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なかなか出回ることのない絶品貝|怪魚の食卓54

  • 2021.5.8
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その貝はどんな料理にしても絶品だという。グロテスクだったり、生態が摩訶不思議だったりする怪魚たち。日本にいるまだまだ知られていない美味しい怪魚をご紹介します。

なかなか出回ることのない絶品貝|怪魚の食卓54

■筒状の二枚貝「マテガイ」

マテガイは二枚貝だが、アサリやハマグリのようなわかりやすい見た目ではない。殻長が12cmに殻高は1.5cm、ふくらみは1.2cm。表面は茶色な光沢を放ち、まるで高級印鑑入れのようだ。

生態もまた変わっている。内湾の砂底に数十cmから1mほどの巣穴を垂直に開けて生活し、水管を水中に出してプランクトンを補食する。塩分濃度の変化にきわめてデリケートで、この性質がマテガイには命とりとなる。漁に利用されるのだ。マテガイ漁は中潮から大潮の日の干潟が露出する時間になる。クワなどで1cmほどの深さで砂地を掻いていくとマテガイの巣穴が見つかる。この穴に塩を降り注いでちょっと待っていると、マテガイが急激な塩分濃度の変化にびっくり仰天して巣穴から数センチも飛び出してくる。間髪待たずに捕まえ、そっと、かつ、素早く穴から抜き出す。この抜き出すときが腕の見せどころだ。

マテガイはどんな料理にしてもうまい。ただ気を付けたいのはほかの貝類同様にアシが早いことだ。だから生きているものを手に入れたい。殻から出ている水管に触れて反応があれば生きている証拠だ。手に入れたマテガイが砂を含んでいれば砂抜きが必要になる。水に海水と同様の約3%の塩分濃度となるように塩を溶かし入れてマテガイを入れる。静かな薄暗い場所に置いておけば数時間で砂が抜ける。殻ごとの塩ゆでや酒蒸しのほか、酢味噌和え、酢の物、煮もの、佃煮、炊き込みご飯などと料理法は少なくない。バターやオリーブオイルで焼いて刻んだニンニクを散らした洋風でもうまい。「上品な味わいという点では貝類のなかでもマテガイは群を抜いている」と言う貝好きもいるほどだ。

マテガイの上品さをとっくりと味わいたいなら、殻ごとの焼きものに尽きる。愉快な姿形を愛でながら天下一品の味わいを楽しめる。貝類特有の強い風味を好む方にはもの足りないかもしれないし、ご飯のおかずにも不向きかもしれない。でも日本酒の肴としては文句の言いようがない。

マテガイの焼き物
①生きているマテガイを手に入れる。
②生きているうちに網の上にのせて焼く。
③殻が開いたら殻からはがして食べる。好みで塩をふる。

マテガイの焼き物
マテガイの焼き物

――解説

「野村祐三」

日本全国の漁師町を精力的に取材して50年。漁師料理に関する経験と知識は右に出る者なし。『旬のうまい魚を知る本』『豪快にっぽん漁師料理』など地魚の著書多数。


文:小泉しゃこ イラスト:田渕正敏

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