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家入レオ「言葉は目に見えないファッション」vol.27 脳の選択

  • 2021.4.30
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クォーター・ライフ・クライシス。それは、人生の4分の1を過ぎた20代後半〜30代前半のころに訪れがちな、幸福の低迷期を表す言葉だ。26歳の家入レオさんもそれを実感し、揺らいでいる。「自分をごまかさないで、正直に生きたい」家入さん自身が今感じる心の内面を丁寧にすくった連載エッセイ。前回は vol.26 考え方の鍛え方

vol.27 脳の選択

エレベーターを降りて長い廊下を早足で歩く。「PULL」と書いてあるドアを勢いよく引きながら、もう片方の手で操作していたスマホ画面に目を落とし、待ち合わせ場所であるカフェバーが二階にあることをもう一度確かめた。

著書やインタビューを拝見する度、いつかお会いしてみたいと願っていた方となんともユニークな展開でお話する機会をいただき、新幹線の時刻までなら大丈夫です、と約束をしたのが数日前。赤レンガ造りの駅舎とドーム屋根が有名な東京駅に併設されたホテル内にあるお店だと知って、少しシックな黒のワンピースを選んだけどやっぱり正解だった。歩くスピードを落とし、呼吸を整え、検温と消毒を済ませる。コートをウェイターの方に渡しながら「待ち合わせで」と伝えると、そのまま中に案内してくれた。

座っているその人をすぐに見つけ、私は一歩ずつ意識しながら左端の席を目指した。あと数歩、というところでテーブルから顔をあげたその人と視線がぶつかる。「はじめまして」と私が挨拶をすると、その人はゆったりと微笑みそれに応えてくれた。席につき、「何を飲まれているんですか?」と尋ねると、「ノンアルコールのカクテル」とメニューを差し出してくれたので、それを受け取り、適度に目を通した後で、その人が飲んでいたノンアルコールカクテルのひとつ下の段にあった柑橘系のものを頼んだ。話し込んでいる間に、この機会を企画してくれた友人も仕事から合流し、内容はどんどん専門的に、そして深くなっていった。

質問をすると分かりやすい言葉で丁寧に説明してくれる。“知識を披露すること”と“人に伝えること”は、こんなにも違いがあるんだと思った。その人は小さい頃周りと馴染めず、自分は脳の作りが人と違うのでは?と思い始めたことがきっかけで、今の道を志したらしい。脳の研究をするべく大学に進学したものの、脳を測定する機械がなく、その機械を作るために工学部に通い、その後、国内で脳を研究するだけでは事足りず、海外に飛んでしまったというエピソード。

道を極めることの果てしなさに言葉を失った。だけど、他の誰でもない自分自身にひたむきな自分の姿を見せ続けると、人の視線や言葉に揺らがなくなるんだろうなぁと思った。幻想と現実の境目に生まれたような、不思議な脱力感を纏った人。

さらに私を驚かせたのが、綺麗にカットされたフルーツとチーズの盛り合わせを食べながら「バックとか靴とかマンションとか。そういう物も素敵だけど、時間が経っても古くならない知識もやっぱり素敵だと思うから、今また大学院に通っているの」と本当に事もなげにおっしゃったこと。私は再び言葉を失い、本当のお洒落ってこういうことなのかもしれない、と思った。“目に見えるもの”と“目に見えないもの”を同時に磨き続けている人。知性は無敵だ。

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