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〈ウォルフォード〉が実践する“めぐるものづくり”。「クレイドル・トゥ・クレイドル™️」ってなに?

  • 2021.4.25
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廃棄物を生み出さないデザイン(設計)をし、製品と原料を使い続け、自然システムを再生する注目の概念“クレイドル・トゥ・クレイドル™️”。タイツやランジェリーを展開する〈ウォルフォード〉は、長年この研究を続けている。同ブランドのライン〈オーロラコレクション〉を例に、そのサステイナブルな取り組みについて解説します。

かけがえのない星を守る仕組み
クレイドル・トゥ・クレイドル™️

2019年、リユースできるタイツを仕立てる〈ウォルフォード〉の〈オーロラコレクション〉が、テキスタイル業界では初めてとなる「クレイドル・トゥ・クレイドルTM (以下C2C)認証」でゴールドを獲得した。

「C2C認証」とは、日本語に訳すと「ゆりかごからゆりかごまで」。ゆりかご(地球)の資源をずっと再利用し、ゴミと汚染物を発生させない仕組みだ。その製造法を実践する企業やプロジェクトに付与される。

1990年代にドイツの環境保護促進機関「EPEA」と、同国とアメリカの科学者らによって提唱され、30年を経た今、欧州と米国を中心に広まりつつある。ちなみに、2015年にEUが発表した「サーキュラーエコノミー (=循環する経済)」の礎にもなっている。これまでの環境保全やサステイナビリティのからくりは、廃棄物の〝抑制〟が目標であるため、ゴミや温室効果ガスを減らせても、ゼロにはできないのだ。

C2C認証では持続可能性を「原材料の健全性」「原料・部品のリユース」「自然エネルギーの利用とカーボンマネージメント」「水管理」「社会的な公正さ」といった5つのカテゴリーで見極めている。達成度に応じてベーシック、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナの5段階で評価。

ウォルフォードは、環境にストレスを与える製造法や、トレンドの潮流から外れた服が大量に廃棄をされている現実に一石を投じるべく、C2C認証にいち早く着目。製品開発チームのアンドレアス・ローリッヒを中心に、2012年から地球に優しい繊維の研究を始めたのであった。

肥料となって豊かな土壌を育む
植物由来の製品が生まれるワケ

では、ここでオーロラコレクションをもってC2C認証の定義を解説していこう。

まずはVer. 1の土に還る「生分解性サイクル」。オーロラコレクションでは、ブナ材から抽出された「テンセルTMモダール」と独Inogema社の変性油性ポリマー「Vinatur®」、伸縮性に富みかつ有害物質を出さない〈ROICATM〉の糸「V550」でプルオーバー、レギンスなどを仕立てる。

ユーザーの手に渡り、役目を終えたら回収される。バクテリアや菌類によって分解され、土壌の肥やしとなり、植物を育て、新しい材料を生む。繊維の開発は一種にとどまらず、2020AWには1 0 0 %生分解性のメリノウールを発表した。

ちなみに、天然素材であっても、漂白や染色の過程で有害物質を用いて加工されていると、生分解ができない。これまで環境への配慮を省みずに享受してきたポイントを、クリーンにする努力が重ねられている。

Ver. 2の素材を分離・再生する「技術的サイクル」は、はき終えたタイツを回収後、生地を解く。新しい糸に生まれ変わって、また次のタイツを作る。Ver. 1と同じ糸・V 550と海洋魚網やナイロンの廃棄物を混ぜたポリアミド繊維「Econyl®」を採用(2021年4月時点では日本に直営店が存在しないため、取り扱い店舗を通じて回収を行う予定)。

そして、C2C認証の対象は素材のみにあらず。製品を編む機械のオイルも環境汚染を引き起こす成分はNGとされるため、一から見直した。着実に駒を進め、スカートやワンピースなども発表。2025年にはラインナップの50%をC2C認証へ切り替える方針だ。

EU屈指の環境先進国
オーストリアのマインドを反映

ウォルフォードが拠点を置くオーストリアは国土面積の約47%を森林が占めている。

ヨーロッパでもっとも緑が豊かな地には、紀元前より人が住み、自然を敬う暮らしを送ってきた。その心構えは21世紀の現在まで脈々と継がれ、EU諸国で初めて全電力と熱を再生可能エネルギーで賄うことに成功した自治体もある。

エコフレンドリーの精神が根底にあるウォルフォードが、環境保護に乗り出すのは必然であった。だが、オーロラコレクションが誕生する3年前まで、原材料、製造といったあらゆる面で準備が整っていなかったそうだ。

100年先もこの美しい星とアパレル産業が存続しているために、繊維の生産者からデザイナーまで、携わる者たちに環境に配慮した素材とラインの開発の重要性を説いた。

そうして2018年にオーロラコレクションがデビュー。時を同じくして、モードの現場でも〝サステイナビリティ〟が声高に叫ばれるように。

そうして、今や業界の大きな柱になりつつある。先駆者でもあるウォルフォードはC2C認証を獲得してもなお、生産プロセスの持続可能性を高めていくために、新しい方法や技術を模索する日々だ。地球を犠牲にせずに、服やタイツをまとう人の心までも豊かにしていくために。

〈ウォルフォード〉製品のポイント


水源豊かなボーデン湖畔で創業

国内では〝永遠の庭園〟と呼ばれる風光明媚な町で、レインホルド・ウォルフとウォルター・パルマーによってスタート。当初は繊維や生地の生産を行っていたが、高度経済成長によって活況を呈す欧州市場をターゲットに、メリヤス事業を展開。1959年よりボーデン湖の貯水池の近くに生産工場を設立。直後から染色によって出る廃水を暖房システムに利用している。湖の水質を守る活動に、国も力を注いでいるようだ。

次世代へつなぐ〈オーロラコレクション〉

経済を潤すための生産活動が尊い自然を壊すだけでなく、資源の枯渇も招いている。犠牲の多い産業の構造を覆すために、革新的な概念を具現化。2018年冬に「オーロラ(=新しい始まり)」の意味を込めて、生分解性のレギンス、原材料を無限に再生できるタイツを発表した。また、循環する生地で仕立てたアイテムの中には、自分の好きな丈に裁断できるカットソーもあり。アイテムは徐々に拡大中。

デザイナーとエンジニアチームワーク

ブレゲンツの本社ではデザイナーに、技術面のアドバイスができるエンジニアが常駐する。両者がコミュニケーションを重ね、ミニマルなデザインを際立たせながらもC2C認証をクリアする素材を調達している。各セクションの連携がスムーズなため、新しいアイデアや挑戦する心が湧くそうだ。たとえば、3Dプリント技術を駆使したインナーの開発なども、風通しの良い環境から生まれた。

2025へ向けて進む

4年後にはアイテムの50%をC2C認証へと切り替えていくことを表明。ラインナップの割合が増えていくにつれてゴミは減る。その代わりに肥沃な大地は広がり、別次元での循環も期待できそうだ。また、不要品の回収によってサイクルが成立するため、愛用者とは顔の見える付き合いも始まり、つながりはいっそう強固に。持続可能な生産方法は新たなビジネスモデルと暮らしの在り方を提示している。

ヘルシーな地球でファッションを楽しむ未来

〈ウォルフォード〉が見据えるのは、子どもや孫の世代が変わらず、モードを謳歌できる状況だ。海洋プラスチックの大量発生や温室効果ガスの排出は私たちの活動に原因がある。ならば、解決策を練る責任があるということで乗り出した。C2C認証に先立って2015年には繊維業界における持続可能なサプライチェーンを経た製品に付与される「ブルーサイン®」も取得。巡ることが大前提となる世の中は、もう目の前だ。

GINZA2021年5月号掲載

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