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狩猟追体験「罠ブラザーズ」で気づきを。「いただきます」の本当の意味

  • 2021.5.10
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何気ない日々の食事の挨拶「いただきます」や「ごちそうさま」。食事の際にこの挨拶をなぜ行うのかと聞かれたら、きちんと説明できる人はあまりいないだろう。これらの言葉を深く理解するきっかけを提供してくれるのが、「罠ブラザーズ」の狩猟追体験サービスだ。彼らが販売しているのは、狩猟に使う「罠」。罠を保有することで狩猟を疑似体験し、得た獲物を食肉として手にすることができる。ローンチからまだ2シーズン目を迎えたばかりの謎多きこのサービスの仕掛け人たちに話を訊いた。

見て、知ることで理解できる、いただきますの意味

モノ自体に価値があった90年代を経て、体験が価値となるコト消費が活性化したテン年代。そしていま、その時やその場でしか味わえない体験を楽しむことを軸とした「トキ消費」という消費の新潮流が生まれている。この文脈でいうなら、罠ブラザーズのサービスは、まさにこの「トキ消費」だといえるだろう。罠の購入者は、限定のコミュニティグループに招待され、自分が購入した罠を仕掛ける様子や、狩猟の一部始終を写真や動画で届けてもらえる。最終的には、動画や写真で“追体験した”獲物のジビエ肉がリアルに自宅に届く。狩猟という一連のプロセスに参加し、裏側やそのストーリーを体験することができる。

長野県から、山学ギルドの猟師兼デザイナーの川端俊弘さん、料理人のボブさん、猟師の手島あきおさん。Harumari Inc.

プロジェクトの発起人は、「山学ギルド」の屋号を構える猟師兼デザイナーの川端俊弘さん。3.11を機に長野に移住し、狩猟を始めたのがきっかけで、そこに猟師の手島あきおさんとジビエの料理人であるボブさんが加わり、罠ブラザーズの活動がスタートしたという。

「長野県も他の都道府県同様に、野生動物による生活環境や農林水産業、そして生態系にかかわる被害が深刻化していて、そのなかに鹿も有害鳥獣として含まれています。駆除された鹿はそのまま捨てられることが多いのですが、せっかくの命を何かにいかせればいいのにと考えたのが、罠ブラザーズのスタート。そもそも鹿肉ってすごくおいしいんです。単純にこのおいしさをみんなにも共有したいという思いもありました」(川端さん)

(右から順に)東京チームから小川さん、はしさん、キルタさん。Harumari Inc.

3人の山学ギルドによって始まった罠ブラザーズの活動。そこに知人の紹介で東京から合流することになったのが、小川 大暉さん、キルタさん、はしかよこさんの3人だ。最初は、罠を購入しユーザーとして参加した彼らは、この狩猟の体験のサービスに惚れ込み、もっといろんな人に体験してほしいということから好きが高じて、自分たちの得意なWEBを使って広報的なお手伝いを開始。東京で生活する彼らから見て、一体何に心を動かされたのか。

「罠を購入すると、自分の罠がどういう状況かが日々更新されるので毎日見ます。衝撃を受けたのは、リアルに鹿が罠にかかっているところでした。当たり前のことなんですが、普段食べているお肉もこういうプロセスを踏んで店頭に並んでいることをあまり考えていなかったんです。そしてこれだと、一方的にいただいているのでギブアンドテイクの関係が成り立たないことに気づきました。自然の連鎖のなかで、人間は鹿からテイクするけどギブができないということを目の当たりにして、せめて『頂きます』と精一杯の感謝の気持ちを伝えて命をもらうのが『いただきます』の意味だったんだと」(小川さん)

罠ブラザーズ2021年冬の様子。写真:藤原慶Harumari Inc.

小川さんがいうように、罠ブラザーズから届く日々のレポートでは、鹿が罠にかかるところや気絶させて殺すところまで、リアルを見せてくれるのが疑似体験のポイントとなる(どこまで見るかは希望者によります)。これにはどういう意図があるのか。

「個人的には、特に命の授業をするつもりはないんです。事切れる動物の姿を見て、何を思うかはその人によると思うんですよね。それを見て、気持ち悪いとか、これが肉になるんだなと受け止めてくれるか、いろいろな考え方があっていいと思うんです。ただ、そのプロセスを隠してしまうと、それを考える機会すら失われるのが嫌だなと思いなるべく見せるようにしています」(川端さん)

メンバーが絶賛する料理人ボブさんの鹿肉料理。写真:藤原慶Harumari Inc.

罠ブラザーズの仕組みが命の循環を生んでいる

もうひとつの大きな特徴は、この循環の仕組みがサスティナブルやエシカルな文脈にも通ずるということだ。罠の対象となるのは、長野の駆除の対象となっている鹿である。あくまで駆除が目的であり、食べるために無理に獲っているわけではないので、食べるのに罪悪感もない。自然のバランスを保っていく輪の中で、余ったものを使っていくというスタンスが、罠ブラザーズが社会的にも意味のあるサービスだということを思わせる。

「商品やサービスを売るために新しいものを生産していたら意味が違ってきますが、罠ブラザーズがやっているのは捨てるのがもったいないからそれを体験にして提供するという仕組み作りです」(キルタさん)

長野県で生まれた新たなサークルオブライフの仕組み。この誰もが喜ぶ循環を、川端さんはどのように広げていきたいか訊くと、彼らの生き方にも通ずるカジュアルな意見が返ってきた。

「罠ブラザーズの目指すゴールは特に設定していないのですが、これを続けていくことがひとつのゴールだと思っています。第一に、僕は山学ギルドのボブさんと手島さんと楽しく狩猟をやりたいので、それを長く続けていければいい。そこから受け取ってもらうものが、お肉でも体験でも、命の尊さでもなんであってもいいと思います」(川端さん)

最初は興味本位でもいい。しかし、罠ブラザーズに参加して、普段見ることのない狩猟のプロセスを知り、自分が食べる肉の生きている姿を見ることで、毎日の食事に対する意識が変わるはずだ。食事の前の「いただきます」「ごちそうさま」という挨拶が、より重みのある言葉になるかもしれない。おまけにおいしい鹿肉までついてくるとしたら、トライしないのはもったいない。

撮影:服部希代野

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