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精神科医が分析「女性蔑視的な言動」でトラブルを起こす人の特徴

  • 2021.5.24
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森発言や枕営業騒動を持ち出さずとも、「ホモソーシャル社会」を感じながら仕事をする女性は多いのではないでしょうか。精神科医の井上智介さんは「日本にホモソーシャルの傾向が強い理由は、男性自身の心理的葛藤と明治以来の家父長制にあります」と指摘します――。

日本の通勤風景
※写真はイメージです
「男同士の絆」を高めるための行動

そもそも「ホモソーシャル」とは、恋愛や性的な意味はなく、同性同士の関係性をあらわすものです。とはいえ、女性同士はあまり取り上げられず、ホモソーシャル=男性同士という意味合いが強いように思います。いちばんしっくりくる表現は「男同士の絆」「男同士の友情」「師弟関係」といったところでしょうか。

こうした男同士の関係の大前提としてあるのが「価値観の共有」です。その価値観というのが「男らしさ」であり、その男らしさを守るために、男性は女性という別の性に対してどうしても排他的になってしまう。下ネタやセクハラ発言など、女性をネタにして男性同士のウケを狙うのは、まさにそう。これがホモソーシャル社会の問題点です。特に日本はその傾向が強いことは、森発言でも顕著になりました。

無力なのに強く生きることを求められる

なぜ日本はホモソーシャルの傾向が強いのでしょうか。その原因は、男性自身の心理的葛藤と明治以来の家父長制にあります。

もともと男性が生まれて初めて会う女性は「母親」です。赤ちゃんのときに、母親がいないと生死をさまようほど、男性にとって母親は超重要人物。それだけ母親というのは偉大で完璧な女性というところからスタートします。

しかし母親は全知全能であるがゆえに、自分の無力さを感じさせる存在でもあります。相手が助けてくれるのは、自分ができないから。一方で、この世の中には「男性とはこうあるべき」という姿がある程度、明示されていますので、男性は「強く生きなきゃいけない」「傷つくことは恥」といった考え方を身につけて育ちます。

自分は無力なのに、強く生きることを求められる……、すごく矛盾していますよね。だから男性は心の奥底で、常に葛藤を抱えることになります。そこに明治時代の「家父長制」が関わり、その葛藤はますます強まっていきます。

家父長制的な価値観が外に出ることで問題化する

家父長制とは、家長である男性が、家の秩序を守るために権力を独占するもの。家父長制においては、男性は「女性から何かしら奉仕を受ける権利がある」という不文律があります。それが現代社会にも根強く残っています。

その不文律が家の中でおさまっているならまだしも、外に出てきてしまうと、社会的通念として問題になってきます。なじみすぎて一瞬わからないこともありますが、今の社会にも、ふつうに家父長制的な秩序はあります。

たとえば、小学校のときに学級委員長は男子から選ぶけれど、副学級委員は女子から選ぶというもの。

会社ではお茶くみや、ロッカーや冷蔵庫の掃除は女性がすることが多い、外食したらサラダを取り分けるのは女性……など、そういう決まりが明確にあるわけではないけれど、ふわっと習慣化されていることがあります。

こうした家父長制の考えによって、女性をコントロールすることで男性は自分の中にある葛藤を消すことができます。絶対的に強い存在の母親に勝てないという満たされない部分を、弱い女性を支配することで満たされるわけですね。そこで強さを手に入れることができるのです。

「女性を支配することで葛藤を解消できる」、これが冒頭でお伝えした男性同士が共有する価値観なのです。女性を話題にしてウケを狙うのも、標的を定めていじめれば、男性同士の絆をより強めることができるからです。

居心地の良い職場から見る日没
※写真はイメージです
葛藤をコントロールできない男性が問題を起こす

こうした男性の葛藤というのは、本来完全に解消できるものではなく、葛藤を抱えながら自分らしく生きる、協調性を学ぶ、というのが健全なあり方です。実際、大半の男性が理性で葛藤をコントロールしていますが、コントロールの仕方がわからない一部の男性が、それを女性で解消しようとして、トラブルを起こしているのです。

葛藤をコントロールできない男性は、今までの成長過程に芽があることが多いですね。いちばんいやなケースは、父親が母親に対して支配的なパターン。そういう家庭で育った男性は女性に対して、同じようにしてもいいと思ってしまいます。

また学校教育にも問題があります。女性蔑視の行動をとったり、性的な話をしたりしても、先生がへらへら笑って注意もしない、お笑いの要素のように終わってしまうという環境だと、そこにいる男性たちは倫理観が成長しないまま大人になってしまうのです。

女性は「NO」と言う権利がある

では女性は、こうした男性やそれを許している社会に対して、どういった態度で臨めばよいでしょうか。それは、もう「NO」を突きつけることに尽きます。

今の社会で女性が不利な立場になっているのは、社会のルールをつくったのが男性だからです。ですから、お茶くみや掃除など、女性がやって当たり前と思われている雑用をおしつけられたら、基本的に「NO」と、はっきり言っていい。言う権利があるということです。

社内で一人だけ声をあげるのが不安なら、多くの女性に声をかけて「女性だからやるのはおかしい」というのを共同の意見として伝え、一つひとつ社内の風潮を変えていくことが大切ですし、それがいちばん正しい対処法だと思います。

上の世代の男性には「今の時代は、差別はない」と言う人もいますが、差別の対象となったことがない人は差別の存在に気づかないのです。差別がなくなったと言い切れるのは、それを経験してきた人たちだけです。こうした男性の意見に押し切られないようにしていきたいですね。

そして女性をネタに男性たちが盛り上がっていても、そこに反応しないこと。笑うこともしないし、主張もしない。反応があるからこそやりたくなるという心理が働くからです。取り合わないのが、いちばんです。

男性は教わるのではなく自ら学ぶべき

ただ、わからない男性には、いくら言ってもわかりません。

女性が女性差別を知っているのは、勉強したからではなく経験したからですよね。自分で経験したから知っている。男性は経験していないからこそ、自ら理解するために学ぶべきだと思うんです。女性から教わるのではなく、自分から勉強するべき、僕はそう思います。

それでも一昔前に比べると、だいぶましになったと思います。若い世代は、女性だけでなく、LQBTQに対する理解度も高い。学校教育においても、性の平等性は意識されていますから、今の子どもたちは、そういった平等感覚が育つのではないかなと期待しています。

構成=池田純子

井上 智介(いのうえ・ともすけ)
産業医・精神科医
島根大学医学部を卒業後、様々な病院で内科・外科・救急科・皮膚科など、多岐の分野にわたるプライマリケアを学び、2年間の臨床研修を修了。その後は、産業医・精神科医・健診医の3つの役割を中心に活動している。産業医として毎月約30社を訪問。精神科医・健診医としての経験も活かし、健康障害や労災を未然に防ぐべく活動している。また、精神科医として大阪府内のクリニックにも勤務

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