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手術時、好きな「BGM」をリクエストできる病院があるって本当?

  • 2021.4.24
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BGMをリクエストできる…?
BGMをリクエストできる…?

新型コロナウイルスで医療機関の状況に関心が集まっていますが、病院で行う大切な医療行為の中に「手術」があります。「手術をする」というと、病気やけがの中でも深刻な状況が想定されますが、病院によっては手術の際の「BGM」をリクエストでき、自分の好きな音源を持ち込むことができるところもあるとのネット情報があります。

SNS上では「(猫がたくさん出てくる)CMソングを流してもらった」という体験談や「お笑い系の歌でもいいんだろうか」といった疑問の声もあります。手術の際にBGMを流すことがあるというのは本当なのでしょうか。医療ジャーナリストの森まどかさんに聞きました。

ホームページ記載の病院も

Q.手術の際、BGMを流すというのは実際にあることなのでしょうか。

森さん「珍しいことではないようです。日常的に手術を担当する外科医に話を聞いたところ、『いつも音楽を流している』と答えた人もいますし、医療機関の中には、ホームページ上で手術室内でのBGMについて記載しているところも複数あります。その一つである仙台市のJR仙台病院は手術室が5室あり、年間1200件以上(2017年実績)の手術を実施していますが、2000年から全ての手術でBGMを導入しているそうです。

また、愛媛県新居浜市で眼科医院を開業する弓山真矢医師は『医療にもサービス精神が必要』という外部講師の意見がきっかけとなり、『20年前から、外来診療や手術の際にBGMを流している』と言います。また、私自身が手術を受けた際にも音楽が流れていましたし、手術を受けたことがある友人に聞いても、何人かは『BGMが流れていた』と話していました。

一方、『音楽はかけていない』という医療機関も多数あります。BGMを流すかどうかは手術の内容や手術にかかる時間、その医療機関の1日の手術件数等によっても傾向が変わると思います。つまり、手術時にBGMを流す医療機関もあるが、そうではないところも多いというところでしょう」

Q.BGMを取り入れている医療機関では、なぜ、BGMを流すのでしょうか。

森さん「前出の弓山医師はその理由として、『手術中、患者さんの気持ちに少しでも寄り添いたいと思っているからです』と話しています。手術室は独特の雰囲気であることに加えて、医療機器のモーター音や操作の音、心電図や血圧等を測定するモニター音、あるいは医師と看護師の会話など、患者にとって聞き慣れない音が響く空間です。

BGMを流すのは患者の入室時の緊張をほぐし、心を落ち着かせるため、局所麻酔で手術を受ける患者の意識を紛らわせるためという理由が多いようです。『局所麻酔の際は、意識がある患者さんと医師がBGMの話題で会話することもあり、それがきっかけとなって手術中に必要なコミュニケーションが取りやすくなっているケースがある』という意見も聞きました。

また、『医療スタッフの士気を高めるためにもBGMを流している』という医師もいます。長時間の手術において、集中力を切らさないことは重要で、『音楽が流れていると手術のリズムを取りやすい』と言う外科医や、『集中度が高い顕微鏡下での手術中は音楽が鮮明に耳に入り、リラックスと同時にさらに集中力が増す』と話す脳神経外科医もいました。看護師からは『緊張の中にも緩和される部分ができ、支えられます』という声も上がりました」

Q.BGMを流す場合、どのようなタイミングで流すのでしょうか。全身麻酔がかかっている間は、患者さんは聞けないと思いますが…。

森さん「患者のリラックス効果を目的にBGMを流す場合は入室のタイミングで流すようです。入室してから麻酔がかかるまでは医療機器を装着したり、処置をしたりとさまざまな準備が着々と行われ、手術台の上で不安な気持ちになったり、緊張したりする人が多いからです。入室時の音楽は、そうした不安な気持ちを和らげる効果につながっているようです。また、局所麻酔で行う眼科手術等では、手術中も患者の緊張をほぐすためにBGMを流しているようです。

一方、手術を担当する医療スタッフにとっての効果も目的としている場合は、準備段階から手術が終了するまで流しっ放しにしているのが一般的なようです」

Q.BGMが手術中の医師や看護師の会話の邪魔になることはないのでしょうか。

森さん「もちろん、安全管理が第一なので、手術中の指示や連携の妨げになったり、集中の妨げとなったりするような音量や曲は当然避けているようです。私が取材した医療機関の中には『BGMを取り入れてみたが、医療スタッフ内で“うるさい”という感想が多く中止した』と話すところもありました」

Q.手術を受ける人のリクエストを受ける病院もあると聞きます。実際にあるのでしょうか。

森さん「あります。『ある特定の曲が年代や性別を問わず、全ての人にリラックス効果を与えるわけではない』という理由から、本人が持参したCDをかけたり、患者がリクエストした曲を手術前にかけたりするといった取り組みが実際に行われています。例えば、JR仙台病院では有料BGM用音楽配信サービスを導入していて、チャンネル表から希望の曲を選択してもらうそうです。

患者からの希望が特にない場合は好きな音楽のジャンルを事前に聞き取った上で、好みに合う曲を流すという医療機関もあります。昨年手術を受けた友人は『好きなピアニストの曲をリクエストし、インターネットで検索してかけてもらった』と話していました。

弓山医師によれば、曲をリクエストする患者は『3割くらい』だそうですが、顔全体を覆われて、視覚を失う眼科手術中は聴覚がより研ぎ澄まされるため、『耳から少しでもなじみのある曲が入ることによって、極度の緊張状態から解放されているのではないか』と音楽の持つ潜在的な効果を実感しているそうです。

広島県三次市の市立三次中央病院では『CS(患者満足度)向上推進活動』として、手術室のBGMを患者のリクエストに応じて流すという試みを2012年に実施しました。看護師が選曲していたそれ以前と比較して、『うれしかった/よかった/リラックスできた』という評価が23%から44%に増加するなど、年齢に関係なく、患者の好きな音楽によってリラックス効果が得られることが分かったと、希望に応じた音楽を取り入れることの意義が報告されています。病院にお聞きしたところ、この取り組みは現在も継続しているそうです。

しかしながら、リクエストを患者に聞いたり、手術前にCDを預かったり、返却したりといったコミュニケーションは患者と接触機会の多い看護職が担うことが多く、医療機関にとっては負担が増す面もあります。現場のマンパワーによっては導入しない医療機関があるのも当然だと思います」

Q.リクエストする曲は何でもいいのでしょうか。例えば、ヘビーメタルのような激しい音楽、「終わり」「別れ」等の歌詞が入った悲しい歌、集中力がそがれるような笑える曲でもよいのでしょうか。

森さん「基本的には患者本人の希望に沿うケースが多いと思いますが、手術をスムーズに進めることの妨げになるような曲は除外されると思います。歌詞のことについていえば、インストゥルメンタル(器楽曲)だけでなく、歌謡曲や演歌など歌声が入った曲も問題なく流しているようです。時には落語や般若心経、賛美歌、自分の歌唱を録音したものなどをリクエストされることもあるそうです。ただ、実際に執刀する医師に聞くと『長めのクラシックは眠気を誘うので苦手だ』という声もありました」

Q.手術の際のBGMとして、おすすめの曲やジャンルはあるのでしょうか。

森さん「特に何がいいということはなく、本人が聞き慣れた曲や好きな曲はリラックス効果が高いようです。患者さんから特に希望がない場合はオルゴール、ピアノやバイオリンなどで演奏される『イージーリスニング』と呼ばれる音楽は聞きやすいのではないかと思います。手術を受ける患者の年齢によっても好みの傾向が異なるので、そうした配慮も必要です。

手術を担当する医療スタッフにとっても聞き慣れた曲がよいと思われます。人それぞれと思いますが、例えば、先ほど紹介した『クラシックが苦手だ』と話していた医師は『J-POPでも洋楽でも、知っている曲がどんどん流れるのが理想』だそうです」

オトナンサー編集部

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