1. トップ
  2. 恋愛
  3. 問題視されるマシュマロテスト「わが子にやり抜く力を」と幼児教育に励む親の大誤解

問題視されるマシュマロテスト「わが子にやり抜く力を」と幼児教育に励む親の大誤解

  • 2021.5.10
  • 422 views

やり抜く力に代表される「非認知能力」は、将来の成功に影響するとされ幼児期からの育成が注目されてきました。しかし、脳科学が専門の細田千尋さんは、そこには誤解があると指摘。「非認知能力は思春期、青年期以降も伸びていく能力であり、その発達には家庭での親の養育態度が大きく影響する」と話します――。

ハサミでクラフトを作る女の子
※写真はイメージです
非認知能力に“三歳児神話”が出現

最近よく、「子どもの非認知能力を育てるにはどうしたらいいのでしょう?」という質問を受けます。「3歳までが重要と、研究で示されていると聞きました、本当でしょうか?」ということまで聞かれて、3歳児神話が新たなかたちで生まれていることに愕然とします。また、幼稚園やお教室などの先生が、非認知能力を育む必要性を力説されているのを耳にすると、一般的にはまだ誤解の多いことを痛感します。

そこで今回、「非認知能力」における誤解と、「非認知能力」を伸ばすのに重要な要因についてご紹介していきます。

「非認知能力」の説明で対比として多く用いられているのが、認知能力という言葉です。これらの説明では、「認知能力は学力のように数字で表せるものを指し、忍耐や社会情動知能(コミュニケーション力など)が非認知能力。この非認知能力を子どものうちに育てることこそ、将来の成功につながる」といった程度のものが大半を占めており、多く人の認識もこのようなものでしょう。

認知機能と非認知能力のバランスが重要

ここで起こっている大きな勘違いの一つが、認知能力をとても狭義にしか考えていないことです。例えば、子どもがお友達と仲良くお喋りができるようになる(相手に対して適切なコミュニケーションを取れる)ことも、認知能力の発達の一部です。お友達の表情を認知し、相手の気持ちを考える視点に立ち、自分の行動や発言を決める、というプロセスは、認知的な機能の繰り返しによって行われるものです。つまり、コミュニケーションを上手にとる(社会情動知能の発達)、という一見非認知能力とカテゴリされがちなものも、認知能力の発達が必要なものであり、認知能力と非認知能力は両方のバランスが必要なのです。

こういった背景もあり、昨今学術的には、「非認知能力」という誤解を与える言葉の使い方自体を疑問視する声が多数上がっています。

最近の研究では「マシュマロテスト」も疑問視されている

「やりぬく力」に代表されるような非認知能力をまず伸ばしましょう、という謳い文句がそこらじゅうで見られるようになった背景には、ノーベル経済学賞を受賞したヘックマンの研究があります。彼は、“社会で成功して経済格差をなくすためにも、テスト(認知機能)では測れない、意欲や長期計画を実行する自己制御力、他人と協働するのに必要な社会的・感情的制御という「非認知能力」を伸ばす教育が重要で、幼児教育(未就学児)に投資すれば、効率的に社会的格差が解消される”ということを主張しました。

この研究は、経済格差が大きい地域での、低所得者に対する効果を示すものでしかありません。近年、この研究の再現ができないことも示されています。また、ヘックマン以前には、マシュマロテストとして、幼児が目の前のマシュマロを我慢して食べずにいられるかどうかが、将来の学力や成功を予測するという研究が有名でしたが、こちらもその妥当性が問題視されています。

マシュマロ
※写真はイメージです

つまり、“未就学児(~5歳)”の時に、どのくらい辛抱強いのか、あるいは、その時にどのくらい教育がされていたかが、将来の成功を予想できるとするというのが、低所得者層でない多くの一般の人にもあてはまると考える科学的妥当性は、現状ありません。

非認知能力は、むしろ後から伸びるもの

科学的には、むしろ、認知能力の発達よりも非認知能力の発達の方が後から伸びていくことが示されています。

IQが7歳くらいで一定になるというのに対して、自己制御、やり抜く力や社会情動知能などは、特に思春期、青年期以降にも伸びていくものであることがいくつかの研究から示されています。私たちの研究からも、GRITに必要な脳部位である前頭極という場所は、思春期にかけて緩やかに発達していく部位で、成人を過ぎてからも発達することがわかっています。

子どもの自己制御力は、親の養育態度次第

非認知能力として言われているものの中で、様々なことを達成するための基礎であり、向社会的行動(他者への思いやりを持った行動など)・学習能力・リテラシーなどあらゆる場面で必要となってくる重要なものの一つに、自己制御があります。幼児の自己制御機能には、「自分の意思を明確に持ち、これを表現・主張する」という自己主張的側面と、「自分の意志や欲求を抑制・制止しなければならないとき、抑制できる」という抑制的側面とがあります。これらは3歳頃から発達しますが、この形成には、親の養育態度が大きく関わっていることが明らかにされています。

研究上、親の養育態度は大きく三つに分類されて考えられています。統制(子どもの意思とは関係なく親が子どもにとって良いと思う行動を決定し、それを強制する行動)と応答性(子どもの意図・欲求に気付き、愛情のある言語や身体的表現を用いて、子どもの意図をできる限り充足させようとする行動)の2つを軸にした図表1で示す3種類です。

養育態度の分類
出所=Baumrind, D. (1971)より作成
「権威的態度」の養育で自己制御が健全に発達する

権威的態度の親とは、子どもとの温かく、協調的な関わりを持ち、その温かさの下で柔軟に統制を行うことができます。そのため、そのような養育態度のもとで育つ子どもは、自己主張と抑制がともに高い傾向があります。つまり、この3つのタイプの中で最も子どもの自己制御(非認知能力)が健全に発達し、その影響は幼児期から青年期にわたり一貫して起こることが示されています。

権威主義的態度の親は、統制は高いが応答性は低いタイプで、子どもを服従させ、子どもの心理や行動を厳しく統制するような特徴を持ちます。つまり、子どもの様子を察知することなく厳しく統制を取ろうとするあり方です。そのような環境で育つ子どもは、主張性が乏しく攻撃性も低い、親に対して従順な子どもであるということが示されている一方、他者には、攻撃的な反応を示す傾向が強いことがわかっています。

これは、子どもが、家庭で自分の欲求を満たすことができず欲求不満の状態になっているためと考えられています。また、権威主義的態度をとる親は、子どもの様子に応じて対応せず、一方的に統制しようとするため、子どもは、その親子の関係性をお手本として、他者との関係を作る(親が自分にしている態度を他人に取る)時、自分も相手に対して一方的に強い態度をとってしまうためだと考えられています。

幼児教室に通うより大事なこと

許容的態度は、応答性は高い一方で、統制は低いタイプで、子どものどのような行動でも受容するような特徴があり、度を過ぎると過保護や甘やかしというネガティブな側面を持ちます。そのため、このような環境下で育つと、自己制御は低くなることが示されています。一方で、思いやりの特点が高い傾向があることも示されています。おそらく、これも権威主義的態度の親の子どもは、親の態度をお手本として他者に対して、攻撃的になったりするのに対して、いつも優しく受け入れてくれる親の態度がお手本となり、他者への思いやりが上がるのでしょう。

教育熱心になっている時ほど、子どもの意思とは関係なく親が子どもにとって良いと思うことを強制してしまいがちです。場合によっては、子どもの結果にばかりとらわれ、その時その時の子どもの要求に気がついて暖かい対応をすることができていない時も多いでしょう。とくに、幼児などには、“自分の意思はないから、将来のために親が用意してあげなければ”と思い、「非認知能力」を乳幼児期に高めることの重要性を強調するような施設やお稽古に通わせながら、学力(認知能力)も発達させるべく、様々なお教室や塾に通わせてしまいがちです。

そういった経験が必要な部分ももちろんあるでしょう。しかし、楽しみ、困難を乗り越えながら目標(様々な認知能力の獲得など)に向かっていくために必要な自己制御(非認知能力)を伸ばすのは、家庭内での親の養育態度であることを忘れてはいけないのです。

<参考文献>
•Baumrind, D.(1971).Current patterns of parental authority. Developmental Psychology Monograph, 4, 1-103.
•Baumrind, D.(1991).The influence of parenting style on adolescent competence and substance use. Journal of Early Adolescence, 11, 56-95.
•Eisenberg, N., Guthrie, I. K., Fabes, R. A., Reiser, M., Murphy, B. C., Holgren, R., Maszk, P., Losoya, S.(1997).The relations of regulation and emotionality to resiliency and competent social functioning in elementary school children. Child Development, 68, 295-311.
•Gatte-Gagné, C., & Bernier, A.(2011).Prospective relations between maternal autonomy support and child executive functioning: Investigating the mediating role of child language ability. Journal of Experimental Child Psychology , 110, 611-625.
•戸田須恵子(2006).母親の養育態度と幼児の自己制御機能及び社会的行動との関係について. 釧路論集- 北海道教育大学釧路校研究紀要-, 38, 59-69.

細田 千尋(ほそだ・ちひろ)
博士(医学)
帝京大学先端総合研究機構内にて細田研究室を主催。東京大学大学院総合文化研究科研究員兼任。細田研究室では、素質個人差や、やり抜く力などの個人特性を脳特徴量から定量化し、BRAIN x IOT インタラクションによる、新しいオーダーメイド生涯目標達成支援法の開発とその元となる基礎研究を実施。企業等との産学連携研究も多数実施。内閣補正予算により決定され2021年度から開始された、日本の破壊的なイノベーションに繋がる研究成果を生み出すための「創発的研究支援事業」において全国から採択された約250名の研究者のうちの一人。

元記事で読む