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俺の懺悔を聴いてくれ【彼氏の顔が覚えられません 第33話】

  • 2015.6.25
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人は恋をするとき、相手のどこにホレるのだろう。顔が7割、心はたった3割だなんて話も聞くが、もし相手の顔がまったくわからなかったらどうなるのか。

そんな相手に好かれたとしたら、それほど誇らしいことはないと思っていた。純粋に、心だけを見て判断してくれているのだから。だけど今は、いろいろ悩みを抱えてしまっている。

俺の恋人、イズミはまさに人の顔を覚えられない。失顔症という、ブラッドピットなんかと同じ病を抱えているそうだ。

***

せまいライヴハウスの中、再び俺は客としてきてくれた彼女、イズミと対面することができた。

うさぎを脱ぎ捨てたタイミングは、少々早すぎたかもしれない。ガマンの限界だった。すぐにでも彼女に俺の姿を見せたかった。

だが俺が顔を出した瞬間、彼女は後ろを向いて逃げるような姿勢を取った。周りの客に阻まれ、実際にはどうすることもできなかったが、俺を前にしてイヤがっているのは明らかだった。

「一回、イズミに全力で嫌われてみたらいいのに」

半年前シノザキにそうそそのかされてから、今までいろんなことがあった。テキトーだと言われても、それこそが俺の生き方だと思っていたのに。そのテキトーさ加減にここまで絶望してきたことは人生で初めてだ。

けれどすべての失敗は、きょうこの日のためにあるのだと思う。これから彼女の心を取り戻してみせる。いま渾身のラブソングを彼女に捧げ、そして――。

記憶は、1月3日までさかのぼる。

「なんで嫌われなきゃならないんだ」

前日に連絡先を交換したばかりの女と、サイゼリアにふたりきりでいる。

「だってさ、付き合ってるっていいながら、きのう見ててスゴイよそよそしい感じだったもん、ふたり」

「んなわけないだろ。相思相愛だよ」

「うっそ。まだエッチすらしたことないクセに」

あわや、口に含んだメロンソーダを吹き出しそうになる。まだ昼下がりなのになんて話を持ち出すんだ。

「これからっ、これからだよ…いま、タイミング見計らってるのっ」

「いや、もうないよ。ないない。だってクリスマスもお泊まりナシだったんでしょ。ゼッタイそれって、飽きられてんだと思う」

「ちょ…キッパリ言ってくれるな…」

はぁ、と一息ついて、メロンソーダを飲み干す。目の前の女、シノザキは、モツァレラチーズとトマトのサラダをうまそうに食べている。サラダっていうわりには、単にチーズとトマトを並べてオリーブオイルぶっかけただけじゃないかと思った。女はなぜこういうのが好きなのか。

「だいたい、きのうシノザキと会わなきゃ、俺がイズミの家に泊まる予定だったんだよ」

「そんなこと、イズミと約束してたの?」

「してない」

「じゃあ、やっぱりダメじゃん」

くっ…こうしてズケズケとものを言われたら、どうもすべて正論のように聞こえてくる。

一旦席をたち、ドリンクバーへと向かう。カプチーノでも飲もうかと、カップをセットしてボタンを押す。しゅごごごごっ…と機械からすごい音がし、突然もくもくと出てくる白い煙。故障か?

「あ、すみません、ミルク切れちゃってますね! 少々お待ちください!」

気づいた店員が声をかけてくれ、厨房まで引っ込んでいった。いや、待つくらいなら別の飲むけど…。

しかし冷たいドリンクコーナーも、ガキどもに占拠されている。行儀の悪いことに、いろんなドリンクを混ぜて遊んいる。…自分も昔やったが、周りの迷惑ぐらい考えるべきだったと今さら反省。結局、水だけ注いで戻る。

飲みたいものも飲めないドリンクバー…なんだか調子狂うな。これもシノザキのせいかと思ってしまうくらい。そんなこと、あるはずないが。

(つづく)

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(平原 学)

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