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『鬼滅の刃』北米でも記録を塗り替える大ヒット! その要因は“データ”にあり?

  • 2021.5.9
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『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(c)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

4月23日より北米で劇場公開されている『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(英題:Demon Slayer: Kimetsu no Yaiba the Movie: Mugen Train)は、公開2週目にしてボックスオフィスの全米ナンバーワン作品となった。約1600館で公開されたオープニング週末は2100万ドル(約22億円)を計上し、米国における外国語作品の公開週最高の興行収入記録となった。現在までの北米興行収入は3712万ドル(約37億円)で、今後も記録を塗り替えていくだろう。

公開2週目には、3000館以上で上映された『モータルコンバット』を抜いて1位になったわけだが、最も異なる条件は『鬼滅の刃』が劇場でしか上映されていない作品だということ。ワーナー・ブラザースの2021年劇場公開作品は全て系列ストリーミングサービスであるHBO Maxで同日配信されていて、『モータルコンバット』も例外ではない。そして、未だに“アニメ=子ども向け”という概念が根強く残るアメリカにおいて、『鬼滅の刃』はR指定(17歳以下は保護者同伴が必要)で上映されているということ。ちなみに日本では映倫によってPG12 (12歳未満は保護者の助言と指導が必要)に指定されている。もはやアニメは家族向けジャンルの一つではなく、万人向けのエンターテインメントと化していることを、興行収入という紛れもない数字で証明してみせたのが『鬼滅の刃』の全米ナンバーワン奪取なのだ。

そして驚くべきことは、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』は26話からなるシーズン1の続編であって、前知識がなくても楽しめるスタンドアローン作品やスピンオフ作品ではないということ。完全な状態で映画を観るには、アニメに特化したストリーミングのクランチロールや北米配給会社のファニメーションのストリーミングサービス、NetflixやHuluなどで鑑賞前準備が必要だ。そのハードルを下げるために、ファニメーションのストリーミングサイトでは、登場人物やストーリーを短く凝縮したリキャップ映像を配信している。前述したように、アメリカにおいてアニメは長らく子どもや家族連れのためのジャンルと考えられてきたが、そんな思い込みは過去のものとなった。今作が字幕版と吹替版の両方で上映されていることからも明らかだ。アニメ作品は、細かくジャンル分けされた専門的ストリーミングサイトだけでなく、Netflixなどで配信され始めてからアニメファン以外にも視聴層の裾野を広げている。これは韓国ドラマの世界的人気についての記事でも言及したように、世界の魅力的なコンテンツを揃えるストリーミングサービスがもたらした意識改革の一つと言えるだろう。

アルゴリズムによるレコメンデーション機能はジャンルをまたがり、過去の視聴傾向と同じような作品を観ているメンバーの視聴傾向から編み出される。アニメ作品も実写作品もドキュメンタリーも同様にレコメンデーションに現れるのはそのためだ。

北米における『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の公開館数は、ファニメーションとして最大規模で、それに伴い興行成績も最大のものとなっている。通常のアニメ作品の劇場公開ではアニメファンが集結するコミュニティに向けたインサイダー重視のプロモーション展開を行うが、今作ではロサンゼルスのリトルトーキョー駅(全米のアニメファンの聖地でもある)周辺を走るメトロのラッピング電車も登場した。

配給を手がけるファニメーションの劇場公開重要視は、親会社であるソニー・ピクチャーズがストリーミングサービスを持たずに既存サービスとコンテンツ供給契約を結ぶ道を選んだことにも一因がある。昨年1年間の劇場閉鎖を受け、ハリウッドの大手スタジオが自社ストリーミングサービスの立ち上げに血眼になる中、劇場体験を優先するソニー・ピクチャーズとファニメーションの立ち位置は明解だ。ファニメーションのグローバル市場担当副社長のミッチェル・バーガー氏はインタビューで成功の理由をこう分析している。「私たちは映画館での体験、映画館での上映を重視している。また、アニメはコミュニティを中心に成り立つ文化であり、(劇場での視聴体験は)ファンのライフスタイルに欠かせないものだと考えている。上映でもコンベンションでも、アニメファンは実際に集まってお互いに会い、コスプレをするのが好きだ。アニメ映画の上映会には、その場でしか得られないエネルギーがあると思う」。1位を取得した2週目以降は公開館数を300館増やし、1900館以上で公開されている。バーガー氏は、『鬼滅の刃』の大ヒットは「劇場上映モデルと映画館で映画を観る観客がまだ存在し、映画業界が復活することを示している」と述べる。

パンデミックとデータはあらゆる物事を可視化させた。経験値と思い込みでマーケティング戦略を練る時代はすでに過ぎ去り、データが語る事実を元に柔軟に歩を進めた結果が、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の北米大ヒットの要因なのではないだろうか。(平井伊都子)

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