世界からジェンダー問題を解決するぞ」というわけでもなく、世の中にあふれている洋服ではなんとなくスッキリしない人のための服を提供したい。実際にこれからもオンワードはメンズの服もレディスの服も作っていくので、従来の洋服の中に選択肢が増えるだけという感覚ですね。

また個人的にはファッション業界の「こういう服を着るとおしゃれだぞ」といった上から目線も違和感でした。なので「IIQUAL」では、実際に着てみたユーザーからの反応やニーズをフィードバックするなど、とにかくコミュニケーションを大事にしたいと思っています。

鍵は脱「意識高い系」

――オンワードは4月にはオンラインとオフラインを併合したOMO(オンラインとオフラインの融合)型店舗をオープンし、リペアやリユースといった環境問題にも力を入れていらっしゃいます。そのあたりの狙いはなんでしょうか。

欧米ではすでに、サステナブルな原材料や生産工程を伴っていないと洋服が売れなくなっています。しかし日本ではまだまだ「意識高い系」のイメージがあり、サステナブルがそれこそファッション感覚になっています。

SDGsのイメージ(画像:写真AC)

実は、オーガニックコットンなどサステナブルな素材を使うとコストがかかるので値段が高くなるためになかなか売れない現状があります。そのため、サステナブルではない安価な商品が売れてしまう。だからこそ、オンワードのような老舗が先陣に立って取り組まなければいけないと感じています。サステナブルに取り組むことは短期的なリターンは期待できなくても、長期的に会社として必ず評価される未来がすぐそこまで来ているのですから。

秋山悠紀(ライター)

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