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まるで戦時中の「ぜいたくは敵だ!」! 「婦人公論」90歳絵本作家のインタビューを疑うべき理由

  • 2021.4.27
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まるで戦時中の「ぜいたくは敵だ!」! 「婦人公論」90歳絵本作家のインタビューを疑うべき理由の画像1
「婦人公論」4月27日号(中央公論新社)

発売中の「婦人公論」(中央公論新社)4月27日号。「暮らしも遊びもお金をかけず、楽しく豊かに」と銘打った特集で、「使うお金は抑えめに、気持ちの充実を味わうヒント」を紹介する読み物が中心となっています。

先月にも同誌では、似たような中身の特集「エコだけどケチじゃない『始末のいい』暮らし」(3月9日号)を展開。変化したのは、先月は「エコだけどケチじゃない」にこだわっていたのが、今号では「使うお金は抑えめに」と、はっきり“ケチを推奨”してきた部分でしょうか。コロナ禍が長引くにつれ、誰もが少しずつ余裕をなくしてきたということを示しているようで、怖くなりますが、さっそく中身を見ていきましょう。

<トピックス>
◎門倉多似亜 ささやかな幸せは暮らしのそこかしこに
◎甲斐信枝 90歳の絵本作家、大切なことは草や虫たちが教えてくれた
◎アズマカナコ 冷蔵庫・洗濯機ナシ。家族5人のエコ生活

スタバがなければベランダに出ればいいじゃない?

まずは特集内の、料理研究家・門倉多似亜さんインタビュー「ささやかな幸せは暮らしのそこかしこに」。昨年8月、東京から夫の実家がある鹿児島県鹿屋市に移住。その日々をつづったエッセイ集『心地よく、ていねいに、ゆとりを楽しむこれからの暮らし方』(扶桑社)を3月に発売したそうで、今回のインタビューでは、「今いる場所でいかに快適に暮らすか」をテーマに語っています。

鹿児島に転居する際、新居は前回の家とはスペースや間取りが違うと気付いた門倉さん。「そこで、家具はすべてサイズを測り(中略)配置を具体的にイメージし、どうしても入らないものはあきらめました」とのこと。なるほど。それは、引っ越しする人のほとんどがやる作業。しかし、そこを当たり前と思わず、“こんなクリエイティブな作業は自分しかやっていないわ”というスペシャルな気持ちで取り組むことが、「ささやかな幸せ」につながるのかもしれません。

また、都内在住時にはカフェでの一人時間が好きだったそうですが、転居先には「スターバックスもドトールもありません(笑)」。代わりに家のベランダに鳥がよく飛んでくるそうで、その光景を1時間以上眺めたりしているとか。写真を見る限り、ベランダは広く、日当たりも良さそう。椅子はタイの雑貨店で購入したもので、そこらのスタバやドトールよりずっと快適そうに見えます。

特集タイトルにある「使うお金は抑えめに」よりも、どちらかといえば「パンがなければケーキを食べればいいじゃない?」的精神が漂う、ゆとりを感じるインタビューでした。

金銭は人を卑しくする……との戦時中的マインド

続いて気になったのも、特集内のインタビュー。絵本作家・甲斐信枝さんの「90歳の絵本作家、大切なことは草や虫たちが教えてくれた」です。

1930年生まれの甲斐さんは、身近な草花や虫を描く現役の絵本作家で、「戦前の日本人には伝統的な美意識がありました」「両親は子どもの前でお金の話なんてひと言も言わなかった」「極端にいえば、金銭というものは人を卑しくさせる(中略)でも今はお金の価値観も美意識も変わってしまった」と嘆いておられます。

お金を増やすために「(現代人は)心を売っている」、「人間の心を喰うことによってお金が太る」とまで言っているんです。1940年頃から掲げられた戦時中の「ぜいたくは敵だ!」精神が、沁み込んでいるように思います。

ここで思い出したのが、昨年の「VERY」(光文社)10月号での作家・大塚英志氏の言葉。「VERY」の企画「アフターコロナの世界をひらく言葉」内で大塚氏は、戦時下の女性たちは「『日々の暮らしを工夫しながら楽しむ』ことを、ある種のエンターテインメント的に与えられ」、「知らず知らずのうちに戦時体制に巻き込まれ」たと指摘し、コロナ禍で再び注目を浴びている「ていねいな暮らし」的な物への不信感をつづっていました。

年長者の知恵には学ぶべき有難いものが多いのは事実とはいえ、その知恵の背景を、念のため疑うこともしてみたいところです。

5人暮らしの光熱費&水道代が月8,000円のワケ

戦時中とまでいかなくても、昭和にまで遡った生活様式を送る人物を紹介するインタビューもありました。それが、省エネ生活研究家で著書『昭和がお手本 衣食住』(けやき出版)などで知られるアズマカナコさんのインタビュー「冷蔵庫・洗濯機ナシ。家族5人のエコ生活」。

夫婦、子ども3人の5人で東京郊外の築80年の家に暮らすアズマさん一家の電気・ガス・水道代は、合わせて月7,000〜8,000円と激安。その理由は、大学で環境問題を学んだことをきっかけに、できるだけ家電に頼らない生活を心がけ始め、現在は冷蔵庫、洗濯機、エアコン、ストーブ、掃除機を持っていないからだそう。

今、楽しんでいるのは「自家製の化粧品を作ること」で、卵殻膜やドクダミなどを焼酎につけた「化粧水原液」や、飼育しているミツバチの巣から蜜蝋をとって作る「保湿クリーム」などの写真も掲載されています。肌の基礎力が強くなりそうですね。

アズマさんは「節約や貯金が目的だと誤解されることがありますが、そうではない」とのこと。「ぜいたくは敵だ!」精神からではなく、環境問題や手作りといった自分の興味に焦点を当てた暮らしであれば、楽しいのかもしれない……と納得させられました。

「婦人公論」が定期的に紹介する「ていねいな暮らし」系のトピック。今後もコロナ禍でどう進化していくのか見届けたいと思います。

島本有紀子(しまもと・ゆきこ)
女性ファッション誌ウォッチャー。ファッションページから読み物ページまでチェックし、その女性誌の特性や読者像を想像するのが趣味。現在は、サイゾーウーマンで「ar」(主婦と生活社)と「Domani」(小学館)レビューを担当中。

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