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G’s BOOK REVIEW 手織り綿布の世界へ旅をする『CALICOのインド手仕事布案内』etc.

  • 2021.5.31
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5月のエンタメをレビュー!GINZA編集部がレコメンドする新刊をご紹介。

『山の人魚と虚ろの王』
山尾悠子

(国書刊行会/¥2,640)

幻の、持ち重りのするほどの存在感を感じながらページをめくる。目の記憶が生み出す幻想譚。《白レースの紐がついた年代ものらしいヴェールに白ワンピースという姿で、旅行鞄に腰かけて登記所で私を待っていた》女と婚姻を届け、駅舎へ、黒牛の群れが流れる平原へ、夜の宮殿へと進む旅。光と闇が横溢するイメージの奔流に身を任せながら、言葉の回廊を彷徨い歩く。謎は読み手の体内に残り続け、いつか奇妙な芽を、いや、眼を出すかもしれない。

『仮面の陰に あるいは女の力』
ルイザ・メイ・オルコット

(大串尚代訳/幻戯書房/¥2,970)

『若草物語』を書いたオルコットは、優しく明るく、公平さを手放さないことの美徳を物語にこめる一方、人を欺く《仮面》と、その奥にあるいくつもの顔を顕にする。作者自身が《血と雷の物語》と呼び、A・M・バーナードという男性的なペンネームで発表されたスリラー小説。家庭教師が英国の名家に入りこんで周囲をかきまわし、男たちの心を手玉にとるさまは痛快で、深謀遠慮から生み出された言葉は研がれ光ってなんとも魅力的だ。

『CALICOのインド手仕事布案内』
小林史恵

(在本彌生写真/小学館/¥2,530)

キャリコとは、17世紀前半から英国などに輸出され、欧州でブームを巻き起こしたインドの手織り綿布。のちに輸入禁止令や使用禁止令が敷かれ、紡績機の発明と産業革命をうながすほどのインパクトを持った《手仕事布》の世界へ旅をする。案内人は手仕事布を愛し、作り、伝える〈CALICO〉の小林史恵。糸を紡ぎ、染め、織り、刺繡を施す布作りがごとく、その歴史や哲学に、職人の生活にも焦点をあてて、在本彌生の写真とともに魅せる。

GINZA2021年5月号掲載

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