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女芸人にとって 「容姿いじり」のこの先は? 「3時のヒロイン」福田発言を端緒に考える

  • 2021.5.16
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容姿いじりがウケないからやらない

関西ローカルで放送されている、芸人の瞬発力を競う番組「千原ジュニアの座王」(カンテレ)。先日の全国放送で、こんな大喜利のお題がありました。「とうとうハゲがコンプライアンスの問題で使えなくなりました。どう言い換える?」
これ、現実になっても全然おかしくありません。

4月には、「3時のヒロイン」福田麻貴さんが「この数週間で容姿ネタに関してじっくり考える機会が何度かあって、私達は容姿に言及するネタを捨てることにしました!」とTwitterに投稿し、大きな反響を呼びました。それを受けて、男性芸人による「容姿ネタができなくなったら自分たちはどうすれば……」とうろたえる内容の投稿などもいくつか見かけました。

福田さんはその後「ワイドナショー」(フジテレビ)で「(容姿ネタが)ウケなくなっているのを感じていた」「これで誰かが傷ついたりするかも、と心配しながらネタを披露するってなんやねん、と思って」と説明。 「ウケないからやらない」というのは、お笑いとして実にシンプルで明快な理由です。

個人的な思いを言えば、容姿ネタが披露されたときに自分のことを言われているようで傷つくということはないですが、「これは誰かに何か言われる可能性があるかもな」という思いがよぎって、素直に笑うのを邪魔してしまうことがあります。
「容姿ネタ」はこのまま、どんどんなくなったほうがいいのでしょうか。

制限が生み出すメタな笑い

この話題から遡ること約半年前の昨年9月、ガンバレルーヤよしこをリーダーとして放送された「アメトーーク!」(テレビ朝日)の「若手女芸人2020」。「ガンバレルーヤ」「ぼる塾」「3時のヒロイン」「納言」薄幸、「ラランド」サーヤの5組10名が登場したこの回も、放送後に話題となりました。

若手女芸人の分類として登場したチャートの軸が「リアクション/トーク・ネタ」「見た目インパクト/キレイ系」となっていたのです。それをサーヤさんが「表がもう古い」と指摘し、「ただ『見た目インパクト』という言葉はもう少し前なら『ブサイク』となっていたはず」と一定の評価を与えていました(この放送でサーヤさんは「新しい笑い代表」「それを上から教授する」というスタンスにいます)。一方、「ガンバレルーヤ」は「古い笑いをやってる最後の女芸人」を自称し、「顔一本でここまでやってきたから(今の風潮を)どうしたらいいか」と悩む立場。

福田さんはここでのやりとりで「顔面で最下位」といういじりもあり、この時点ではがっつり容姿に関する笑いをやっていた形になります。けれども、番組途中でサーヤさんの主張に感化されている、というポジションでした。

このなかでもっとも芸歴が若く、勢いもある存在が「ぼる塾」。彼女たちは「最近は『ブス』と言われたときの返しより『かわいい』の返しを考えなくちゃいけなくなってる」と話しました。その結果生まれたのが田辺さんの「まぁねー」だったとも。

この放送で「新しいサーヤ vs 古いガンバレルーヤ」という構図が生まれたのは、もともと制作陣の意図にあったのだろうと思います。結果、「ガンバレルーヤがなりふり構わず“古い笑い”をやるが、サーヤに諭されて本当に自分がやりたいことだったか自省する」というメタな笑いが生まれました。

時代に即した新しい笑いが生まれる可能性

以前、『B あなたのおかげで今の私があります』(KADOKAWA)という著書を上梓されたタイミングで、「尼神インター」の誠子さんにインタビューをしたことがあります。

タイトルの「B」はブスのこと。誠子さんは人生で幾度となく投げかけられてきたという「ブス」の言葉に向き合い、ネタにも取り入れてきた漫才師です。彼女は「容姿いじり」についてこう語ってくれました。

「1、2年くらい前かなあ。確実に時代が変わったなと感じた瞬間がありました。「ブスいじりは本人がよくても、それを見て傷つく人がいる」っていう意見が出てきた。ただ、それに対して「困るなあ」とか「ブスいじり、ええやんか」という気持ちは全くありません。私たちは芸人である以上、人を笑顔にするのがいちばんの目標なので、少しでも不快な思いをすることはやっぱり違うなと。あえてコンビで話はしませんでしたけど、ネタの書き方は確実に変わりました。
私たちがおもしろいと思ってることは他にもっといっぱいあるから、それを出していこかって、今は逆にワクワクしてます。」

そういえば、前述の「アメトーーク!」でも「ぼる塾」のあんりさんは「私たちは楽しんでるところを見てもらうというのでやってる」と主張していました。

容姿いじりに対するやる側/見る側の認識が時代によって変化しているのは確かです。けれども、容姿に「インパクト」があろうがなかろうが、ただ単に問題になりそうなものを避けるというのではなく、お笑いのプロは新しい角度で笑いを生み出すことができるというのを、もう少し信用してもいいのかもしれない。演者にとって、信用される観客でありたいとも思います。同じ時代に生きて、今の空気をつかみとって生み出される笑いを、この先も楽しみにしたいと思っています。

■釣木文恵のプロフィール
ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。

■まつもとりえこのプロフィール
フリーイラストレーター。ドラマ・バラエティなどテレビ番組のイラストレビューの他、和文化に関する記事制作・編集も行う。趣味はお笑いライブに行くこと(年間100本ほど)。金沢市出身、東京在住。

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