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“意外性にあふれた”監督作、佐藤二朗の原動力は「みんなをあっと驚かせたい」

  • 2021.5.3
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6月4日(金)公開の映画「はるヲうるひと」の原作・脚本・監督を担った佐藤二朗 撮影=大石隼土
6月4日(金)公開の映画「はるヲうるひと」の原作・脚本・監督を担った佐藤二朗 撮影=大石隼土

【写真を見る】佐藤二朗に「何かに憑かれたような芝居を見せてくれました」と言わしめた山田孝之

俳優・佐藤二朗が原作・脚本・監督を担い、主宰する演劇ユニット「ちからわざ」で2009年に初演、2014年に再演された舞台を、山田孝之を主演に迎えて映画化した「はるヲうるひと」。作品の舞台は、至るところに「置屋」が点在する架空の島。ある置屋に暮らす長男の哲雄(佐藤)、次男の得太(山田)、長女のいぶき(仲里依紗)と、置屋で働く4人の個性的な遊女たち。遊女たちを巻き込みながら、三兄妹の求める壮絶な愛の形が描かれていく。

コメディ作品への出演のイメージが強い佐藤だが、本作では愛を求めてもがく男女の壮絶な闘いを描き切るなど、意外性にあふれた内容で観客をくぎ付けにする。「見る人をあっと驚かせたい」と語る彼の原動力がインタビューから明らかになった。

――「ちからわざ」で上演された舞台を映画化した本作。約5年の歳月をかけて映画化までこぎつけたそうが、どのような思いで企画がスタートしたのでしょうか。

僕は、2008年に「memo」という映画を監督して、原作、脚本、出演も担っていたんですが、当時の製作の人が「久々に自分が書いた脚本以外で面白いと思えるものだった」と言ってくれたんです。彼とまたぜひ作品をつくりたいと思っていたところ、彼から「『はるヲうるひと』を映画化してはどうだろう」という提案があって。舞台も好評で、僕にとってもすごく思い入れのある作品だったし、きっと彼も“佐藤二朗が「はるヲうるひと」を映画化する”ということに意外性を感じてくれていたと思うんです。「なるほど、それは面白いぞ」と思い、映画化に乗り出しました。

――愛を求めてもがく男女の痛みと、そこから浮かび上がるささやかな希望が描かれます。

きっと誰もが大なり小なり、生きづらさや負の部分を抱えて生きているものだと思うんです。僕は人が目に見えて成長する姿にはあまりグッとこないんですが、生きづらさを抱えた人がほんの1センチでも、半歩でもいいから踏み出そうとする姿に惹きつけられる。僕が脚本を書くと、どうしてもそういう話になってしまうんです。負の要因がすべて取り払われるなんていうことはないんだけれど、そういう負の部分も含めて自分だと思えたり、少しでも前を向こうとする姿にこそ、ドラマがあると思っています。

6月4日(金)公開の映画「はるヲうるひと」の原作・脚本・監督を担った佐藤二朗 撮影=大石隼土
6月4日(金)公開の映画「はるヲうるひと」の原作・脚本・監督を担った佐藤二朗 撮影=大石隼土

僕の母親の口癖をヒントに書いたセリフ

――そういった物語に、ご自身の体験が反映されていることはありますか?

劇中で得太といぶきの母親のセリフとして、抑圧された環境にいながらも「声出して笑え、試しに笑え、無理でも笑え」と子どもたちに教える言葉があります。これは、僕の母親の口癖をヒントに書いたセリフです。僕の母親は、父親が会社をつぶしてしまったために、貧しくて大変な苦労をしていたんですが、そんな姿を子どもには見せずに「ケ・セラ・セラ、明日は明日の風が吹く」といつも言っていました。学校で嫌なことがあって、俺がウジウジして家に帰って来たときなんかは、「明日は明日の風が吹くから、考え込んじゃいけないよ」とよく言ってくれましたね。母を思い出すと、焼け石に水のような対策かもしれないけれど、無理にでも試しに笑ってみると、少しだけ肩の荷が軽くなるような気もしています。

【写真を見る】佐藤二朗に「何かに憑かれたような芝居を見せてくれました」と言わしめた山田孝之 (C)2020「はるヲうるひと」製作委員会
【写真を見る】佐藤二朗に「何かに憑かれたような芝居を見せてくれました」と言わしめた山田孝之 (C)2020「はるヲうるひと」製作委員会

――主人公の得太役は、山田孝之さんが演じています。監督として、山田さんを撮ってみていかがでしたか?

得太という役は、舞台では僕が演じていました。どうしようもないチンピラを演じたいと思って、自分に向けて当て書きをしたんですが、今回はそのどうしようもないチンピラを演じている孝之を、ぜひ見たいと思いました。孝之が得太を演じてくれたことで、この映画ができたと言ってもいいぐらいなので、彼が引き受けてくれて本当にうれしかったですね。撮ってみて印象深かったのは、得太が首に下げているお守りの中身に触れるクライマックスのシーン。孝之は「得太はそのお守りを何年も開けていないはずだから、自分もそれを開けない」と言って、本番までお守りの中身に触れることなくそのシーンに挑み、何かに憑かれたような芝居を見せてくれました。僕だったら、きっと本番前に中身を確認したくなってしまっていたでしょうね。分かってはいましたが、あらためてすごい俳優だなと思いました。

6月4日(金)公開の映画「はるヲうるひと」の原作・脚本・監督を担った佐藤二朗 撮影=大石隼土
6月4日(金)公開の映画「はるヲうるひと」の原作・脚本・監督を担った佐藤二朗 撮影=大石隼土

佐藤二朗監督&山田孝之主演。その組み合わせでコメディだったら…

――佐藤さんは今回、凶暴凶悪な男に扮(ふん)しています。佐藤さんの見たことのないような表情も堪能できるなど、意外性にあふれた作品です。

プロデューサーが出資を募る際には、「佐藤二朗監督、山田孝之主演。その組み合わせでコメディだったら、お金を出したのに」と言われたこともありました。そう言われるのはビジネスとして当然のことですし、否定するつもりももちろんありません。やっぱり映画でお金集めをするときには、いろいろなデータを求められるんですよね。「恋愛映画ではこのキャスティングでこれだけの興収があった」「動物ものはこれくらいいける」など、そういったデータを出してくれと言われる。でも表現する人間としては、過去にデータがないことにこそ、挑戦してみたいと思うわけです。誰もやってないことに向かうことって、すごく大事なんじゃないかと思う。そんな気持ちで、本作にも挑んでいます。

――新しいことに挑む上で原動力となるのは、どのようなことでしょうか。

「あっと驚かせたい」という気持ちは大きいですね。僕の大好きな先輩俳優の鶴見辰吾さんが、以前、静岡の撮影現場に自転車でいらっしゃったことがあって。あの方、自転車が大好きなんですよ! 静岡までいらしたことに驚いていたら、鶴見さんは「役者は、みんなをあっと驚かせるのが好きなんだよ」とおっしゃっていて。本当にその通りだなと思った。僕も「佐藤二朗、そう来たか!」と思わせるのが好きだし、そういった思いが原動力になっていると思います。

取材・文=成田おり枝

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