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モノクロームの合わせ鏡、アライア×リンドバーグ展。

  • 2021.6.2
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クチュリエと写真家が芸術的接点を持ち、互いを反映しあう例として50年代はクリスチャン・ディオールとリチャード・アヴェドン、70年代はイヴ・サンローランとヘルムート・ニュートンがあげられる。では、その後は?マレ地区のアズディン・アライア財団で展覧会『アズディン・アライア - ピーター・リンドバーグ』が始まった。80〜90年代はこのふたりである。サブタイトルに“鏡の中”とあるように、アライアのモードとリンドバーグの写真を合わせ鏡のように展示し、両者が対話する見せ方の会場構成だ。といっても、入り口から会場を見渡すと、見えるのは写真だけ。反対に奥から入り口に向かって会場を見ると、クチュール・ピースだけ。この見せ方、なかなかおもしろい。

アライアが生前ショーを開催したガラス屋根の美しい建物が展覧会場。 photo:Mariko Omura

会場には、アライアの「服づくりにおいて、私は女性のことだけを考えます。すべて、女性のおかげです、私のあらゆる成功……」というフレーズ、リンドバーグの「私の写真はどれもポートレートです。レンズの向かいにいる人物との関係を写真におさめるのです。そこには交換があり、それが写真となるのです」というフレーズが掲げられている。リンドバーグがパリにスタジオを設立したのは1978年。アライアは彼の才能を認める周囲からプッシュされ、クチュールメゾンを構えるのが1981年。時をほぼ同じくして、アライアは女性の身体の建築家となり、その美しさを表現した作品を発表し、リンドバーグは魂と個性に光をあてることにより被写体の姿を撮影するのである。1980年代後半から1990年代にかけて、ふたりが数多くのコラボレーションを行うことになったのは自然な流れだったのだ。

モデルのマリー=ソフィー・ウィルソン。展示されている服はほとんどがモノトーンだが、この1986年冬のコレクションのマラブーのコートだけ淡いウグイス色だ。©Peter Lindbergh(courtesy Peter Lindbergh Foudation, Paris)

左:写真ファンもモードファンも楽しめる展覧会だ。右端は2011年のクチュールピース。右:モデルのマリー=ソフィー・ウィルソンの写真と彼女が着た複数のシーズンの服が並ぶ。photo:Mariko Omura

左:映画『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』にも出演したモデル、アリアーヌ・コイズミと1984年秋冬コレクション。右:アライアと父娘のような関係にあったナオミ・キャンベルと、1989年春夏コレクション。photo:Mariko Omura

2階の小さなスペースは、「ティナ・ターナー」。ティナが着たアライアのミニドレス、コートの合計4着と、1989年にリンドバーグが撮影したティナ・ターナーの写真が展示されている。この撮影について、アライアはこう語った。「彼(リンドバーグ)の100%自由に任せて、私はこの仕事を彼としたいと思いました。彼がしたいことをして、彼が撮りたいように撮るというように」

左:1989年冬のコレクションのミニドレスと着たティナ・ターナーとアライア。©Peter Lindbergh(courtesy Peter Lindbergh Foudation, Paris)右:フィルム撮影の時代の貴重な資料も展示。この展覧会はオリヴィエ・サイヤール、そしてピーター・リンドバーグの息子バンジャマン・リンドバーグのディレクションによる。

2階の「ティナ・ターナー」の会場。photo:Mariko Omura

奥のスペースで流されているのは、1987年に制作されたフィルム『Great  Photographers』。約25分と短くはないが、見逃せない。芸術&写真史家マーティン・ハリソンによるピーターへのインタビューに、1986年にノルマンディーの海岸ル・トゥケで行われた撮影風景も交えての構成だ。後者はいまは亡きリンドバーグのストーリー性の高い力強い写真がいかに生まれるのか。その舞台裏を覗ける貴重な映像である。リンドバーグが当時チームを組んでいたメークアップアーティストのステファン・マレ、ヘアアーティストのジュリアン・ディス、そしてお気に入りのモデルたち……。“モード写真を超えて、ストーリーを語る写真”、“ピーターはカメラマンというより映画監督”といった参加モデルたちによる証言も映像に交えられている。

2017年にチュニジア出身のアズディン・アライアが、2019年にドイツ出身のピーター・リンドバーグが他界。パリをベースに活躍したふたりの巨匠がモード界に開けた穴の大きさに改めて思いいたらせる、美とパワーとポエジーにあふれる展覧会だ。

ドーヴィル、ビアリッツといった海岸と並びリンドバーグが好んだノルマンディー地方ル・トゥケの海岸での撮影で、アライアとモデルのリンダ・スピーリングス。1986年。フレームの外、巨大送風機が大活躍している。入場料のレシートにこの写真がプリントされているのが、ちょっとうれしい。©Peter Lindbergh(courtesy Peter Lindbergh Foudation, Paris)

この写真の撮影の瞬間もフィルムで見ることができる。上と同じ撮影より、タチアナ・パティッツとリンダ・スピーリングス。©Peter Lindbergh(courtesy Peter Lindbergh Foudation, Paris)

『Azzedine Alaïa -  Peter Lindbergh』展開催〜11月14日Galerie Alaïa18, rue de la Verrerie75004 Paris開)11時〜19時休)なし料)7ユーロhttps://fondationazzedinealaia.org

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