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お寺でコーヒー?街をゆるくつなぐ「ゼンガクジ フリー コーヒースタンド」

  • 2021.4.23
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美味しいコーヒーがあるところには人が集まり、自然と交流が生まれ、コミュニティができる。そんな光景は、今や街なかのスタイリッシュなコーヒーショップやカフェだけにとどまらない。“お寺”に週末だけ現れる「ゼンガクジ フリー コーヒースタンド」は、地域の住民たちが「だんらん」を楽しみにゆるく集まる、憩いのスポットだ。

2008年の日暮里・舎人ライナーの開通を機に、土地開発が大幅に進んだ足立区・舎人駅周辺。多く残っていた田畑から、新築の戸建てが建ち並ぶのどかな住宅地へと一変した街の一角で、週末に1日だけ現れるコーヒースタンドが「ゼンガクジ フリー コーヒースタンド」だ。

名前の通り、そのコーヒースタンドがあるのは「全學寺」という“お寺”の敷地内。駐車スペースにおもむろに建てられたテントがどこか屋台のようであり、なんともいえない手作り感がアットホームな雰囲気を醸している。ゼンガクジ フリー コーヒースタンドは、ここでなんと無料でスペシャルティコーヒーを提供している。

仕掛け人は、全學寺の副住職である大島俊映さん。元バリスタの「むっちゃん」こと、妻の睦美さんが嫁いできた際、彼女がお寺の中で活躍できる場をつくろうと思ったことがそもそものきっかけだという。

掲げたコンセプトは「地域だんらん」だ。農地を造成してつくられた比較的新しい住宅街であるこの辺りには、街にゆかりのない若い世代も多く移り住んで来た。一昔前のように、街で起きたことがすべて筒抜けになるような親密さは今の時代にはそぐわないかもしれないが、「隣人の顔も知らない」「挨拶をしない」などという希薄な関係もけっして暮らしよいとはいえない。「そのちょうど真ん中くらいの『ゆるくつながる』コミュニティができれば」と、俊映さんは話す。

「コーヒー」が「無料」であることこそが、ミソ

この日、「コーヒー飲んで行きますか?」とお寺の前を通る人々に声をかけていたのは、育休中のむっちゃんに代わりバリスタを務める「ゆっち」こと、ますだゆりかさんだ。4月から「YUCCHI COFFEE」としてゼンガクジ フリー コーヒースタンドをプロデュースし、「THE ROASTERY by NOZY Coffee」から仕入れるスペシャルティコーヒーをハンドドリップで振る舞っている。

テントの中に設けられたベンチには、入れ代わり立ち代わりさまざまな顔ぶれが集まっていた。散歩がてらに訪れた近くの住民や全學寺への参拝客、大島夫妻の友人、ゆっちの家族……。皆コーヒーを手に、居合わせた人同士はもちろん、むっちゃんやゆっちと和気あいあいと会話を楽しんでいる様子は、まるでどこかの待合所のよう。

俊映さんが「街をゆるくつなげる」ためのツールとしてスペシャルティコーヒーを選んだのには理由があるという。
「コミュニティづくりには、人が集まるための“入り口”が大事。それを果たしてくれるのがスペシャルティコーヒーだと思ったんです。同じコーヒーでも適当なものではダメで、多くの人が親しめる上にきちんと価値があるものでなければ、入り口にならない」

そんなコミュニティツールとしてのコーヒーの力を、身をもって経験していたのが妻のむっちゃんだった。自身がカフェを巡ったりバリスタとして働いたりする中で、1杯のコーヒーをきっかけに客とバリスタ、客同士の交流が生まれる様子を目の当たりにしてきた。
「これがコーヒーが好きな理由のひとつです。お寺なので日本茶も考えましたが、いろんな産地のコーヒーを紹介したり淹れるところを見てもらったりすることで、初対面の人でも気軽にコミュケーションがとれるのは、やっぱりコーヒーならではの魅力」

一方で、無料にこだわったのは俊映さんの方。お賽銭をもらう、100円で提供するなどの案も出たというが、断固として折れなかったという。そのワケは、みんなが“フラット=水平・平等”な関係であり、多くの人と関われて誰もが楽しめる場所であることを大切にしたかったから。確かに、たとえ少額でも金銭の授受があると、否が応でもヒエラルキーや責任が生まれてしまうだろう。「僕たちはコーヒースタンドを通してコミュニティを運営している立場であると同時に、このコミュニティの一員でもある。だから僕たち自身も心から楽しみたいし、いろんな人に立ち寄ってもらって、みんなとフラットでいたい。『お客さんと店』という関係ではなく、同じ街に住む仲間や友達、そんな感覚ですね」

おもしろいことに、無料でコーヒーを振る舞っていると、街の人の方からお菓子を差し入れしてくれたり、何かを助けてくれたりするのだそう。かくいうバリスタのゆっちも、もともとはゼンガクジ フリー コーヒースタンドにコーヒーを飲みに来ていたひとり。コーヒースタンドを手伝うようになり、むっちゃんが産休・育休に入るにあたってこの場所を引き継いでいる。

助け合いがあれば、裕福じゃなくても豊かに暮らせる

一見、無縁の関係にも思える「お寺」と「スペシャリティコーヒースタンド」。しかしそれは、お寺が担う役割のひとつ「街のコミュニティづくり」へと、確かにつながっている。都心と地方、産業の中でも業種によって格差は広がる一方だが、暮らす街にコミュニティがあり、そこに助け合いが生まれれば、たとえ経済的に裕福でなくとも豊かな暮らしができると、俊映さんはいう。

性能がいいから、便利だから買うのではなく、あの人がつくるものだから買う、あの人がいるから店に行く。そんな「ゆるいつながり」が少しずつでも広まっていけば、みんなが暮らしよい街になるだろう。「いろんな人にコーヒースタンドに来てもらって、ここで出逢った人とまた新しいコミュニティをつくって、横断させて、つながりをどんどん大きくしていきたいですね」

全學寺への参拝がてら、ゼンガクジ フリー コーヒースタンドに立ち寄って、むっちゃんやゆっち、街の人と気軽に話してみよう。ここで待ち合わせするのも、ぜひおすすめしたい。一緒に笑ったり助け合ったりできる「ゆるいつながり」の仲間になれば、何気ない普段の生活がちょっと充実したものになるはずだ。

編集部注釈:営業日は週末の土日どちらかになります。また、緊急事態宣言などの社会的情勢も踏まえ、営業日時は公式WEBまたはInstagramをご確認ください。

取材・文:RIN

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