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早期退職・経済的自立を目指す「FIRE」―“バラ色”とは限らない、意外な注意点

  • 2021.5.14
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近年、アメリカのミレニアル世代(20〜30代)を中心に広がりを見せている「FIRE」。背景にはこの世代が持つ「モノよりコト」の価値観があると考えられる。

ミレニアム世代はITバブル崩壊や世界金融危機を経験し、就職難や家計所得の減少といった影響を大きく受けた世代だ。スマートフォンの登場やTwitter、FacebookといったSNSの流行など、インターネットの隆盛期に育ったことから「デジタルネイティブ」とも呼ばれている。

インターネットを通じて世界とつながることが当然であり、働き方や生き方に画一的なイメージがない。さらに親世代よりも企業への信頼感が薄く、大企業への所属や資産の保有よりも、経験やその共有に価値を見出す。そんな彼らだからこそ、FIREの考えが浸透しやすかったのだろう。では、そもそもFIREとはどういった考え方なのだろうか。

そもそもFIREの定義とは? 従来のアーリーリタイアとの違いは?

「FIRE」は、「Financial Independence(経済的自立)」「 Retire Early(早期退職)」の頭文字をとった言葉だ。具体的には労働収入で生活していくのではなく、株式の配当や不動産の家賃収入など、不労所得の範囲内での生活を目指している。

一般的なアーリーリタイアとは、定年を待たずに会社員を辞めること。従来は老後を悠々自適に暮らせるだけの退職金をもらったり、親の資産を相続したりと経済的余裕を持つ人の特権のように考えられてきた。

これに対し、FIREには「比較的少ない資産で達成できる」「リタイア後も倹約生活を続ける」といった2つの特徴がある。

FIRE後は資産運用の収益を基本に生活していくことになる。そのため、十分な収益を見込める元手さえ用意できればよく、リタイア後に想定される生活費の全額をあらかじめ貯蓄しておく必要はない。従来考えられてきたアーリーリタイアのように、多額の退職金や相続資産がなくても達成できるのだ。

一方で、少ない資産でFIREを達成するには、FIRE後も計画的な支出が求めらる。家賃や食費などを削り、生活費をかけないことが重要だ。FIRE達成者には、自国より物価の安い国で生活することで日々の出費を抑えている人もいる。贅沢な暮らしを送るわけではないのもFIREの特徴だ。

FIRE実現に必要な資金はトータルで「年間支出の30倍」

では、FIRE実現には、どのくらいの資金があればいいだろうか。

まず資金についてだが、「年間支出の25倍」を必要とするのが定説だ。これは「4%ルール」に基づいている。

前述の通り、FIREでは、用意した資金を投資元本として運用していくことが前提となる。仮にアメリカの株式市場成長率が7%、インフレ率が3%であれば、理論上の運用益は4%。4%ルールはこの運用益内に年間支出を抑えれば、資産が目減りすることなく生活できるという理論だ。

年間支出が総資産の4%ということから逆算すると、
必要な投資元本(100%) ÷ 1年間の支出(4%) = 25
となり、必要な投資元本は年間支出の25倍という数値になるわけだ。

また、書籍『FIRE 最強の早期リタイア術――最速でお金から自由になれる究極メソッド』(クリスティー・シェン 、ブライス・リャン 著)で提唱されているのが、「現金クッション」という考え方。これは運用資産とは別に5年分の生活費を市場の暴落に備えて預貯金しておくというもの。1930年代に発生した世界恐慌では、株式市場が立ち直るのに5年かかったことから、5年分のバッファを持たせておけば一安心という考えだ。

4%ルールから導かれた「年間支出の25倍」に加え「有事の際の預貯金5年分」、つまり「年間支出の30倍」があれば、FIREを達成できると考えていいだろう。

FIRE実現に向けたファイナンシャルプラン

では、そうした資金はどうやって作るのか。FIRE達成に必要なのは「1.支出を減らす、2.収入を増やす、3.資金を投資に回す」の3ステップだ。

まずは支出の見直しから。家賃や光熱費、食費などが節約ポイントになるだろう。より家賃の安い物件に住んだり、格安スマートフォンへ乗り換えたりして固定費を減らしていきたい。

年間支出が減れば、FIRE達成に必要な目標金額も変わってくる。前述した通り、目標金額は「年間支出の25倍」。そもそもの年間支出が少なければ、FIRE達成に必要な資金も少なくなるのだ。

次に収入を増やすこと。主な手段としては転職や副業などのキャリアアップが考えられる。資格や専門的なスキルがあると収入アップに繋がる可能性が高まるので取得を目指すのもいいだろう。ただし、未経験職種への転職は給与が下がる場合もあるので注意。現職での昇進が給与を増やす近道となる場合もある。

最後に投資。FIREの第一人者であるグラント・サバティエ氏は『FIRE 最速で経済的自立を実現する方法』で、戦略的な投資に必要な5つのコンセプトを挙げている。

・リスクを最小限に抑える
・リターンを最大化する
・手数料を最小限に抑える
・掛け金に対する税金を最小限に抑える
・お金を引き出す際の税金を最小限に抑える

この考え方は、「リスクを最小限に抑える」「リターンを最大化する」の2つに大別して考えるとシンプルだ。リスクを最小限に抑えるということは、株式・債券・不動産など異なる資産クラスに分散を効かせ、長期的に安定した投資をすること。

リターンを最大化するということは、「各種手数料や税金を必要以上に支払わないこと」「手数料の少ないインデックスファンドへの投資」「税優遇口座の利用をすること」だ。例えば確定拠出年金など税優遇のある口座を利用すれば、税金を払わずに給与から掛け金を拠出できる。

さらに、投資を一人で始められない場合にはファイナンシャル・アドバイザーに助けてもらうこともできると言及している。手数料や受けられる支援を確認し、必要に応じてアドバイスをもらうのもいいだろう。

FIREを実現したらバラ色…とは限らない! 注意点も把握を

理想の生活を手に入れられるように思えるFIRE。その考えは間違ってはいないが、注意したい点もいくつかある。

まず、会社員ではなくなるということ。当然だが、会社員の間は毎月安定した収入が得ることができる。また、利用できる制度も多い。

例えば、年金制度や健康保険は、勤めている企業が福利厚生として保険料の半額を負担している。リタイア後は、これらを全額自分でまかなう必要があるのだ。他にも、企業型確定拠出年金などは給与から天引きされる形で掛け金を拠出でき、所得税の軽減にもつながる。会社員だからこそ受けられる保障や、負担せずに済む費用があることに注意したい。

企業に所属していないことや社会的生産性を担っていないことで、コミュニティやアイデンティティの喪失も懸念される。会社員時代に存在した繋がりや自分の存在意義は、リタイア後も維持できるとは限らない。

次に、リタイア後の長い年月をどうやって過ごすのか、目的や理由を明確にしておくこと。

平均寿命が80歳を超えていることを考えると、仮に40歳でリタイアした場合、その後の人生も40年。その間、モチベーションを保つ動機が必要だ。「ボランティアなどで社会貢献をしたい」「海外で多様な文化に触れたい」「夢だった小説家を目指したい」など、目的があれば自分のアイデンティティを見失わずに済み、自然と人との繋がりも生まれるだろう。100の経済的自立を目指すのではなく、趣味程度にフリーランスなどで収入を得て、生活に助けとするのも一つの考え方だ。

FIREに向けて一歩踏み出したい人も迷っている人も、まずは自分の生活や人生観を振り返ることで、人生の優先順位や大切にしたい価値観を見つめ直すきっかけになるのではないだろうか。

田中 雅大/編集者

ペロンパワークス・プロダクション代表。編集プロダクション、出版社勤務、『MONOQLO』『日経ビジネスアソシエ』『サイゾー』等の編集記者、Webメディア運用を経て、ペロンパワークス・プロダクション設立。編集記者時代のフィールドは金融とデジタル製品。AFP/2級FP技能士。

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